第4話 なぐり姫

 それからマチリクと、マップ上に赤ポイントがある場所を何箇所か探ってみた。

 アーガルト王国軍と交戦状態になっている所は、前回と同じ要領で助太刀して行く。

 アーガルト王ヴァンダルにもらったヘルムと紋章入りのハーフマントのおかげで、スムーズに闘いに参加出来ている。


 特に部隊の編成に違いはないから、マチリクには優先的にオーガを倒してもらっている。

 司令官であるオークジェネラルを倒して、後は王国軍にお任せでいいだろう。

 戦況が落ち着いたところで王国軍の部隊長さんに、魔王軍について聞いてみた。

「オークジェネラルの上に3人の悪魔将軍がいて、3大将軍と呼ばれています。3大将軍を悪魔元帥がまとめ上げ、その上に魔王という組織体系になっていると聞いています」

「だんだんヤバくなっていく感じだな。でも魔王軍って勇者に倒されたんじゃないのか?」

 マチリクが問うと、

「1度は勇者パーティーによって壊滅したのですが、魔王の復活と共に魔王軍も復活したのです。

 それとこれはあくまで噂なのですが、悪魔元帥と勇者パーティーは直接闘ってはいないらしいのです」

 部隊長が答えた。

「ふ~ん、なんでだろ…武闘派じゃないのかな?」

「そこは勇者パーティーが全滅してしまったので、なんとも…」

「わかった、ありがとう」

「いえ、こちらこそ加勢していただきありがとうございました」

 マチリクが手を挙げて立ち去って行くと、部隊長に歩み寄った兵隊が聞いた。

「あれが最近戦場で噂されている、【なぐり姫】ですか?」

「ああ、我々の女神様だ」


「ねえ、マチリク…あなた最近、アーガルト王国の兵隊さん達になぐり姫って呼ばれてるみたいね」

「アタシとしては姫なんて弱そうな呼び名じゃなくて、【なぐり戦士】とか【なぐり女】…【なぐり阿魔】なんか強そうでいいな!」

「やっぱりマチリクの基準だとそっち寄りなんだね」

「強さは女の最大の魅力だろ」


 マチリクの強さが、アーガルト王国軍に認識されて来ているのはいいことなんだけど、私としては魔王軍の配置に違和感ありありだ。

 確かに魔王国とアーガルト王国との国境まで軍を押し出しては来ているんだけど、それ以上は前に出て来る気配がない。

 そもそもアーガルト王国に攻めいるならば兵力を分散せずに、魚鱗の陣形でも組んで一気に突入すれば、力の差から言っても楽勝だと思う。

 それを国境付近に兵力を分散させ、横の連携を取らないっていうのはどういう事なのだろうか?


(異世界だから、それとも魔王軍がバカなの?)

 私が自問自答を繰り返していると、

「アタシは中央が一番空いてる気がするぞ、そこに突っ込めば一気に魔王城まで行けんじゃないか」

「マチリク…それは相手が誘い込んでいるのよ」

と、答えてハッとした。

 アーガルト王国軍を誘い込む必要なんて魔王軍にはないはずだ。

 それに誘い込むなら横一線の衝軛こうやく陣形なんかより、有名な鶴翼かくよく陣形を取るはずである。


(しかも真ん中を空けるなんて、入って来いと言ってるようなもんじゃない…言ってるのかしら…誰に?

 勇者パーティーはもういないのよ。だとしたら魔王軍は誰を警戒してるの?)

「あ、そうか!マチリクと私を警戒してるんだわ」

 私が考えをまとめ終わると、

「でも、これだけの数の魔族の中に突っ込んだら、さすがにヤバくない。アタシは別に平気だけどね」

と、マチリクが強がる。

「たぶん…だけど、マチリクと私だけだったら大人しく通してくれるよ、3大将軍のところまでね」

「この陣形って、腕試しに来いって誘いなのか?」

「3大将軍を倒せたら、きっと悪魔元帥がお相手してくれるんでしょうね」

「なんか楽しそうだな!ヒマリ」

「ええ、そうねマチリク」

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