後節 先生孝行
逃げようとした瞬間、後ろから大きな何かに拘束されてそのまま意識がなくなった。そして今目の前には黒いモニターぐらいの画面が三つ。ここは何処だ? まるで研究室みたいだ。
「目が覚めたか」
「先生! ここは何処だ? 拘束を解け!」
「まあ、落ち着きなさい、奏太くん。ここでゆっくり和希くんの有志をみようではないか」
「そんなことしてられるか!」
「安心しなさい。君たちには抗ウイルス薬を打ってある。我が生徒の死は避けたいからな」
モニターがつく。
「和希! 和希に何をする!」
「和希くん、には見えないくらいの小さな追跡カメラをつけてるだけさ。さあ、ともに見守ろう」
プルルルル
「お、和希くんに電話だ」
和希が電話に出る。
「もしもし、瀬戸くん。君が帰省してる○○町の連日の緊急搬送の容態がこの前、見せてもらったウイルスの感染と同じようなの。大丈夫?」
「俺は問題ない」
「そう。ならよかった。関連するデータは送っとくわ。速やかに粛正して」
「はい。すみません。この小さな町に」
「いいの。もし、感染拡大したら結局うちで扱うことになるんだから」
「分かりました。頑張って努めます」
プツー
「谷先生のデータのウイルス。どうして? まるで予知したように」
笑いながら言う
「さすが、和希、俺のデータに食いついてるぜ」
「早く伝えなきゃ。拓海、彩どうにか脱出するぞ」
小さな声で伝えようとした。待って、二人がいない。
「二人はどこにいる?」
気づかなかった。彩も拓海もいない。
「二人ともお前と同じように拘束され抗ウイルス薬を打たれ別室にいる。そうだ。監視カメラがついているから残りの画面に写してやろう」
画面が映る。
「いないじゃないか」
「おかしい。監視人はいるのに。脱走か! 探し出せ!」
ガチャッ キー ドアが開いた。
「先生!」
村長だ!
「彩も拓海も!」
「先生が助けに来てくれたんだよ」
「何だ、貴様。どうしてここがわかった?」
「この前、三人と見つけた監視カメラについて捜査班を手配させておいたんだ。そして今日、実際に来てみれば、カプセルが開いたままおいてあり、さらにカメラが増えていた。おまけに木を調べると中からスピーカーと盗聴機が出てきた。スピーカーがオンのままだったおかげで、こちらの情報が筒抜けで助けに来れた。よく考えれば学校関係者によって設置されたと考えるのが最初から妥当だったな。まあ、スピーカーがオンだったから、情報以外にも貴重な話も伺えた。大変だったんだな。話を聞けばできれば手に縄をかけたくはない。分かったらさっさと去るが良い」
「手に縄をかけたくはない。慈悲のつもりか。そんなことされても彼は戻らない。この町を許しはできない。それに聞いていたなら分かるだろう。もうウイルスは繁栄している。新町長さんよ、私はこの町を許さない。優秀だった彼の大学のデータをもとに生み出したウイルス。死にたくなきゃ、あんたがしっぽ巻いて逃げな」
「その必要はない。私から正式に事態粛正に協力するように瀬戸和希くんに依頼した。彼の所属するDoc.Iからも協力が来る。そのボタンも必要ない」
「さすが先生だ……」
奏太がボソッという。
「誰が先生か! 貴様らの先生はわしじゃ。まあ、よい。せいぜいあがけ、先生。和希くんが解毒剤を完成させる頃には町民の半分が死んでいるだろう」
「谷先生! 解毒剤と抗ウイルス薬をこちらに渡してください。それをそのまま和希くんに渡します。今のあなたは何をするかわからない。町長、取り抑えてください」
「そうはさせるか」
「ほら! 早く! 谷先生! もし、さっき言ってたように心に彼を抱え医学などを学びながら僕たちを教えていたんだとしても、そんな崩れたまさに悪魔のような顔はしなかった。あれから数年でどんなことがあったかは分かりませんが、強い憎悪を秘めるようになった。それでも、先生はまだ先生でいたいんでしょ。だから、僕ら分の抗ウイルス薬を用意していたんでしょ。さっき我が生徒の死は避けたいと言っていた。これも紛れもない本心でしょ。なら、町長にしたがって薬を置いて去ってください。お願いします。崩れていく先生を僕たちも何より彼も見たくないでしょう」
先生は膝から崩れ落ち泣いていた。まるで廃れていく建物のように崩れた。中からトゲの外れた心が現れるように。
「どんなに大きな力に抑制されても効果がないことでも、生徒に言われただけで必要以上に心にしみり、人生を変えられてしまう。それが先生という生き方です。与えたものの分だけ生徒の言葉の力は強くなる。それだけ、生徒に尽くしてきたということ、君の生きた道を表している。どんなにこの子達が私を先生と呼び、従おうとも、それを本職とする先生に叶うはずがない。あなたこそが先生と呼ばれるにふさわしい人物。先生、彼らにこの子達に報いる方法はいくらでもあります」
そう言い残した僕らの先生はしっかりと町長だった。町長は捜査班を撤退させ、僕らに挨拶をしたあと、去っていった。僕らに気を使ったのだろう。数分もしない内に谷先生も機器を片付け帰っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます