第24話 能力の使い方? 

 「あ───っ!先生何してるんですか!俺もまぜてっ!」


 ケーキのショーケースを覗いていた男女二人に気づいた俺は、速攻で待避所から飛び出した。


「先生、自分だけなんてズルいっ!」

「何か私がいやしい人みたいなじゃない、田中君。それにきみさっき、3種類ぐらい食べてなかった?」

「おいしいケーキは別腹なんですよっ!お持ち帰りならなおバッチコイです!」


 甘党男子の勢いに押されて、好きなだけ選んでいいよ。とフローラル君事一条が伝えると「え、ほんとに?好きなだけ?ホントに?ぜったい?あとから話が違うとか言わない?」とくどいほど確認された。

「ええ、どうぞ。全種類そろえるとか、ワンホールとかにしますか?」と星崎が冗談交じりで言ったら、彼はわかり易くパアアァと顔を輝かせた。─────あれ?本気まじ


 その後、本気になった高校生のオーダーに、ショップの店員は怒涛のパニック状態に陥った。

 次々と梱包される為にショーケースから取り出されるワンホールケーキ「え~とそれから~」とさらにオーダーしようとする高校生。店員は総動員を迫られた。

 さらにチラッチラッと「いいのか?いいのか?大丈夫か?」と自分達大人に店員達の視線が刺さった。


「田中、さすがに多いだろ?」

「日持ちしないよ?」

「味も落ちちゃうし」


─────ナイスだっ!


「え?空間収納すればいいんでしょ?大丈夫だよ」


‥‥‥‥うん、わからない単語が出た。星崎も俺と同じ気持ちだろう。


「委員長『認識阻害』よろしく」

「しょうがないな。後でわけろよ」

「‥‥‥‥」

「分・け・ろ・よ」


 妙な気配が広がった後、ブツブツ言いながらも彼は大量に並べられたケーキボックスを、手品のように一瞬で消した。

 これが空間収納‥‥‥‥。


「なんという使い方‥‥‥‥」

「『収納』ってそう使うもん?」

「え?大事じゃん。ケーキ」


さも当たり前だろ?という顔の彼に、後の三人は呆れた顔をしていた。


「ありがとう~ございました~。それでは、さよ~なら~」


 幼稚園児の挨拶リズムで、タクシーから手を振るすこぶるご機嫌の男子高校生。

 軽く片手をあげて返事をする二人に、ブンブンと手を振り去っていった。

 行く先別でタクシーを分乗したが、ちょうど男女別で二台に別れた。

 女性陣の乗ったタクシーからは、会釈とニヨニヨ顔の女子高生が、「んふふ」と手を振っているのが見えた。あの子可愛いのに‥‥‥‥。

 何とも言えない表情で、二台のタクシーを見送った。

 本当は自分達の車で送ろうとしたが、本部から至急こっち来いやっ!というブチギレの連絡が来たので、断念してタクシーとなったのである。


「先生の連絡先、ちゃんと教えてもらえたんですか?」


 ドヤ顔でスマホを見せてやったが。


「特製弁当と引き換えでしたよね?」

「ケーキも追加しちゃったぞ!」

「経費ですよね?なんでドヤ顔なんですか?」

「これで住所が解れば‥‥‥‥」

「今のご時世だと、ストーカー扱いされますよ」

「‥‥‥‥それもあれか」


 そんな自分達も早く移動してくれと、部下からせっつかれた。


「自分だって高校生相手に、たじろいでたじゃん」

「‥‥なんだかもう今日はいろいろ疲れました。帰っていいですか?」

「え?俺一人にするの?泣くよ?」

 

 爺どもの相手はいやだわ~、と駐車場の方へ移動する。

 

 高校生相手に、いろいろ疲れた。

 真面目で硬そうな委員長と呼ばれていた二階堂君という子は、わりとすぐに連絡先を教えてくれたが


「日月火曜日と金土曜日は連絡くれても一切返事しませんから、それでよろしければどうぞ」


─────え、何それ。今日木曜日。彼的には今日はセーフ?高校生だから塾でスケジュールが一杯とか?


「委員長、火曜日増えてるじゃん。推しアニメ増えたの?」

「───ふふ、今期一番の推しかな?」


 キラリと光る眼鏡をクイックイッとしながら、「何といってもだな~」となんか一人で早口語りが始まったが、この事態に慣れているのか、ハイハイハイと田中君に連れていかれた。

 次は、七瀬と名乗る女子高生。彼女は笑顔全開で、「写真を撮らせてほしい」と、めっちゃ笑顔で来た。が、目の奥が怖い。何だか怖い。笑顔なのに本能的に背中がぞくぞくする。「SNSとかは困るんですけど‥‥‥‥」とごく普通の答えをしたが、「他人と分け合うなんて、そんなもったいない事しません!」とちょっとよくわからない返事が返ってきた。


「七瀬さんの個人鑑賞アルバム用ですよ。あきらめてください」


 ひょこっと脇から現れた田中君に、トンと肩を押される。「なに、を」思わずふらつくと背後にいた一条にぶつかった。「田中君。ナイスっ!」「何?どうした?」

 嬉々とした声と共に重なる連写音。何事かわからない一条と、「すんません生贄になってください」と恐ろしいことをつぶやきながら、手を合わせる高校生がいた。


 女子高生の連絡先を手に入れた。


 文字通りだと何だかマズイ感じなのだが、自分としては色々なものを失った気分で‥‥‥‥。「気にすると喜んじゃいますよ」とまたなんか忠告された。いまの女子高生って、こんななの?こわい‥‥‥‥。


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