第2話 ハプニング

目を開けると見慣れた天井があった。重い身体を起こして現状を確認する。

家にいるのも不自然だが1番は身体だ。

再起不能の状態だったはずだが傷ひとつもない健康体。倒れた時は助からないと思っていた重体だったはずだが…


「とりあえず村長の所に行って聞いてみよう」


分からなかったら村長。これが一番楽で早く解決するのだ。他人任せな俺はベットから降りて扉を開けた。


外は太陽の光で照らされており快晴だ。この時間なら村長も起きているだろう。

俺の家は村外れにあるので少し時間はかかるが、体が動く喜びを噛み締めながら村長の家に向かった。


家を出て数分歩いていた俺の視界にふと目立つものが映る。

村の外の小さな木の下で人がうずくまっていた。

なぜ結界の外にわざわざいるのだろうか。


「どうした少年大丈夫か?」


心優しい俺は迷うことなく声をかける。見たところ俺より少し年下に見える。

少しすると恐る恐るしゃがんでいる俺に顔を向けた。


「大丈夫です。放っておいて下さい...」


...俺は言葉を失った。少年の目が見たことない色をしていたからだ。

右目は赤色、左目は青色で瞳孔だけは黒色だった。

推測だが見た目のせいでいじめられたに違いない。励まそうと言葉をかける。


「見た目が変わってるからってイジメられたのか?気にするなよ俺は格好いいと思うぞ」


「...貴族の屋敷で働いていたんですが屋敷の主人に気持ち悪いと言われ追い出されました。ここまで歩いてきたので汚れただけです」


想像してたより深刻な内容だった...


「えっと...すまん」


「いえお気になさらず。ではこれで」


少年はふらふらになりながら立ち上がりの魔の森に向かって歩き始めた。


「おい!そっちに何があるか分かってるのか!?」


「分かってます。魔の森ですよね?」


「分かってて何で行く!死にたいのか!?」


魔の森を体験した俺からすれば自殺行為もいいところである。

俺の問いに少年は振り返って諦めたように笑った。

...こいつ死ぬ気か


「お前家族は?」


「知りません。僕は捨て子らしいので」


「なら俺と一緒に暮らそうぜ」


少年は何を言ってるのか分からないと顔に出ていた。


「何故です?見た目が怪しい、正体すら分からない怪しいやつと一緒に住む理由は?」


「俺も捨て子だからだよ」


少年は申し訳無さそうに顔を伏せた。


「すみません。そんなつもりで聞いたわけでは...」


少年の言葉に心配しないように満面の笑みで答えた。


「俺には親代わりみたいなやつもいるから何も気にしてねぇよ。それでどうすんだ?」


俺は右手をさし出して返答を待つ。


「...では迷惑でなければお言葉に甘えるとします」


俺の手を取った少年の顔には先程の諦めた笑顔ではなく何かつきものが取れたように笑っていた。


「俺はリルク。お前の名前は?」


「僕の名前はフィガロです。これから宜しくお願いしますリルクさん」


「これから一緒に住む家族なんだから敬語はやめろ」


フィガロは家族と言われて嬉しかったのか恥ずかしそうにはにかんだ。


「分かったよ。これからよろしくねリルク」


「ああよろしくな!実は今村長の家に向かってる途中なんだ。お前のことも説明しないといけないし一緒に付いてきてくれ」


「じゃあその間に僕のことも色々話しておくよ」


「そうだな。俺のことも歩きながら話すよ」


この間の出来事に続き俺の人生は色々変わった。スキルを得てからハプニングが起き過ぎている気もするが考えすぎだと思いたい。

そんなことを頭の中で言いつつフィガロと村長の家に向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おーい村長ー!いるかー」


ノックしながら大声で呼びかける。家の中で慌ただしい音が聞こえ少し待つと扉が開いた。


「リルクよー!無事だったか!捜索依頼を出しても見つからなかったので心配したぞ!...って誰じゃその子はー!」


素晴らしいリアクションだった。全く騒がしいおじさんである。


「色々聞きたいことと説明したいことがあるんだ。まずは家に入れてくれ」


「儂も聞きたいことだらけじゃい!!家に早く入れぃ!」


村長は俺たちの手を引いてリビングに誘導した。


コーヒーを軽く口に含んだ後に村長が口を開く。


「まず君の事を聞いてもいいかのぉ?」


フィガロは慌てて返事をした。


「フィガロです!!リルクとはその...家族です...」


「家族じゃと!!そんなこと聞いとらんぞ儂は!」


今日だけで驚きすぎて心臓止まるんじゃないか...

