第11話 永くなりそーな異世界ライフ

 外では悲惨な叫び声が飛び交っているが、大神殿の更に奥にあり、防御魔法によって盗聴防止もしているクローネ聖王国の聖王執務室には外界の雑音は聞こえない。


 執務室のひときわ豪華な椅子に座った聖王国のトップ【トラッセン聖王】が口を開く、

「外務卿、此度のアーガルト王国の暴挙、いかほどでカタがつきそうじゃ?」

「はっ!軍部からの報告によりますと、大草原にて布陣を完了した旨の報告が入っております。まもなく制圧の報告が入るでしょう」

「そうかそうか、楽しみじゃの。内務卿、アーガルト王国の処遇はどうすべきかのう?」

「クローネ聖王国への宣戦布告など不遜の極みでございましょう。即刻、隷属するべきかと」

「うむ、その様にいたせ」

「ははっ」


「ところでアーガルト王国には最近、王妃と双子の赤子が出来たそうじゃの?」

 内務卿と外務卿は顔を見合わせると、

「王妃はなかなかの美女で、双子の赤子は王子と王女だと聞いておりますが…」

「そうかそうか、ヴァンダル王とその王妃は今回の暴挙の責任を取らせて公開処刑じゃな。だが双子の幼子には、余の情けをかける余地があると思うがどうじゃ?」

 内務卿と外務卿は聖王の悪い性癖が出たなと思いつつ、

「聖王の情けを受けられる双子の幼子は、幸せでありましょう」

「そうであろう、そうであろう」

 トラッセン聖王は満足そうに、なおかつ幼子を自分の好みに調教する様を想像して悦に入る。

「陛下、アーガルト王国の領土はいかがいたしましょう?」

 想像を楽しんでいた聖王は、現実に引き戻した内務卿を不機嫌に睨むと、

「すべて余の直轄地としたいところだが、魔王国との国境付近は面倒じゃな」

「今回の魔王討伐で勇者パーティーは全滅してしまいましたが、復活した魔王をアマゾネスの戦士が倒したとの事。

 その者に報奨として国境付近の土地を与え、辺境伯として魔王国との防壁となされるのがよろしいかと存じます」

「アマゾネスか…余は身体のゴツい女は好まぬ。柔っこいのが良いのう」

 内務卿と外務卿が誰も聖王の好みなんて聞いていないんだがと思った時、防御魔法に守られているはずの執務室の扉が中へと吹っ飛んで来た。


「まったく、さっきから障壁魔法シールドで防御魔法を中和させてたら、ずいぶん勝手放題言ってくれてたわね」

 執務室の扉を蹴破ったマチリクに続いて入室すると私は嫌悪感丸出しで言い放った。

(私の子供達を自分の性癖の対象にするなんて、想像することすら許しません)

「貴様ら、何者だ?ここがどこだかわかっておるのか」

「知ってるよ~クローネ聖王国の聖王執務室でしょ。そして私達は、なかなかの美女で公開処刑の王妃と辺境伯のゴツいアマゾネスだよ~」

 均整美の筋肉を、ゴツいの一言で片付けられたマチリクがぶんむくれて煽る。

「なんじゃと!軍務伯は何をしておる。捕虜の管理も出来ないのか?」

「軍務伯?マチリク、一番偉そうだったそいつの事だと思うから返して上げて」

 マチリクは、首根っこを掴んでいたそいつをトラッセン聖王の前に放り投げた。

「へ、陛下…申し訳ございません。我がクローネ聖王国軍は、アーガルト王国軍と魔王軍に敗北致しました」

「なんじゃと!それは誠か?」

「疑い深い王様だね~一発殴って目を覚まして上げようか?」

「マチリクやめなさい、その一発で処刑終了になっちゃうから…」

 トラッセン聖王は全身の力が抜けて、床に座り込んでしまった。失禁したのか床から湯気が上がっている。

 トラッセン聖王らの前にアーガルト王国のヴァンダル王が進み出ると、

「クローネ聖王国の上層部については、すべて魔王国にて処分が下される。魔王討伐に名を借りた勢力拡大の責任を取ってもらおう」

 クローネ聖王国への処刑宣告を行った。


 その後、クローネ聖王国は周辺諸国による合議制の中央国家へと移行した。初代の議長はヴァンダル王が務める。

 神殿にあった神の像は取り壊され、本来の守護竜であるドラゴン卿の像が置かれている。

(何事も大雑把過ぎるドラゴン卿を説得するのは、骨が折れたわ…本来の竜の姿で来いって言っただけなのに、素っ裸は恥ずかしいだの、腹の贅肉がどうのこうのと…乙女か)

 最近では民に崇められる快感を覚えたのか、しょっちゅう竜の姿で諸国を飛び回っている。おかげであちこちの国に、守護竜を祀った神殿が建てられている。


 そんなドラゴン卿を崇め奉る中央国家は、国名をクローネ聖王国からグレイト竜王国へと変更した。

(私が決めたんじゃないからね!ドラゴン卿が私の記憶から勝手に強そうな言葉を使ったんだよ)

 最近のドラゴン卿のお気に入りは、『ワレってグレイトだろう』らしい…像のレリーフにも刻まれている。

 

