27 赤森京子「結婚!?」
こんにちは。赤森京子です。
今日はお母さんと買い物に来ています。
僕のお母さんは病院で看護師をしているので、休みは平日になることが多いです。
珍しくお母さんから誘われて、僕もたまたまオフだったのでオッケーして今に至ります。
まずはお母さんが着たい服が入ってるショップに向かって歩く。
隣で僕より少しだけ背の高いお母さんを見ながら思う。
お母さんは若くして僕を産んだので、まだ三十代で、今も綺麗だ。
さっきも僕が目を離した隙にナンパされて、非常に上機嫌になっている。
女手ひとつで僕を育ててくれて、良き親であり、良き友でもあるお母さんのことを、僕は尊敬してるし大好きだ。
アイドル活動も心から応援してくれる。ありがたい。
そんなお母さんが楽しそうな顔をしながらこっちをジッと見てきて、言う。
「京子さぁ、好きな人できたの?」
「えぇ!? な、なんで!?」
突然そんなことを聞いてきたお母さんにめちゃくちゃ動揺してしまう。
「答えを言ってるようなものね。でも好きな人ができたのに言ってくれないなんて寂しいわ」
くす、と笑ったあと、少しだけ拗ねたような顔をするお母さん。
「……むぅ」
自覚してまだ時間が経ってないのに……お母さんに隠し事はできないな。
だけど、確かに最近の出来事はあまりお母さんに話せてなかったことに気づいた。
「長くなるけど、聞いてくれる?」
「もちろん」
ーーーーーー☆彡
二人で雰囲気のいい喫茶店に入って美味しそうなサンドイッチを注文する。
「それで、どんな人なの?」
興味津々といったお母さんがニヤニヤしながら聞いてくる。
さて、どこから話そうかな。
「まずは、えーと、お渡し会の日にさ、ドッキリ配信があってね……」
そう。すべての始まりはドッキリ配信だ。
遥か前に思えるけど、まだ二週間ほどしか経ってない。
それから次の日はかりちゃんと二人で雪見くんに会いに行って、その日の夜にはかりちゃんが彼に告白して。
そして……
「雪見って名前……ってちょっと待って。はかりちゃん彼氏いるの?」
お母さん、はかりちゃんと面識があるのでびっくりしてる。
うん、内緒だよ。
でも驚くのはここから。
そのあと、カラオケで男三人を倒したり、トレトレの配信を阻止したりする雪見くんの話をした。
お母さんは気づいたら向かいの席から隣に移動してきて、僕の肩を抱いていた。
「カラオケでのこと、無事でよかった」
身を案じてくれるのは素直に嬉しい。それに、今更ながら思い出して、少し怖い気持ちになった。
「うん……」
「で、まさかだけど、その雪見くんが好きなの?」
「うん……」
僕はお母さんに目を向けられなかった。
反対される気はしていたから。
「はぁ……仕方ない。お母さんが会って判断してあげる。呼び出して」
「えぇ? それは無理だよ」
たまにお母さんはこういう突拍子もないことを言い出すことがある。
突然アイドルになりたいって言い出した僕も、遺伝子を継いでるとは思ってるけど。
「どうして? 京子は雪見くんと会いたくないの?」
「そりゃ会いたいけどさ……会う理由がないもん」
それに、はかりちゃんに悪いし。
妹の有希ちゃんは、雪見くんがはかりちゃんのことを好きじゃないって言ってたけど、それも今ではどうなのか分からない。
僕ははかりちゃんも大事だし……。
そんなことをぐるぐる考えていると、お母さんが僕のスマホを持っていることに気づいた。
「『今日、僕の家に遊びに来ませんか。美味しい夜ご飯もあります』っと。送信!」
「ちょっと! 何やってるのお母さん!」
お母さんからスマホを取り返す。
うわ、本当に雪見くんにRINE送ってる。
雪見くんからすぐに返信が来た。
雪見【わかった。放課後になるけど】
わわわわわわ。
「お母さん、雪見くん来るって……」
「よし。ついでに有希ちゃんも呼んじゃいなさいな。さぁ買い物はさっさと済ませるわよ」
「えぇ……」
こうなったらお母さんは止まらない。
「悪いようにはしないから安心しなさい。お母さんはあなたの味方よ」
それは嬉しいけどさ。
……あれ、そういえば有希ちゃんの名前って僕言ったっけ?
ーーーーーー☆彡
あの後、お母さんと一緒に選んだ可愛いワンピースを着て、雪見兄妹を待つ。
お母さんは張り切って夜ご飯の準備をしている。
僕は目の届く範囲はなんとか掃除をした。
普段からお母さんの努力で散らかっていないけど、念入りに掃除した。
うーーー。会いたいけど会いたくない。
有希ちゃんとはたまに通話してるけど、雪見くんは久しぶりだった。
お母さんがいるのも何だが恥ずかしいし僕の頭はいっぱいいっぱいだった。
インターホンが鳴る。
はーい! と明るい声でお母さんが出ていく。
もじもじとしながら僕もついていくと、そこには想像してない光景があった。
「うそー! 赤森さん!? お久しぶりです!」
驚く有希ちゃんと。
「ああ、そういうことか」
何だか腑に落ちた顔をしている雪見くん。
「えへへ。そういうこと。京子の母です。いらっしゃい」
「……どういうこと!?」
僕だけが分かってない。本当にどういうこと?
