ヒマリとマチリク

リトルアームサークル

第1話 浮気され殴られ殺され

 オットが浮気をしていたらしいの。

 私が妊娠、出産、子育てに奮闘してる時にね。

 ひどくないかしら?

 ひどいわよね。

 それにしては落ち着いてるって?理由は後で教えるわ。

 それで浮気相手に結婚迫られて困ったんだって…相談されたってコッチも困るわよ。

 奥さんにも職場にもバラしてやるってラブホで騒がれたんだって…浮気相手の手綱たづなくらいしっかり握っといて欲しいわ。

 ちょっと喩えがマズかったかしら…手綱じゃなくて浮気相手の首を握ったらしいの。

 要は浮気相手に騒がれたんで、逆上して絞め殺しちゃったって事ね。

 ホントに落ち着いてるって?すぐわかるから。

「警察に自首しましょ」って言ったの…別に私、間違ったこと言ってないよね?

 まあ、まだ離婚してないから私は殺人犯の妻、産まれたばかりの双子の男女の赤ちゃんは殺人犯の子供と呼ばれちゃうのはイヤだけど。

 最寄りの警察署に行くにしても、子供を家に置いとけないし、マタニティバッグに色々詰め込んで準備したの。

 準備が出来たから、赤ちゃんのいる部屋に行ったらオットが赤ちゃんの首を絞めてるのよ。


「どうせ、もう俺は終わりだ。警察に行くくらいなら、みんな道連れで死んでやる!」

 浮気したアンタが死ぬのは構わないけど、子供達は関係ないじゃないと思って駆け寄ったのよ。

 そうしたらオットが殴って来て、きれいにカウンターでチン(下あご)に入っちゃって…私のチンにだよ。

 格闘家のように鍛えていない私の首なんて、1発でゴキッといっちゃったね…ゴキッと。

 首が折れたら人間は大概、死んじゃうわ。

 私がカウンターパンチを繰り出してオットのチンにクリーンヒットしてたら凄かったんだけどね~。

 という訳で、私もオットに殺されてしまいました。


「死んじゃってるんで、落ち着くしかないんですよ…わかってくれます?」

「わかる、わかるぞ奥さん」

「あ、スイマセン。鬼畜オットの事を思い出すので、奥さんはナシで…名前は高杉ひまり…高杉も鬼畜オットの名字なんでナシで…【ヒマリ】と呼んで下さい」

「おお、わかった。ヒマリじゃな」

「で、あなたは誰ですか?」

「神じゃ」

「ふーん…ですね」

「つれないの」

「浮気相手を殺したオットに子供2人を殺されて、自分も殴り殺された私に神を信じろと…」

「うむ、実に悲劇であったの」

「それだけですか」

「オットのその後を知りたくないか?」

「興味ないですね」

「まあ、そう言うな。あの後、灯油をかぶって焼身自殺しおっての。オヌシも子供達も丸焼けじゃ」

「聞かなきゃ良かった…ぶち殺してやりたいわ!」

「そのためにオヌシをここに呼んだんじゃ」

「ん?」


「本来この様な畜生は、輪廻の中で嫌われモノのみに転生して行くはずじゃったんだが…実際、ゴキブリ→ダニ→ウジ虫→ノミのエンドレスループで組んであったんじゃ」

「そうじゃなくなったって事なの?」

「そうじゃ、異世界の魔王が勇者パーティーに倒された瞬間に魔王の魂とオヌシのオットの魂が入れ替わってしまったんじゃよ」

「悪運の強いヤツね。でもその復活の場に勇者パーティーがいるなら、もう1度倒せばいいだけでしょ」

「ところがそうもいかなくてな、勇者パーティーは前の魔王との闘いで疲労困憊、魔力もスッカラカンでな、復活したオットの魔王に返り討ちにされてしまったんじゃ」

「異世界行っても殺しまくっているのね」

「今では魔王レツと名乗って、壊滅状態だった魔王軍を立て直しておる」


(魔王レツか、オットの名は高杉烈たかすぎれつ。間違いなくヤツだわね)

「でも異世界じゃ、どうしようもないんじゃないの?」

「方法はあるんじゃ」

「ふーん」

「異世界の英雄の素質がある者に、オヌシの魂を同位させるのじゃ」

「それってその人の魂もあるって事よね。二重人格みたいなモノなの?」

「ちょっと違うかの。オヌシがサポートして英雄となる組み合わせじゃ」

「断れるの?」

「今から勇者転生させて、育てる時間も予算もないからのう…ムリじゃ」

「イヤよ…なんで愛しい【けいと君】と【くるみちゃん】のいない異世界に、ゲス野郎退治に行かなきゃならないのよ。絶対ヤです!」

「それなら大丈夫じゃ、2人は異世界のアーガルト王国のケイト王子とクルミ王女として転生させておいたからの。

 オヌシのオットの遺伝子を排除して、王の遺伝子を組み込んでおいたから正統な跡取りじゃ」

「ちなみにそのアーガルト王国ってのはなんなの?」

「魔王軍と戦っておる国じゃ、勇者パーティーを全面的に支援してくれていた国でもある」


(これって出来レースじゃない。私が断れない様に根回しし過ぎでしょ)

「アンタ、ホントに神なの?」

「神じゃ」

「邪神じゃないの?」

「失礼な…たまに一部の地域では…ゴニョゴニョ」

(邪神様なのね)

「まあ、いいわ。我が子に会えるなら、ゲス野郎の1人や2人ぶっ倒しましょう」

「おお、助かるわい。では英雄の素質がある者に同位させよう」

(え!肝心なトコの説明まだじゃないですかね…邪神って言ったこと根に持ってるわね)

 私の視界が暗転して行く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る