向井清純の思惑を友人たちは知らない
「ちょっと、こわーい! なによ、あれー」
後部座席で悲鳴のような声をあげる
「あまり見ないほうがいいですね。呪われますよ」
思わず二度見しそうになった早田は、あわてて前方に視線をもどす。
「呪いの人形ってやつっすか、あれ」
運転席の
「そうとうな由来があることは、まちがいないでしょう。……この神域で、あれほどの妖気を放っているのだから」
向井は言いつつも、そのじつ、さして興味はなかった。
あの程度のものであれば、わざわざ足を運ぶほどではない。
「そこにゃん、向井くん。あいニャンは、どう考えても集まりすぎ、と思うにゃ」
早田の横、痛いアイドル臭をぷんぷんさせながら、自称「あいニャン」の
「まあ時期が時期です。そういうこともあるでしょう。……成瀬、そこを右です」
「了解、向井くん」
向井の指示どおり、成瀬は運転手という役割を忠実にこなす。
さっき高校生にも言われたとおり低能のチャラ男だが、バカとハサミは使いようだ。
そんな向井の冷たい視線に、さいわい当人は気づいていない。
タブレットの航空写真地図を見ながら、後方から早田が身を乗り出し、
「神社には行かないの? 廃社になってるけど、このさきにある神社は出雲大社の起源とも言われているらしいわよ。祭神はスサノオノミコトで……」
「どうでしょうね。地相はたしかにそれらしいですが、霊験あらたかであることと、政治的に利用しやすいことは別問題です。
──東側、このさきは文教地区、といっても役場の支所とか学校の跡地があるだけですが。フィールドワークの一環としては、まずは資料的価値を重要視していきましょう」
RV車の先行がない村道は、雑草と土砂になかば埋もれていたが、ミニバンはかろうじてそれらを乗り越え、やや広い場所へとたどり着く。
廃屋が二戸、掘っ立て小屋のような納屋、あとは駐輪場の痕跡の崩れた屋根だけが人造物の名残で、校庭だった部分は灌木地、建物の外壁は山壁と一体化しつつある。
それでも車がここまではいれたのは、年に一度、役場の人間が管理のために立ち入っているかららしい。
「左が役場関係、右が学校だったようです。手分けしましょう。成瀬と早田は役場と学校を」
「萩取村にかんする独自資料の痕跡、だよね」
「とにかく写真を撮りまくればいいでしょう。生成AIコピペ天国の論文より、GPSログつきの写真添付のほうが、教授も単位を出しやすいでしょうから。
──日本の過疎化と地方廃村の現実、またそれにまつわる民俗学的資料と流言飛語の研究について」
「了解す。向井くんたちは?」
向井は、成瀬から車のキーを受け取りながら、
「ぼくと桜木は村全体を見まわってきます。二、三時間でもどります。航空写真から見ても、まともな平坦地はここだけですから。ここで合流しましょう。──夜までに全部、終わらせますよ」
大学生四人組は、こうして二手に別れ、それから数時間、学生らしくまじめにフィールドワークにいそしんだかといえば。
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