第23話 高級弁当は最強?

 用意された紙袋片手にエレベーターの扉が開くのを待っていると、階下に近づくたびに纏わりつく冷気に気づく。

 なんだ?と思った瞬間、到着音と共に扉が開く。


「─────え?何、これ」


 扉の向こうは異世界でした。と思うほど尋常じゃない冷気に包まれてました。

 生易しい話ではなく、真面目に凍りつきそうだし圧も感じる。何これコワい。

 ここ、こんなだったっけ?


視線の先で星崎がへばっているのが見えた。あいつは感じやすいタイプだから、コレはかなり堪えるだろう。

それより他の高校生三人だ。こちらに気づくなり、身振り手振りジェスチャーであっちあっちと指をさす。

 

 ─────うわぁ、ちょっと何あれ。どうしたの


『 アレ 何とかしてっ! 俺達学生っ! 無理無理無理無理!』


 解りたくもないジェスチャー&手旗信号が解ってしまった‥‥‥‥。

 彼らの先生のツンドラ気候まで下がったド底辺のご機嫌を、常春の南の島までもって来いという。何これ、ミッションインポッシブルかな?


 『─────でないと、このビル倒壊するよ?』by 田中君


 怖いやめれ。マジで真実性が高いから質が悪い。場がリアルにパリッバリィッっと放電してるのが見える。─────めっちゃ怖わ、コレ。


 ─────ピリィッ! バチィ─────ンッ!


「うわっ!!痛ってぇ !! 」


「なんか静電気出たねー大丈夫ー(棒)」


 わあ、ホントに殺るやる気だあの人。お触りしようとした男の手に、ガチ電流みたいなの流したの見ちゃったよ俺。そして静電気は、そんなヤバい音しないです。

 俺は覚悟を決めて、表向き平和な戦場に乗り込んでいった。

 


 フローラル君事、一条さんがさわやか笑顔を振りまきながらヤバい現場に割り込んでいった。

 頑張れ~~!俺達学生は離れた場所から、盛大なエールを送る事しかできません。


「お待たせ、あれ知り合い? 約束でもあった?」とか言いながら、パリパリした現場にするりと割り込んでいく。

 それだけの事だが、俺と委員長は「あの人すごい」「大人って大変だな」と尊敬の眼差しを送った。


 突然のフローラル君事、一条さんの登場に三人の間には微妙な空気がただよったが、イケメンでスタイル抜群の人物の登場に、わかりやすく相手の女が、媚びを売っているのは理解できた。


 おいあんた、自分の男が隣にいるのに、なに下からウルウル目線送ってんの?

 怖いわ~え?七瀬さん何?ああいうのは同性と異性とでは見せる顔が違うから引っかかっちゃだめ?

 いやいや、俺らだってああいうタイプお断りですよ。まあ、えり好みするほどモテもしませんがね。‥‥‥なにか?


 急速に先生の圧が消えて、冷え冷えモードが解除されました。


 おお!やった、やるじゃんっ!と先生の方を見たら、先生は目の前にいる人達ではなく、彼の手にいくつもぶら下げられた紙袋に注意が向いているようで、周りの事などどうでもいいくらいガン見だった。


「あの紙袋、何入ってるんだろ?」


 俺の疑問に、復活した星崎さんが答えてくれた。


「本当はお礼にお食事でもと思ったんですが、あなた方が学生なので、このビルに入っている店にテイクアウト用で『黒毛和牛の特上ステーキ弁当』を用意してもらったんです」


─────それが入ってます。


 袋の中身に、先生の興味がメッチャむいちゃってる。

 どうやら、中から非常にいい匂いがしてると思われる。


─────我々は黒毛和牛の弁当に救われたのだ!黒毛和牛 万歳!


 先生フェードアウトの中、相手の男を笑顔でやり込めるフローラル君は、とてもスマートな態度に見えた。

でもあれだ。上から見下ろされ、さらに誰もが一目でわかる足の長さ。あれ隣に立ちたくないわ~。

 そんな事を思っていると、フローラル君は何を言ったのか、相手の男は顔色がわかり易く青くなり、魂が抜けたみたいになった。


 それを契機に「失礼するよ」と一言言い放ち、さりげなく先生をその場から引き離す事に、フローラル君は成功した。

 

 おお、エスコートなんか初めて見たよっ!カッコいい大人の人がやるといいね!すっごく絵になるよ!

 

「まあ、エスコートという名の捕獲だけどね」


 しぃ~~っ委員長!それ言っちゃダメなやつ!


 悔しそうな顔と、青を通り越して白になった二人を背後に見やり、再起動した先生はメッチャ笑顔全開になった。


「うははははは。なるほど、ちょっと気分ええわ」


 先生、心の声がだだ漏れしちゃってます。 


『 ピロン♪』


 突然俺の『神フォン』が鳴った。


『柱揺らさないでねって伝えてね?』


 柱揺らし発言は聞かれてた(?)らしい。

 神様たちはどこまで自分たちをチェックしているのか、ちょっと不安になるのであった。

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