フィガロが怯えていたのでフォローに入る。


「まぁまぁ俺から色々説明するから」


俺は家を飛び出してから今に至るまで起こった事を話した。

魔の森に入って死にかけたこと。謎の女性に助けられて何故か何事もなかったかのように生きていること。フィガロとさっき会って家族にしたこと。

村長は衝撃すぎて何度も話してる途中で倒れそうになっていた。

俺は心配です。はい。


フィガロの事も分かってる範囲で話した。

まず親がいないこと。屋敷で働いてからの記憶はあるがそれまでの記憶がないこと。

働いた屋敷では過酷な仕事ばかりで毎日が地獄だったこと。

そして俺も驚いたが目は元々黒色だったらしい。3日前起きたらオッドアイになっていて気味が悪いと言われ主人に追い出されてしまったこと。

そこから王都の屋敷から魔の森まで歩いて迷惑かけることなく死のうとした途中で俺に会ったこと。


まだ小さいフィガロには辛すぎる話である。俺も同じ境遇ならどうなっていただろう...

俺は幸いにも優しい村長が育ててくれたおかげで健やかに暮らしている。

言葉には恥ずかしくて出せないが本当に感謝している。


話を聞いた村長はフィガロの頭を優しく撫でた。


「大変じゃったな...これからはこの村で暮らしたらいい。儂のことは父親と思ってくれてかまわん」


「...ありがとう..ございます.....」


嗚咽混じりに言葉をこぼすフィガロを村長は優しく抱きしめる。

フィガロは子供らしく大声をだして泣いた。これまで辛い思いをした分を吐き出しているように見えた。その間村長は我が子のように優しく頭を撫で続けていた。



しばらく経って泣きつかれたフィガロは村長の腕の中で眠ってしまった。

小さい子供がここまで歩いてくるだけでも相当無理をしたはずだ。


「まぁそういう訳だからこれからも迷惑かけると思うけどよろしく頼むよ」


「儂に出来ることなら何でもしよう。フィガロ君にはこれから幸せになってほしい...」


「俺も兄として出来ることはするつもりさ」


「フィガロ君の方がしっかりしてるしお主の方が弟っぽいけどのぉ」


村長は愉快そうに笑った。新しい家族ができて村長も嬉しいのだろう。

俺も兄弟が出来て本当に嬉しい。これからは俺がフィガロを守ってやるんだ。


ひとまずフィガロの件は片付いたのでもうひとつの話題に移る


「そういえば俺ってあの後どうなったんだ?」


フィガロをベットに移動させてから村長は話始めた。


「実はお主が出てから1週間経ってるんじゃ。家にも行ってもいなかったので本当に心配したぞ」


「1週間!?俺その間何してたんだよ!」


「それは儂が聞きたいんじゃがの〜..」


まさか気を失ってからそんなに時間が経っているなんて思ってなかった。起きたら家にいたが村長は家に行っても見当たらなかったらしいし何があったのだろう?身体も元通りになってるし謎だらけだ。

まぁ深く考えても分からないのもは分からないのだから考えるのをやめよう。


「俺にも分からないけど無事だったんだから結果オーライって事で」


「お主は相変わらずじゃの。まぁ本当に無事でよかったわい...もしまた会ったらお礼がしたいから家に連れてきてくれ」


「分かったよ。俺もゆっくり聞きたいこともあるからその予定だったし」


この話は終わったので俺はもう一つの気になることを確認する。


「そういえば俺のスキルのことだけど何か分かったことはあるか?」


「お主が消えてから捜索依頼と一緒にスキルについても手紙を出したが返事はまだ返ってきてないぞ。普通は3日くらいで返ってくるんじゃが...」


魔法によって連絡手段は簡単になっていた。手紙と言っても紙で送るのではなく魔法紙と呼ばれる紙に内容を書き魔力を込めるだけで指定した場所に移動する。

どんな場所でも送って後すぐにその場所に現れるので便利なのだ。こんなに返信が遅いとは何をしてるんだか。


スキルの正体を早く知りたい俺はイライラしていた。

リエが言うには特別なスキルらしいがゴブリンすら倒せないスキルの何が特別なのか..