ーーーーーー☆彡
家に上がって、みんなの説明を聞いて僕もやっと分かった。
有希ちゃんは身体が弱くて何度も検査入院を繰り返しているらしい。
それも、お母さんが働いてる病院で。
「雪見兄妹っていえば有名なのよ。美少女の有希ちゃんと、献身的にお見舞いに来るお兄ちゃん」
「えへへ。美少女です」
照れてる有希ちゃんマジ天使。
「まさかお世話になってる赤森さんが赤森の母親だとはな」
「雪見くん、ややこしいから私のことは小夜子って呼んでっ」
何言ってるのお母さん。
「小夜子さん。今日はお招きいただきありがとうございます」
何すぐ対応してるの雪見くん。
「きゃー! うちの若い子たちに自慢できるわ~」
なに雪見くん、もしかして病院でもモテてるの?
モヤモヤするものを感じる。
「お兄ちゃん、じゃあ京子ちゃんも下の名前で呼ばなきゃね」
え。有希ちゃん最高のパス。心臓が高鳴る。
「そうだな」
「…………」
…………こっちはすぐ対応しないんですか!?
そのあと、お母さんが用意してくれたご飯をみんなで食べる。
なんか、この家で食べるご飯がこんなに賑やかで楽しいのは初めてかもしれない。
有希ちゃんは当たり前のように楽しく場を盛り上げてくれるし、雪見くんも思った以上に明るく振る舞っていた。
正直もっとクールだと思っていたんだけど。意外だ。
美味しいご飯を食べ終わったあと、お母さんと有希ちゃんは食器を洗いに行った。
「京子は雪見くんと部屋でアルバムでも見てきたら?」
お母さんがそう言って、有希ちゃんは後ろで天使のウインクをしていた。
なにそのコンビネーション。
なので、今、自然な流れで、僕の部屋に雪見くんと二人です。
……冷静になるとやばい。
「そ、それにしても、びっくりしたね。お母さんと知り合いだったなんて」
どこか上ずった声が出てしまう。
だって、僕がいつも寝てるベッドの横に雪見くんが座ってるんだもん。
「ああ、世間は狭い」
雪見くんはこんな状況でも冷静。でもどこか楽しそう。
「今日の雪見くんってなんか機嫌いいね」
ちょっと聞いてみた。
「……たぶん、この家の雰囲気が良いからかも。俺、母さんが亡くなってから、こんなに楽しい夜ご飯は初めてかもしれない」
薄く、はにかむように笑う雪見くんは儚かった。
「そっか。僕も楽しかったから同じ気持ちで嬉しい」
お母様が亡くなっているのは有希ちゃんから聞いていた。
でも、雪見くんの表情で、どれだけ愛していたのかが分かってしまった。
母を喪う悲しみはどれほどだろう。
急に切なくなった。
胸が締め付けられる。
「今日はありがとう……京子」
だから、少し照れたように僕の名前を呼ぶ声に誘われて、もうだめだった。
「……うん」
そっと、雪見くんの頭を胸に抱きしめる。
雪見くんはされるがままでいてくれた。
ーーーーーー☆彡
二人が帰ったあと、お母さんとお茶を飲みながら会話する。
たった数時間いただけの兄妹がいなくなったことで、家全体が急に寂しくなった気がした。
「で、いつから気づいてたの?」
「珍しい苗字だからまさかと思ってたけど、有希ちゃんの名前出しても京子が否定しなかったから確定って感じ」
「もう、先に言ってくれたらよかったのに」
お母さんはサプライズ~と頭を振りながら歌っている。もう。
「あ、それとお母さんの試験は満点合格です」
「へ?」
あ、そういえばお母さんが雪見くんを判断するという話だった。
まだ生きてたのねその話。
「雪見くんは良い男だし有希ちゃんも可愛いし完璧」
「でもお母さん、雪見くんは彼女いるから……」
「京子、きっと雪見くんは愛情に飢えてる気がするわ。それに、想像してみて。雪見くんがいて、有希ちゃんがいる生活を」
想像してみる。
有希ちゃんと一緒にご飯を食べて。
寂しくなった雪見くんを僕が癒して。
「……良いかも」
「でしょ。頑張って雪見くんと結婚してちょうだい。彼女がいるなんて些細な問題だわ。結婚してしまいなさい」
「結婚!?」
「そりゃ一緒に生活するなら結婚でしょ」
たまにお母さんはこういう突拍子もないことを言い出すことがある。
突然アイドルになりたいって言い出した僕も、遺伝子を継いでると思う。
……だから、満更じゃなかった。
付き合ってもない人との結婚生活を夢見る僕って変ですか?
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あとがき
最近更新サボってる上に本筋が進まなくてすみません!
カクコンに応募したので★やフォローいただけると嬉しいです!
読者選考突破して漫画にしてもらうことが夢です!
更新頻度上げて面白い物語書けるように頑張ります!
どうかよろしくお願いします!!
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