 マチリクは英雄としてアーガルト王国と魔王国との国境付近の一部をそれぞれ割譲され、マチリク拳王国を立ち上げた。

 アマゾネスの仲間も噂を聞いて、各地から集まって来ているらしい。

 マチリク拳王国の売りは魔族との触れ合いだ。魔王国にも近いため、マチリクのペット扱いのケルベロスを筆頭に魔族が入り浸っているのだ。

 マチリクがケルベロスにおやつを与えるのだが、2頭分しか用意しておらず、残りの1頭が怒って甘噛みするのが鉄板のネタだ。

 ケルベロスのヨダレだらけになるのも楽しいらしく…マチリクは相変わらずの汚れ好きだ。

 最初は怖いもの見たさだった他の国からの来訪者も慣れると可愛いらしく、ふれあい動物ランドの様で盛況となっている。


 商魂たくましい商人達はそこから更に魔王国へと出向き、取り引きを始めている。

 ドラゴン卿が不在となった魔王国は、もともと優秀だった魔王が指揮を取り、人間との交流と貿易を推し進めている。

 異世界での嫌われ虫ループを体感した魔王は、他のどの国王よりも慈悲深いと人気がある様だ。

 

 私はと言うと、すっかり王妃様を満喫させてもらっている。

 ケイトとクルミとの触れ合いは何物にも変えがたい喜びだし、侍女もついているので前世の様にすべてを1人で背負わなくて済んでいる。

 ヴァンダル王も子育てには積極的で、グレイト竜王国議長との兼任で忙しい中、奮闘してくれている。

 時々、家族総出でマチリク拳王国や魔王国に遊びに行ったりもしている。

 私もせっかく王妃になったので、王とのイチャコラも楽しんでいる。

(イケメンの王様と夫婦だなんて、楽しまないとバチが当たるでしょ)

 ヴァンダル王からは『ヒマリはいつも若くて美しい』とまで言われちゃってるしね。テレるなオイ!


(テレてる場合じゃなかった様ね。まったく歳取らなくなってるわ…邪神の呪いか?)

 さすがに老衰で亡くなるヴァンダル王に『ヒマリは若く美しいままだな。先に逝く俺を許してくれ』と言われた時に確かめる決心をしたよ。


 邪神の呪いか、それ以外の可能性がある存在に会いに来た。

 その存在はグレイト竜王国の神殿の中にある自室でくつろいでいた。

「お久しぶりです。ドラゴン卿」

「お~ヒマリか!久しぶりじゃの、変わりない様で何より何より」

「その事でドラゴン卿にお聞きしたい事があるのですが?」

「いや、ワレ何にも知らんぞ」

(今、コイツ完全に目を逸らしたわね…やっぱり原因はドラゴン卿ね)

「全っ然、歳取らないんですけど何かご存知?」


 自覚はないんだけど、私って本気で怒ってる時は微笑んでるらしい…周囲が凍りついた様になるので、氷の微笑みとか言われている。

「いや、それな~わざとじゃないんだよ、わざとじゃ!マチリクと一緒に魔王を倒すとき、ワレの力を譲渡したじゃん。

 あん時に調整失敗して、ワレと同等なこの世界の寿命を渡しちゃったんだなこれが」

「これが…じゃねーわ!と言うことはこの世界が滅びるまで死なないってことなの?」

「そうだの、ちなみにマチリクも一緒だな」

(マチリクも一緒なのは嬉しいけど、殴られて死んだ後に不老不死って罰ゲームか何かかしら?)

「私とマチリクは、ドラゴン卿と一蓮托生って事なのかしら?」

「そうなるかな、ワレも結構寂しがり屋だし」


(この何事も雑な竜の手綱を握って、この世界を回して行かなくちゃいけないって事なのね…)

「それじゃあ、ドラゴン卿が寂しくならない様に、お仕事してもらわないとならないわね」

「え!ワレ仕事は嫌いだけど…」

「寂しいのも嫌なんでしょ。そもそも誰のせいなのかしら?」

 氷の微笑みを見たドラゴン卿が凍りついている。

「お仕事…やります。やらせていただきます!」

「どうせ不老不死なら、この世界を愉しいものにしないとね。異世界と言ったらダンジョンでしょ!造れるわよねダンジョンくらい、守護竜様なんだから」

「イエス、マム!」

 ドラゴン卿が、ソファーから飛び上がると敬礼している。

「よろしい…初心者から上級者まで楽しめて、魔物の素材取り放題のスケールのデカいダンジョンランドを造るわよ!」


 マチリク拳王国の領土内にダンジョンランドを造らせた。

 建設及び管理をドラゴン卿、監修は私、ダンジョンの難易度を調べるための実験探索はマチリクが行っている。

 各国から兵士、冒険者が集って来てかなり賑わって来ている。

 当然宿屋や冒険者ギルド、商人ギルド、各国の出先機関など施設も建ち並び、マチリク拳王国は今や巨大な商業都市国家へと成長している。

 すでに人間と魔族との垣根は取り払われ、共存共栄の間柄だ。

「まだまだダンジョンアトラクションを拡張して、客を呼び込むわよ!ドラゴン卿もマチリクも覚悟しときなさい」

 私は、永くなりそうな異世界ライフを愉しいものにすると決めた。

 一度決めると猪突猛進な私に、ドラゴン卿とマチリクが呆れた顔でいつものセリフを呟いた。

「鬼マネだ!」

 



 

 

 




 

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ヒマリとマチリク リトルアームサークル @little-arm-circle

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