六節 違和感

奏太そうたは焦っていた。思っていたより早くボタンの影響が出てしまった。正直、甘く考えていた。心のどこかで起きっこないと信じていた。奏太は智樹ともきの件とスイッチの関係を考える中でニュースについて違和感を抱いていた。ニュースでの


『石田智樹氏二十七歳が町の特別大使に任命されていたことがわかりました』


 この一文だ。『任命されていた』この言葉から考えるに既に決まっていた話ということ。ならば、スイッチの影響ではない。そう一度は思わされた。しかし、本人から『昨日の今日』と言われていたことにもまた違和感を覚えていた。その点ではみおの件についても違和感を感じざるを得ない点がある。ついさっきあやが押したボタンが原因なら何故なぜ、演奏の時間が設けられていたのか。たまたま一つの団体が空きを出したか? もともと空いていた時間にいれてもらったか? いずれにせよ、不可解だ。もともと決まっていなければほぼ不可能だと考えるべきである。智樹の件が実際、いつから決まっていたのかを明確にするために就任したての新村長の家に向かっていた。と言っても、このせまい町では皆、知り合いであるし、特にお父さん世代は学校などの児童施設にもよく顔を出してくださるので、長い付き合いになるのも珍しくない。特に俺とあやいまだによく遊びに来るし、村長は俺の父さんとの深交しんこうが深く、小さいときからよく遊んでいたからは仲がいい。つい今日まで議長と村長の秘書を兼任していたこの人なら何かしら聞いていたかもしれない。それを聞くつもりで向かってきた。

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