第三章 湧きつづけるボタン

前節 感じる視線

やっと着いた。先生の家。やっぱり大きいな。つい、さっきまで町長の秘書だった人で、現町長の人の家。そりゃでかいか。名家の集まるこの町であれば圧倒される家は少なくないけど、やっぱり一際目立つ。特に門がかっこいい。今でも豪邸といわれて浮かぶのはこの門だ。狭い町の中では町長さえも友達だったりする。僕らは幼少期ようしょうきにお世話になった古い付き合いで、「先生」と呼んでいる。

 奏太そうたは少し緊張しながらチャイムに手を掛けた。久しぶりだな。深呼吸をしてチャイムを鳴らした。家に似合わぬ白いチャイムは家中に大きな音を響かす。先生はいや、町長は笑顔で出てきてくれた。

「お久しぶりです、町長。町長、ご就任おめでとうございます」

「いやあ、照れるな。でも、先生でいいよ」

先生は僕の心を見透かしたように言った。緊張が徐々にほどける。

「にしても、久しぶりだね。どうした? まさか、本当に就任祝いをしにきたのかい? 私の知る奏太そうたくんはそんなことしないがね。さては何か悩んでいるね」

就任祝いくらい社会人になればするよ。失礼な。と言いたいとこだけど、やっぱりこの人には気持ちが見透かされている。この人になら話してもいいだろう。緊張とともに口がほどけたのか、古い付き合いによる安心感か。そう感じるまでもなく僕は話し始めていた。

顎に手を当てゆっくりと口を開く。

「なるほど。でも、秘書が『伝えそびれてしまって』と言っていたから、少なくとも君がそのボタンを押す前には智樹くんの件は決まっていた。もし、君のいうような効能を持つボタンがあったとして、記憶にまで干渉するとは到底思えんよ」

「そうですよね」

やっぱりか。理屈的にはあり得ないんだよな。

「でも、この後、彩ちゃんたちのもとへ向かうのだろう。私も会いたいしついていくよ」

「村長お忙しいでしょ?」

はっはっは、と笑った。

「祭りの挨拶はすませたし、本格的に就任するのは来月からだ。問題ない」

先生を連れ二人のもとに着くとすでに彩の手にはボタンがあり、心配そうに待っていた。

「先生! お久しぶり!」

驚きながらも彩花は先生に手を振った。

「お! 彩花、元気にしておるか。拓海くんも久方ぶりだ」

「町長。お元気で何よりです」

面倒くさそうに拓海が答える。

「奏太、なんで一緒に来たの」

「もともと、智樹の件について聞きに行ったんだけど、二人に会いたいって言うから」

「そっか。じゃあ、このスイッチどうする?」

「捨てるか、箱に戻すか、だよね」

「待て、この木おかしい」

先生が眉間にシワをよせ、真剣な顔で言いはなった。何を言いだしたのか、と拓海は怪訝な表情をする。

「見ろ、カメラじゃ」

木の上にはタイムカプセルの後ろの木にカメラがついていた。

「でも、動いてなさそうだよ」

彩はカメラを見て言った。

「とは言ってもここにあるのは不自然。むしろタイムカプセルを監視しようと思ったら自然な位置だけど」

拓海が言った。結局、考えたところで僕らは何一つカメラのことについてわかりそうになかった。そして本題に戻り僕らはボタンを壊して捨てる結論に至った。カメラも動いてないし、ボタンを壊せば、次に来るのは十年後だと思っていたから少し彩と俺は名残惜しそうに帰途についた。

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