第2話 相棒マチリク

 暗転した視界が戻ってきた。

(なんか違和感が凄い。全方位見渡してる感じ…まさか英雄候補って、目が顔の横に付いてらっしゃる種族なの?)

「おいおい、いきなり人の頭の中でうるさいよ。目が覚めちまったじゃないか」

(あ、よかった。対話は可能みたい)

「起こしちゃったみたいでスイマセン。異世界から邪神に飛ばされて来たヒマリと言います」

「これはご丁寧にどうも、アタシは【マチリク】ってんだ。ヨロシクなヒマリ」

「あんまり驚いていませんね。私のこと、もしかして聞いてました?」

「ああ、昨日寝る前に神様が来て、アタシを英雄にしてくれる相棒を授けるって言ってたよ」

「わりと簡単に納得してますね」

「勇者様達を殺した魔王をやっつけられるなら、なんでも受け入れるさ」


(潔い…話してる感じだと女性っぽいんだけど、この人の視線だと森の風景しか入って来ないわね)

 ちょっと俯瞰で見れないかと思ったら、フワッと浮いて、上からマチリクを見下ろす視点へと切り替わった。

(女戦士なのかしら鮮やかな赤色の髪ね、ローズレッドって言うんだったかしら。

 長さはロングかな…後ろで無造作に紐で縛っているだけね。

 視点は自由自在に変えられる様だわ。

 横から見ると背はかなり高い、体格は…デブ?)

「ちょっとアンタ、失礼な事考えてない!アタシはアマゾネスっていう種族、この体格はグラマラスって言うんだよ、グ・ラ・マ・ラ・ス…わかった?」

「ごめんなさい!前の世界ではあまり見掛けない体格で…確かに腰はくびれているわね」

 肌は健康的な小麦色。

 黒い革の胸当てをしているけど、革がピッチピチに張っている。

(巨乳通り越して爆乳…うらやましい、私も母乳で少し大きくはなったけどね)

 手には同じく黒い革のガントレット、いわゆる甲手こてをはめている。

 ブーツには、防御のためのすね当てが入っている様だ。

 腰にぶっとい革ベルトをしている。両サイドに機能的なバッグが付いていて、小さなナイフも装着している。

 腰ベルトには剣道着の垂れの様な革が付いていて、短いスカートの裾が割れている様に見える。

 その下は黒革のビキニパンツだ。

(革のパンツ…蒸れないのかしら?)


「ファッションチェックは終わったか?」

「ええ、とても興味深かったわ。でもお腹とお尻から太ももが無防備過ぎない?」

「なに言ってんだ、割れた腹筋とピッチピチの太ももをアピールしないで、何がアマゾネスだ!」

「そこ、こだわりポイントなのね」

「おうよ、胸なんかより尻がデカくなきゃな!アマゾネスの戦士じゃねえぜ」

(ふ~ん、私も胸よりお尻が大きいけど…なんだか全然嬉しくないわね)

「お、なんだ?自虐ネタか。ヒマリは時々おもしれ~こと言うな」

「お褒めいただきドーモ」

「さてと、じゃあ走って森を抜けちゃうぜ。ヒマリ着いてこれるよな?」

「たぶん大丈夫」 

と思ったんだけど、なにこのマチリクの走り方。


(走る音がドタドタってどういう事。しかも重心が後ろにいってるから視点が上向き)

 当然こんな状態で森を走れば…転ぶ、少し行ってはまた転ぶ。

「ちょーっと、マチリク止まんなさい!」

「…?ヒマリどうした、速すぎたか」

「そこに正座」

「え?正座って」

「いいから正座」

「ハイ…」

「マチリク、アナタって近接戦闘型のファイターよね?」

「おうよ!この鍛え抜いた手足を使ってぶん殴って、蹴り飛ばすのがアタシの真骨頂さ」

「アナタ、戦場でも転ぶでしょ」

「まあ、時々?」

「近接戦闘型のファイターなんて、素早く自由自在に動けないと命取りでしょ」

「なんだ~それでか!アタシのパンチは脅威だけど、近づかなければ屁でもないってよく言われるんだよ」

「よく言われてるのね」

「うん」

「それで、どうしたの?」

「そういう時は、やっぱ筋トレっしょ」

(ダメだコイツ。筋肉以外はポンコツなヤツだわ)

