三節 声とスイッチ

  [――押したまえ我に近づき少年よ]


 のぶといような柔らかく包み込まれるような耳に残るそんな声だった。一体どこから聞こえたんだ?

 「やっぱり、お前も聞こえるんだな」

 「わー!? 智樹か」

 「ここに来ると聞こえる謎の声。俺らの同級生にしか聞こえないようなんだ。皆聞くと、気持悪がって帰っちゃうんだけど。なあ、ちょっと一緒に調べて行かないか?」

俺は納得した。夜に呼ばれたのはちょっとしたきもだめしをするためだったのか。

 「いやだよ」

心の中で笑いながら言った。

 「と言いつつも、気になってるんだろ。根性こんじょうないな」

またも、心の中で笑いながら付き合ってやることにした。

 山に来たのは十年前が最後だろうか。川には奏詩そうしや同級生に連れ出されてたし、俺ひとりでも気分転換に行くことがあった。そんなことを考えながら声を追っていると懐かしいものが目に入った。

 「わぁ。これ。あのときの……」

 ここは十年前、俺たちが中学校を卒業したとき、友達の提案で、みんなで埋めたタイムカプセルが埋まってる場所だ。あれは先生に頼み込んで、村から承諾しょうだくを得た特例だった。現に奏詩の代にはなかったし、この山には俺達のタイムカプセルだけしかない。そんなタイムカプセルがこの石の下に埋まっている。というのも、この石は石工をやってた智樹のじいちゃんからゆずり受けた石だ。三十八人の名前がひとつずつ濃く刻まれてる。それに謎の声もここから聞こえている気がする。智樹、いきなことするよな。さて、声は聞こえたけど何もないぞ。

「智樹~!」

「……」

反応無しか。何かの演出か。スコップまで落ちてるし。掘れってことだよな。

 [――押したまえ我に近づき少年よ]

 よし! 掘るぞ。ごくり。

掘り当てると、奏太は調査の一貫いっかんだから開けてもいいだろうと好奇心にあらがえずに、近くに落ちていたシャベルでためらいながら掘り起こした。土が十年越しとは思えないほど柔らかく一人でもなんなく掘り起こせそうだ。意を決して、掘り進めると、中には見慣れないスイッチのようなものがあった。

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