たまには?出張

第10話 出会い?

 ─────しくじった。

 いつもはそんな下手はしないのに、今日は何故かソレに意識を合わせてしまった。

 今日に限って、いつも付き添いの星崎もいない。

 意識が飛びそうになりながら、かろうじて近くにあった電信柱に寄りかかった。

 内ポケットからスマホを取り出して、連絡を入れようとするが、どうにも意識が朦朧として手がおぼつかない。


「‥‥‥‥マズイ」


 意識が軽く飛んで、とうとう地面にへたりこんでしまった。

 こんな事態になるのは何時ぐらいぶりか、自重じみた笑いを浮かべ、とうとう地面に転がってしまう。


「マジでヤベーかも‥‥‥‥」



 一日の仕事を終え、佐藤綾香はイライラとしながら帰宅の途についていた。

 薄暗い路地の中、ヒールの音だけがイライラ度合いを表しているように、カッカッとやたら周りに響く。


 それは街頭の明かりにかろうじて照らされた─────『何か』


 うねうねと得体の知れない黒いそれは、地を這い触手をいくつも伸ばしながら、その先をこちらに伸ばし───


 ─────パアァン!


 鞄の一振りで蹴散らかされた。

  一旦散らかった触手は、またいくつかに固まりこちらに伸びてくる。


「鬱陶しい、邪魔。 『爆 光 炎』!」


 ウォンと一気に眩しい魔法陣が地上に走り、その眩しすぎる光に黒い『何か』は一気に弾き飛ばされる。


「ちょっとぉ~。二階堂君の技、眩しいじゃない」


 けっ、と軽く足蹴にされ、わずかに残った残骸も霧散する。

  そして何事もなかったかのようにヒールの踵を鳴らしながら、彼女は夜道を歩き去った。


  「‥‥‥‥は?なに?いまの」


 いろんな『物』から解放された「彼」は、本格的に意識を手放した。



「ちょっと、田中君いる?」


 一時限目前に、教室のドアをから佐藤先生が顔を出した。


「せんせーおはよー。箒ならちゃんと返しましたよ」


 俺は廊下側の席なので、座ったまま佐藤先生に向かって手をヒラヒラさせた。


「それじゃないわよ、一押し推薦の話はどうなってるのよ」


「え?それを俺に言われても」


 先だってのご褒美に、神様一推しのイケメンを先生に紹介してくれるって話だったのだ。が、しかし。


「あれから二週間ぐらいたつんですけど」


「いやそれ、俺に言われても‥‥‥‥」


 チッ。同じセリフ繰り返しやがってオーラが先生から立ち上る。───え?理不尽。

 俺何も知りませんし、してません。


「だって先生宛のご褒美なんすから、俺が知るわけないですよね?────ていうか俺らの前に、突然男の人が現れたら、普通に引きますよ。急にどうしたんすか」


 それもそうよねと言いつつ、先生は昨日の出来事を話した。


「大学の同級生の結婚式の追加連絡があってね」


「はいはい、例の件ですね」


「どうせ男もいないんだから、三次会まで付き合いなさいよね。とかっ!上からマウントとられたんですけど─────っっ!」


 昨日の会話を思い出したのか ムキィっ─────!となる先生に「予鈴鳴ってます」と二階堂委員長が冷静に突っこむ。「なによ~聞いてくれてもいいでしょ~」といい大人がごねるごねる。しかも女子達は先生寄りだ。


「ちょっと『神メール』で聞くだけ聞いてあげなよ」

「どれぐらいで現れるとか」

「そうそう。もしかして、もう出会ってるとか」

「あった途端にパシーンっと雷が落ちるとか」


「え?神様に聞くの?ていうか雷落ちたら死んじゃうからね」


「出会ってないと思うんだけどな~」


 ぶちぶち言ってる先生をよそに俺は『神フォン』で問い合わせをしてみた。うん、こんな事神様に聞いていいのか、ものすんっっっごく気が引ける。が女性陣の圧がこわいです。頼みます神様。


 ほどなく『ピロン♪』と電子音が鳴った。


「───は?」


「なになに?返事来た?」


 ついっと、画面を女性陣に見せた。 


『昨日出会ったはずだけど、駄目だった?結構いい線いってると思うんだけど~ by 大国主』


「─────ん?昨日?」

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