第3話 アーガルト王国軍
戦闘となると、マチリクはともかく私は経験不足…というより未経験なのよね。
生まれて初めて殴られて死んだし…一方的に殴られて死ぬのは戦闘じゃないわよね。ノーカンよノーカン。
という訳で魔王と闘う前に、戦闘経験とマチリクとの連携を高めておかないとならないわ。
私の視界をマップに切り替えると、この地域の地図が現れる。さらに赤の点灯で魔王軍の居場所が表示されている。
(便利だわこれ…最短ルートと到着までの日数も表示してくれないかしら?出たわね…)
当然、魔王の赤色点灯は地域の一番奥、魔王城の場所にある。
青の点灯もある。これは王国軍だろう…一番近そうな場所は歩いて1日程の表示だ。
マチリクのピッチ走法なら3~4時間あれば到着出来る。
(その前にマチリクの髪型をキチンとしておかないと。この俯瞰の視点って便利だわ…後ろで見ながらマチリクの手を使って髪をいじれるのよ。戦場だから三つ編みにしときましょうね)
「戦闘に髪形って関係あるのか?」
「アタリマエじゃない、女の子なのよ!よし、可愛く出来た。それじゃあ、マチリク行くわよ」
(戦場だー!戦闘ってホントに殺し合うのね。
あれは人間の兵隊さん達かしら?魔族と戦っているわね)
戦場から少し離れた丘の上から、戦況を確認している。
マチリクは伏せているけど、私は実体ないから高高度からの俯瞰で見渡している。
あの魔族はゴブリンとかオーク、オーガっていう種族の様だ、緑色の肌をしている。
腰布にこん棒ってイメージだけど、さすがに魔王軍を名乗るだけあってちゃんと装備品を身に付けている。
自分では初めて戦場をみたら、血とか内臓とかグロ過ぎて失神するんじゃないかと思ってたんだけど…ワリと平気だ。
スプラッターものとかイケる口だったのかな私って…ゆるふわなイメージとのギャップでショックだわ正直。
(まあ、よく感性が独特ね、とか天然ちゃんね、とかは言われてたけど…個性よね個性)
ゴブリンやオークは兵隊達で大丈夫そうだけど、オーガは厳しそうだ。
体が大きくて動きが遅いから、避けるのは問題ないけど手に持ってるメイスはヤバい。
メイスにかすっただけでも、人間なんてブッ飛んでしまう。オーガのメイスを注意しながら、ゴブリンやオークの相手は大変だ。
高高度の俯瞰からマチリクに戻ると、
「マチリク、3体いるオーガを叩くわよ」
と、狙いを伝える。
「訓練の成果を見せるときが遂に来たね」
マチリクはそう言うと、間髪入れずに起き上がって丘を駆け降りて行く。
【アーガルト王国軍】
「まずいな、ここを抜かれたらあっという間に本国まで突入されてしまう」
アーガルト王国の王、【ヴァンダル・フォン・アーガルト】が呟くと、
「ここは一旦戦線を下げてはいかがでしょう?」
と、側近の兵士が具申する。
「ならぬ!勇者殿が討たれた今、援軍はない。この最前線を維持出来なければ、我が王国は滅ぶ!」
「しかし、ゴブリン、オークならば問題ないのですが、オーガに関しては弱点の首まで高さがありすぎます。
足元を攻撃して倒そうにも、攻撃している
「ところで、あれはなんだ?あの丘に伏兵なんて配備していたか」
「いえ、戦力を分ける余裕はありませんでしたので…あの砂埃は何なんでしょう?」
(マチリクが止まらないわ!)
