第10話 クローネ聖王国
マチリクはケルベロスの背中にまたがり、満足そうな顔をしている。
魔王軍からケルベロス隊を借り受け、クローネ聖王国に向けて進攻中である。
途中でアーガルト王国軍が合流したが、最初のうちはケルベロスを先頭とした50匹ほどのビースト系の魔王軍にビビりまくっていた。
しばらく進攻で行動を共にすると、警戒心は多少薄れて来たようである。見かけは怖いが、食べ物をあげたりすると懐くのが可愛いらしい。
私は最後尾の馬車の中で、ヴァンダル王に魔王国との不可侵友好同盟の報告をすると、今後の方針を打ち合わせた。
クローネ聖王国へは魔王国との不可侵友好同盟の報告と、同盟を認めない場合は宣戦布告するという趣旨の書簡を送ってある。
周辺諸国には同じく不可侵友好同盟の報告と、勝手にクローネ聖王国領土への攻撃を開始した場合は、処罰の対象となる旨の書簡を送ってもらった。
「これでクローネ聖王国は、アーガルト王国討伐に軍を出して来るのか?」
私の向かい側に座った、ヴァンダル王が聞いてくる。
「プライドだけは高そうですからね…まず出て来るでしょう」
「聖王国軍の兵力は6万だぞ、こちらは魔王軍50を入れても2万程しかないのに勝てるのか?」
「攻城戦で民衆に被害を出さずに勝利するのは厳しいですが、野戦で兵士だけを相手にするならマチリクとケルベロス隊がいれば楽勝ですよ」
「大した自信だ、頼もしいよ」
「ありがとう王様、戦後の諸国との調整はヨロシクね」
「それは俺に任せておいてくれ」
私はヴァンダル王と握手を交わすと、馬車の窓から見える長い隊列に目をやった。
戦場は、アーガルト王国とクローネ聖王国とのほぼ中間地点にある大草原が望ましいとの意見により、大草原を見渡せる丘に陣地を張る。
3日遅れで大草原の反対側にクローネ聖王国の軍勢が姿を現した。すぐさま陣形を整え、こちらを迎え打つ体勢をとった。
(やっぱり出て来てくれたわね…これで無駄な被害を出さなくて済むわ)
こちらが動かないと見ると、陣形はそのままに距離を詰めてくる。大草原の中程まで進むと、一斉に弓矢を放って来た。
私は魔王軍との闘いで使用した
クローネ聖王国が次々と弓矢を放って来るが、すべて吸収した。
弓矢の攻撃が一段落したところで、
少し高い丘からなので、クローネ聖王国軍の後方まで弓矢の一斉放出が届いた。大勢の兵士の悲鳴と馬のいななきが大草原に響き渡る。
「ウッラウラウラウラウラー」
すでに経験済みのマチリクは、弓矢の一斉放出と同時にケルベロスの背中に乗ると丘を駆け降りていた。マチリクの雄叫びと共にケルベロス隊のビースト達も続いて丘を駆ける。
アーガルト王国の騎馬隊は2手に分かれると、大草原を左右に大きく周り込んで、クローネ聖王国軍の後方を目指して疾走する。
そこからは殲滅戦だ。弓矢の一斉放出で陣形が崩れたクローネ聖王国軍の中を、魔王軍のビースト達が蹂躙して行く。
マチリクは指揮官を狙い撃ちして、指揮系統を木っ端微塵にする。
軍として機能しなくなった兵士達は退却を試みるが、後方には回り込んだアーガルト王国騎馬隊が控えていて、クローネ聖王国への敗戦報告すら向かわせない囲い込みだ。
時間と共に投降する兵士が出て来たので、捕虜として拘束する。
大草原における、クローネ聖王国とアーガルト王国との闘いは数時間で終結をみた。
私達はそのままクローネ聖王国へと向かう。城塞都市の門は平常時と変わらず開いていて、商人の荷馬車が検問所に列をなしている。
とてもではないが、主力部隊を戦場へ出している国とは思えない緩慢さだ。立派な城壁があっても中の人間が弛みきっていては意味をなさない。
捕虜とした兵士を先頭で入れると、戦勝報告に来た先遣部隊と勘違いしたのか大歓声が上がる。敗北を知らない国とはなんと間抜けなんだろう。
だが武器を持たない自国の兵に続いて、アーガルト王国の完全武装の兵士が続くと、大歓声が戸惑いのざわめきに変わる。
最後に3つの首を持つケルベロスを先頭としたビースト部隊が入城すると、一気にその場は阿鼻叫喚の有り様となった。
城壁の監視塔や防御装置は外部からの侵入や攻撃に備えているため、易々と入城させてしまうと役に立たない。ビースト部隊の飛行系魔族にあっという間に無力化されてしまった。
(いきなり殴られた私と同じかも…自分にこんな事が起きるなんて思いもしていないと…脆いわね)
マチリクを先頭にヴァンダル王に続いて私も王宮へと向かう、阻止しようとする衛兵達はマチリクによって意識を狩られ、アーガルト王国兵に捕縛されて行く。
まもなく王宮の最奥部に位置し、クローネ聖王国の心臓部と言われる大神殿へと到達する。
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