「マチリク、アナタを英雄にするためにこれから特訓です!」

「ほえ?」


「ハイハイ、ももはもっと高く上げて!腕も力強く大きく振って!重心は前ね~!」

 それからマチリクをミッチリと鍛えているんだけど、こうしていると大学でのアメフト部の練習を思い出すわ。

 ホントはチアリーダーに憧れていたんだけど、チアリーダーやるんだったらチアリーディング部に入らなきゃいけなかったのよね。

 だって、アメフト部の試合で見かけることが多かったから、てっきりチアリーダーってアメフト部にいるんだと勘違いしちゃったのよ。

 知らないって怖いわね…なぜかアメフト部のマネージャーになってしまっていたのよ。

 しかも、しばらくすると鬼マネとか呼ばれる様になっちゃって…ニコニコ笑顔でエグい練習指示を出すらしいの私。

 烈と会ったのもその頃…クォーターバック(QB )でスター選手だった烈は女子に人気があったわね。

 私は特に興味なかったんだけど、なぜか付き合って結婚する事になっちゃったんだよ。

 今思い返すと、烈って自分大好き人間だった。自分に注目が集まってないと、満足出来ないトコあったわ。

 まさか、私が双子の赤ちゃんにかかりっきりになったから浮気とか…イヤイヤ、いくら自分ファーストでもそれはないでしょ。

「あの…ヒナタさん。思い出に浸ってるトコ悪いんですが、まだこれ続けるの?」

「あったり前でしょ、このどん亀が!」

「鬼マネだ」


 もともと身体能力の高いマチリクなので、基本の走り方がわかれば森の中で転ぶこともなくなって来た。

「ももを上げるのは合格ね…次は、上げたももを下ろす時に大地を蹴る事を意識して!ももを上げて、下ろす!ももを上げて、下ろす!」

 マチリクの走る速度が更に加速する。

「うおっほっほ!なんだこれ、速いな!気持ちいいぞ」

(マチリクが調子に乗ると大体、ロクな事にならないのよ)

 私は後方視点へと俯瞰した。直後、マチリクは正面から木に激突して行った。

「おっちょこちょいね」

「……」

 そんなミスもあったが、マチリクの走り方は日を追う毎に上達して行った。

「それじゃ、次はカットバックね。ステップを使って方向転換をするのよ。

 リズムが大事だからイチ・ニ・サン・イチ・ニ・サンって数えて、体に馴染ませてね」

「踊りは得意だ」

「なら簡単ね、それと方向を変える時は肩を意識してね。変える方向とは逆に、思い切って肩を入れる感じで意識するのよ」

「これは凄いな!意識するだけでヒョイヒョイ木を交わせるぞ」

(なんだ、やればできる子じゃないマチリクったら…)

「最後にスピンね。木にぶつかったら、体をクルッと回転させてみて。左右どっちでも同じ様に回転出来るまで練習よ!」

「鬼マネだ」


 数日でマチリクは、アメフトのラインバック(RB)の走りを身に付けていた。

 これならそろそろ戦場に行っても闘えそうだ。

「マチリク、最終調整をするわよ。あそこにある大木にフルスピードで突進してちょうだい。今回は私とのリンクを確認するためだから…恐れずに私を信用して!」

「もちろんだとも、相棒のヒマリの事は信用しているさ!」

「じゃあ行きましょう!」

 飛び出したマチリクは、ギアを上げて加速していくと、まるで弾丸の様に大木へ向かって行く。

 大木までわずかになると、私はマチリクの前に魔法障壁シールドを出現させる。

 マチリクは、前方に出現した魔方障壁シールドごと大木に突っ込んで行く。

 スパーンとまるで大根を包丁で切った様に大木が押し出されていた。

 脚で急ブレーキをかけたマチリクが停止すると、切り取られた大木が前方に吹っ飛ん行った。


「スゴいなヒマリ。アンタ魔法使えたんだ」

「防御魔法と治癒魔法だけみたいね。攻撃魔法は使えないみたいだから、今みたいにマチリクの攻撃と合体させるわね」

「わかったヨロシク頼むな」

「マチリクが使える魔法は何かしら?」

「え~と、身体強化と自己再生、それに簡単な生活魔法だな」

「ホントに近接戦闘に特化してるのね。剣とか槍の武器は何で使わないの?」

「狩った獲物をさばく小刀は持ってるけど、武器は苦手なんだよ。振りかぶるとどっか飛んでっちゃうし、持ち歩くのも面倒くさい」

「失くすんでしょ?」

「気が付くと失くなってるんだよ」

「いるわね~こうゆう、お子ちゃま」

「お子ちゃま言うな!そう言う訳で武器は嫌いだ。殴る蹴るの方が愉しいからな」

「わかったわ、じゃあ武器はナシで行きましょう」

「さすが相棒、アタシの事よくわかってるね」

 こうしてマチリクの特訓も無事に終わり、森を出ることにしたのだった。


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