丘を駆け下ったかと思ったら、そのままの勢いで魔王軍の横っ腹に突っ込んだ。
ランニングバックの走りで、ゴブリンやオークをヒョイヒョイ交わしたかと思ったら、とんでもない跳躍力でオーガの頭の高さまで飛び上がる。
そのまま空中で拳を振り抜いたら、オーガの頭が魔王軍の後方に吹っ飛んで行った。
(後方部隊のゴブリンアーチャーやゴブリンメイジが巻き込まれちゃった…一石二鳥ね)
首を失ったオーガの巨体がユックリと倒れて行くと、逃げ遅れたゴブリン達が押し潰される。
マチリクは着地すると同時に一回転して、勢いをつけると2匹目のオーガに向かって行く。
軽くジャンプすると、邪魔なゴブリン達の頭を踏み潰しながら加速する。
最後にオークの頭で勢いよく飛び上がると、オーガの頭を蹴り抜いた。またしても吹っ飛んで行ったオークの頭に魔王軍後方部隊が巻き込まれる。
(絶対狙ってやってるわねマチリク、たぐいまれな戦闘センスだわ。闘うために生まれて来た様な子ね)
本人はと言うと元々切れ長で大きな眼をしているが、今は更に大きくなった瞳で戦場の隅から隅まで見通してる。蹴り飛ばしたオーガの肩に仁王立ちをして…
最後のオーガは割りと近くにいた。マチリクは首のないオーガの上でヒザを曲げ、ためを作るとジャンプして、最後のオーガに跳び移る。
(何をする気なのかと思っていたら、オーガの首を掴んで引きちぎったわ。ブチブチとスプラッター的な音と共に緑色の体液が噴き出しているわよ。マチリク、なんでわざわざ汚れる手段を選ぶかな~)
「ヒマリ、この首どうしたらいい?」
「魔王軍の一番奥に、ちょっと大きめのオークがいるでしょ。あれがオークジェネラルでこの部隊の指揮官だから、その首返して上げなさい」
「わかった」
マチリクは大きく振りかぶるとオーガの首をぶん投げた。
見事にオークジェネラルにぶち当たり、木っ端微塵の肉片になった。
「あらやだ!マチリク、その投てき能力ならクォーターバック(QB )でもイケるわね」
本人は満足そうに口を拭うとアマゾネス流の雄叫びを上げた。
「ウラウラウラー!」
「マチリク雄叫びもいいけど、全身まっみどりじゃない。顔にも体液付いてるわよ」
「戦士の儀式なのだ、倒した相手の血を浴びるのだ!」
「はいはい、儀式はいいけど感染症だってあるんだからね。戦闘以外で死にたくないでしょ、クリーン!」
洗浄の魔法でマチリクの体をマッサラにした。
「ヒマリって、時々お母さんみたいだ」
【アーガルト王国軍】
「どういう事だ!砂埃からなんか飛び出て来たと思ったら、あっという間にオーガ3体が倒されたぞ」
アーガルト王国の王ヴァンダルは、王らしくない驚愕の声を上げた。
「王よ、魔王軍の統制が乱れております。今ならば一気に蹴散らせます」
「そうか、ならば全軍突撃!」
と、言うと王自ら馬の手綱を引いて、駆け出して行った。
「我が王国に勝利を!」
銀色の鼻当て付きヘルムに甲冑、バスタソードを掲げるその背中には、アーガルト王国の紋章が入った深紅のハーフマントが翻っている。
司令官のオークジェネラルを失い、統制が取れなくなった魔王軍はあっという間に壊滅した。
一時は撤退の危機に陥っていたアーガルト王国軍は、突然の形勢逆転による大勝利に沸いていた。
歓喜している兵隊達に労いの声をかけながら、ヴァンダルは勝因となった人物を探していた。
しばらく行くと、1人で戦場に立っている女戦士を見つけた。
馬から降りると、
「貴殿のお陰で、魔王軍を撃退する事が出来た。礼を言う、私はアーガルト王国の王ヴァンダルだ。よければ貴殿の名をお聞かせ願えないだろうか?」
女戦士は王と聞いて少し驚きながらも、
「アマゾネスの戦士、マチリク」
と答えた。
「マチリク殿か、素晴らしい闘いぶりであった。礼をしたいのだが、何か望むものはあるだろうか?」
マチリクはしばらく考え込むと、
「ならば、王の被っている鼻当て付きのヘルムと王国の紋章が入った、そのハーフマントを頂きたい」
「構わぬが、念のため理由を聞かせてもらいたい」
「それがあればどの戦場に行っても、後ろから討たれる事はなさそうだ」
「確かにその通りだ、お渡ししよう」
ヴァンダルはそう言うと、鼻当て付きのヘルムとハーフマントを外すとマチリクへと渡した。
マチリクはそれらを受け取ると、
「それと、少し王にお聞きしたい事がある」
「私が答えられるものであれば、何でも答えよう」
「ありがとう。双子の王子、王女が誕生したと聞いているが健やかだろうか?」
「ああ、2人共とても元気にしているよ」
「そうかそれは良かった。あと1つだけ…王妃は息災でおられるか?」
「ふむ…これは他言無用で願いたい。王妃は産後の肥立ちが思わしくなくてな、床に臥せっている」
「それは心配だな。もちろん他言はしないので安心を…それではこれにて失礼する」
「本当にありがとう。出来ればまた戦場にてお会いしたいものだ」
女戦士は軽く手を振ると、去って行った。
その際にヴァンダルは女戦士が、
「なあ、ヒマリ。言われた通りに話したけど、なんで王様の家族の心配をするんだ?まあ別にいいけど…王様ってもっと威張ってるのかと思ったけど、王自ら戦場に出るなんて勇敢なヤツだな」
と、小声で呟いているのを聞いて一瞬動きが止まる。
しかし、すぐに愛馬へ騎乗すると次の戦場へと赴いて行った。
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