第二章 叶明祭

一節 叶明祭

 叶明祭きょうめいさい

 この祭りは我が農村の豊作を祈る目的で始まった。十四年前、あの事件が起こるまではただ祈りの為に行われていた。

 十四年前、当時は、天候にあまり恵まれず、不作が続いていた。そんな中ある時、化学の世界に進んでいた男が町に帰町した。農家の息子で、彼は不作続きで苦労している両親を助けるべく帰町したのだった。早速、彼は効力の高い農薬を研究し始めた。東京で学んだ知識は恐るべきもので、彼は数ヵ月で完成させた。両親は期待と不安から、半分の農地で農薬を利用することにした。これでも、へどの出るけであったが、一年後、この賭けがこうそうし見事に豊作となった。両親はあまりに出来が良かった農薬を周りの農家に供給きょうきゅうし始めるようになった。二年もすると、町のほとんどの農家が彼の農薬を使い、豊作となった。一時は、彼は町のヒーローになり、祭りではやぐらにのぼり町内で統率とうそつ力をも発揮するようになった。町自体も活気立ち、本来の農村としての色が輝き始めていた。しかし、事態は急変する。ある一つの畑内で農薬に用いた菌が変異したのだ。千明町ちめいちょう、いずれ悪名として世に染み渡るこの町では育てた食材を共有する文化があったため、たちまち、町中に菌が広まった。伝染病であるとわかったのは数日後だったが、人の出入りが少ないため、隣町とちめいちょうだけの隔離措置かくりそちで事態は収束しゅうそくした。すでに知られていた菌であったこと、死に至るリスクのある菌でなかったことが幸いだった。しかし、一時はヒーローになった彼の評価はだだ下がりとなり、両親も町中を謝って回った後、彼とともに自殺した。というのも、彼自身はもちろんこのような危険性のある菌であることを承知していた。にも関わらず、自分の対策が的外れだったことへ苛立ちが覚えていたことが後に見つかる遺書からわかった。この事件は小さい村であったが隔離措置かくりそちという珍しい措置がとられたケースだったために、日本中の知るところとなった。農家らの収益は不作時に相当そうとうするほどまで落ち、子供たちもやがて成長すると町を出ていくようになった。

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