第6話 悪魔元帥

 悪魔将軍3人を攻略して、いよいよ悪魔元帥の元へとたどり着いたマチリクと私だった。

 だが、その前には巨大な竜が2匹向かい合わせに鎮座していた。翼も器用にたたまれていて、竜にとっては最もコンパクトな状態なのだろう。

 1匹はレッドドラゴンでもう1匹はブルードラゴンである。

 その2匹が向かい合ってる中間に、黒に金の装飾が施された豪奢なガウンを纏った人物が佇んでいる。

 豊かな金髪と、髪と同色の立派な口髭が、高貴な存在であることを自然に醸し出している。

 両側に控えている2匹の竜に比べれば、サイズ的には圧倒的に小さいのだが、その存在感たるや竜を遥かに凌いでいる。


(これは別格じゃないの?闘うとか、そんな次元じゃないわよね…ぶち殺したい魔王レツなんかより絶対、強いよねこの人)

 なんて、ビビりまくっていたら、

「よくぞここまで来た、アマゾネスの戦士よ!ワレと拳で存分に語り合おうではないか」

 悪魔元帥の方から話しかけてきた。マチリクは右の拳を左手で掴んでヤル気を見せてはいるが、全身に冷や汗をかいている。本能が危険を感じ取っているのだろう。

(拳で語り合う…どこかで似たような事聞いたわ。そう言えば、ギルタブリルが拳を交えられることを光栄だと思えって言っていたわね)

 悪魔元帥は余裕のある笑みをたたえている。

(そういうことなのね!悪魔元帥は、私の存在に気付いていてコンタクトを取ろうとしている。そしてコンタクトの方法は…)

「マチリク、怖くて汗びっしょりなとこ悪いけど、悪魔元帥に殴りかかって!」

「誰が怖がってるって?これは武者震いだよ!」

(いや、誰も震えているとは言ってないよマチリク)

 少し支離滅裂なマチリクは意を決して、悪魔元帥へ殴りかかる。

 悪魔元帥とマチリクの拳がぶつかり合った瞬間、時が止まる。


 私の目の前に悪魔元帥が座っている。

 2人の間には円形のテーブルがあり、その上にティーカップが2つ置かれている。

 私は久しぶりの紅茶の味を楽しむ。

「ん~、美味しい」

「お嬢さんは、なかなか胆が座っとるようじゃな」

「ご招待ありがとうございます。悪魔元帥様」

「あ~…その悪魔元帥なんだが、魔族向きの肩書きなんで、今は【ドラゴン卿】と呼んでもらえるか」

「わかりましたドラゴン卿、それでは私の事はヒマリと呼んで下さい」

「うむ、わかった。ところでヒマリ殿、ワレとのコンタクト方法がよく理解出来たな」

「悪魔将軍のサソリちゃんも口上で拳って言ってたし、マチリクならまだしも貴族っぽいドラゴン卿が拳と拳で闘うタイプとは思えなかったからね」

「なるほど、ワレからのメッセージはちゃんと理解してくれたようだな」

「これだけ回りくどい方法を取るのは、やっぱり魔王に気付かれないためなの?」

「なぜ、そう思う?」

「ドラゴン卿って、魔王なんかよりはるかに強いでしょ。というより存在が強大過ぎて細かい事が苦手みたいね、この世界の守護竜さんなの?」

「邪神様以外でワレがエンシェントドラゴンなのを知ってる者はいないはずだが、なぜそこに行き着いた?」

「なんでだろう?オットに殴られて覚醒した…とか」

「さすが邪神様が送って来るだけの事はある。大した御仁だ!」


(あらやだ、エンシャントドラゴンさん…古竜とか竜神って意味だっけ…に褒められちった)

 えへへ~って頬を染めていると、

「ヒマリ殿を見込んで頼みがある。前魔王…ワレの友人でもあるのだが、現魔王レツの代わりに異世界でヒドイ転生のローテーションになっているのだ」

「そう言えば、邪神がそんなこと言ってたね」

「ワレはこれから異世界に跳び、前魔王の魂を見つける。ワレが前魔王の入れ物を滅する時、同時に現魔王レツを滅ぼして欲しいのだ」

「そうすれば、前魔王と現魔王の魂が入れ替わるの?」

「そうだ」

「前魔王の異世界での入れ物って、ゴキブリ・ダニ・ウジ虫・ノミって言ってたけど、すんごい数いるよ。その中から前魔王の魂を探し出せるの?」

「異世界の虫の事はよく知らんが、友人の魂は見逃さん。そこはドラゴン卿のワレに任せてくれ」

「わかったわ、見つけたら合図くれるのね?」

「うむ、そのためにもマチリクとヒマリにワレの力の一部を与えよう。この力があれば魔王討伐も簡単だろう」

「ゴキブリでも何でも、鬼畜オットと一緒に駆除してやるわよ」

「よろしく頼む、ではワレは異世界に友人を探しに行ってくる」

 ドラゴン卿がそう言うと、私の視点はマチリクへと戻った。


 

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