「ここに村長はいるか!」


扉をノックする音と共に声が聞こえた。真剣な話をしている最中に空気の読めないやつである。

村長が重い腰を上げ扉を開ける。


「私が村長ですが何か用ですか?」


扉の先にはいかにも高そうな鎧を付けた長身でガタイのいい男が立っていた。さらに後ろには同じ鎧を着た奴が複数人馬に乗って外に待機していた。


「我々はこの村に不可解なスキル持ちの少年がいると手紙を受けて王都からやってきた騎士団である。その少年の身柄を預かりにきた」


どうやらスキルについての手紙は届いていたらしい。てかこんなに騎士団の人間が来るって何事?


「その少年なら今そこにいるリルクと言う子ですが...」


「ならば話は早い。さっそく付いてきてもらおうか」


男は家の中に入ってきて俺の腕を掴んだ。


「説明も無しに付いてこいって言われて行くやつがどこにいるんだよ」


振り払おうと思いっきり腕に力を入れて腕を振る。だがどれだけ力を入れてもびくともしなかった。


「抵抗するなら動けない程度に痛めつけてもいいと許可は出ている」


男の目に感情が無くなり俺を殴る体勢に入る。嘘だろ、こいつ頭おかしいんじゃねぇの。

腕を振り上げ常人なら骨が折れるレベルの勢いで下に叩きつけた。


「つおいちょいお前さ、もう少しちゃんと話しろよ。悪い癖だぞ?」


身体に当たる直前に間に入った見た目は40代くらいの男片手で拳を止めた。あの威力を簡単に受け止めるって何者だ。てかどうやってここまで移動してきた?


「団長。何故邪魔するんです?」


「だーかーら。理由を話したら普通に来てくれる可能性もあるんだからまず話し合いをしよう、な?」


どうやらこの騎士団の一番お偉いさんらしい。そりゃ強いわけだ。

団長と言われた男は俺の肩に手を置いて理由を説明した。


「わりぃな坊主。俺ら勅命でお前さんのこと王都に連れて来いって言われてんだ」


「俺1人のために勅命??なんの冗談だ?」


「お前さんのスキルが過去にデータがないらしく上のお偉いさんが調べたいらしいんだよ。頼むから付いてきてくれねぇか?」


手のひらを合わせてお願いされてしまった。団長と呼ばれた男のことはいいやつそうだ。自分の方が圧倒的上の立場なのに初対面のガキに頭を下げてくれた。


「そう言う理由なら喜んで付いていくよ。俺も自分のスキルの事知りたいからな」


俺は快く承諾した。


「いやー助かるよ。自分のガキ位の子供が目の前で血だらけになるのは嫌だからなー」


俺が断ったら死なない程度に痛めつけて連行されるところだった。あぶねー。


「俺の名前はボルスだ。王都まで行くまでの短い時間だが宜しく頼む」


「王都までの護衛を期待してるよ。宜しく頼むボルス」


差し出された手を笑顔で握った。ボルスは答えるように歯茎を見せて笑ってくれた。


「じゃあ外で待っとくから用意出来たら出てきてくれ」


そう言い残すと外に出て部下に指示を出していた。


「てことで王都にちょっくら行ってくるわ。迷惑かけるがフィガロの事それまで頼む」


「お主の迷惑には慣れたわ...まぁ気をつけて帰って来てくれたら文句ないわい」


軽く会話を交わし準備することもないので家を出た。


外に出て見えたボルスに声をかける


「おーいーもういいぞ」


「もういいのか?感動の別れとかないのか?」


「これでもう会えないって訳じゃないんだからそんなのいらねぇよ。早く行こうぜ」


まぁスキル調べて帰ってくるだけだしそんなに時間かからないはず。1ヶ月くらいで終わるだろ。


「無事に帰ってこれたらいいな...」


「ん、なんか言ったか?」


「何でもない。じゃあ早速行くか」


ボルスの表情が一瞬曇った気がするが気のせいだろう。

俺はスキルの正体が分かるかもしれないドキドキで何も考えてなかった。

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~勇魔滅話~勇者が魔神を滅ぼさないので前代未聞のスキル持ちの俺が世界を救ってやる話 @muscle-shirokuma

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