第9話 消えゆく魂

黒side

また誰かが脱落してゆく

その度に周りの人間たちは泣き崩れたりする

なぜなのだろうか

脱落したことは特に悲しくもない

本部のエネルギーとしてまた活用されるだけ

どうでもいいのだ

私はやるべき事をするだけ

そう思いながら地下へと向かう

私の足音が大きく響く

下へ続く螺旋階段を降りていった

そして1番下へとたどり着き、自分自身の手のひらを何も無い壁に当てる

すると黄緑色の光の線が扉の周りに広がらせる

扉がゆっくりと開かれ、そこには研究室があった

暗く不思議で不安を煽られる空間

重要な情報やプレイヤー達の能力を保管する場所

所々に様々なアバターが水の中に保管されている

私は真ん中の通路を歩き、奥にある新しく追加されたアバターが入ってるガラスに手を当てる

そして彼女の感情の中に入り魂を抜き取る

私の手元には小さく水色に輝く欠片

「…ゆっくりとおやすみください……」

欠片を見つめた後、様々な色の欠片が積まれている箱の中へと入れた

それと同時にインカムから彼の声が聞こえてきた

『おい黒。今どこにいる』

「……地下室…」

『相変わらず好きだなぁお前は。さっさと戻ってこい。そろそろ"本番のゲーム"が始まるんだからな』

「………わかった…マスターにもお伝えしておいて……今から戻るって…」

『あいよ。早く戻ってこいよ』

「うん…そうする……ゼロも準備…しておいて」

私はそう言ってインカムの通信を切る

彼も相変わらずだ

そう思いながら、私は地下室を後にした



ミルトside

しばらく経つと、次のステージが開始されるとの連絡を受けた

俺は、あまり興味が湧かなかったが、りょふが確認したいとしつこく言われる

「……まさか参加者の確認してねぇのか?」

俺がそう聞けば、りょふは小さく頷いた

俺は小さくため息を吐く

「行くぞ」

そう言って、誰もいないモニター室へと足を運んだ

カルメの説明を、ちょうど受けようとしている所から始まる

参加者の顔ぶれを見れば、誰もが不安や怒りに満ちていた

何度も見る光景

「……居たか?」

俺はりょふに聞いてみる

しかし、返事が帰って来なかった

「おい…どうした?」

肩をポンッと叩き、顔を覗く


そこにあったのは、唖然とするりょふの姿


「なんで………なんでいるんだ…ねくと……それに………レーアに…白まで……」

そいつの見てるモニターを見てみる

りょふの知り合いだろうか

不味いことになった

そしてその時に、俺も気づいてしまったのだ


「おいおい…………マジかよ…」


俺の目線には──────



ウルボの姿があった



カインside

カルメが楽しそうに次のゲーム説明をし始めた

『次のゲームはアスレチックだよぉー!最初は綱渡り、その次が蛇地獄、そして最終が餌地獄だよー!生き残れるのはたったの20名まで!!20人達成した時点で強制に脱落させまーす。制限時間は30分!』

現在約80人程度

急がないと確実に脱落……すなわち死ぬ事が確定するということ

「……カイン」

「…どうしたテテル」

テテルは俺に聞いてきた

「やるしか無いのかな…こんな皮肉で、うざったらしいこのゲームをさ……」

下を向いたままそう聞いてくる

逃げ場なんてどこにもない

帰れるとすれば生き残るしか無いのだ

「今はそうだな。俺はあいつを潰さねぇと気が済まないからやるが」

まだ、怒りが収まりきれてない

どうせ死ぬのなら、あいつの顔面を殴らなければ気が晴れるだろう

「……そっか」

テテルはそう言って、そっぽを向いた

そしてゲームは開始する

『それでは……プレイヤーの皆様はスタート地点へと移動をお願いします』

黒のアナウンスでみんな急いで前へ前へと移動する

「どけよ!!!俺が先だ!」

「おいふざけんじゃねぇ!!」

ギャーギャーと騒ぐプレイヤー達

俺らは後ろに移動する

決して、流れに乗らないように

『それでは……ゲーム………開始です』

前の壁が消える

それと同時にアスレチックのステージが見えた


ステージ 綱渡り


ひとつの紐が遠くの地面まで繋がっている

落ちてしまえば何も見えない暗闇へと飲み込まれてしまう

だが、暗闇の底からなのか唸り声が聞こえてきた

想像したくは無い何かなのだろう

前にいたプレイヤー達は、流れに飲まれてしまい、数人はそこで脱落していった

俺らもゆっくりと確実に進んで行く

途中奥底から悲鳴がいくつか聞こえてくる

それと同時にバキボキと硬い何かを砕く音も耳に響き渡った

考えてしまえば元も子もない

もう分かりきっている

じっくり暗やみを見てみれば壁に大量の血がベッタリと着いているのだから



Bブロック アスレチックステージ

ウルボside

僕はゆっくりと1本の紐に足を踏み入れる

でもこの紐は意外と頑丈で揺れたりはしない

少し安心した

しかしまだゴールまで遠い

後ろには、メイさん、ヒナミィさん、もかのすけさん、けけさんの順番で並んでいた

その後ろには知らないプレイヤーの方々が早くしろと怒鳴りながら待っている

「ゆっくりでいいからね。ウルボくん」

「は……はい…!」

メイさんがそう優しく言ってくれた

慎重に…慎重に……


「うわあああぁぁぁ……」


後ろから悲鳴が聞こえた

けど声的に彼らでは無い

知らない誰かの声

「大丈夫……気にせず前に行って」

メイさんが後ろからそう言ってくれるが、僕は不安でしかなかった

不安を抱えながら、僕は前に進む


けけside

「とろいなぁ!!早くしろよ!!」

後ろから知らない奴の怒鳴り声が聞こえる

最初は気にしてはいなかったが、みんな生きたいと必死なんだ

仕方ない感情

後ろの奴らは怒鳴るばかり

「早くしろよそこのクソチビ!!!そのまま落としてやろうk……」

俺は後ろのやつに足をひっかけて落としてやった

「うわあああぁぁぁ……」

そいつは暗闇の底へ落ちていった

「次は……誰が来ますか?」

俺がそう前を向いたまま言うと、そいつらは怖くなったのか黙り込んだ

ある者は、俺の足を蹴って落とそうとしたが、そんなものはまた蹴っ飛ばせばいい

俺は襲おうとした奴らを片っ端から避けて蹴飛ばすを繰り返していた

幸運にも、この紐は揺れずに済んでいた

本来なら揺れるはずの紐だが、まぁあまり考えないようにしよう



もかのすけside

誰かがウルボくんを落としてやろうかと言った

俺はキレて今すぐにでもそいつの胸ぐらを掴みたいと思っていたが、けけさんがそいつを落としてくれたようだった

流石けけさん

「え?なんか聴こえなかった??気のせい?」

ヒナミィは1度足を止めて聞いてくるが俺はなんも無いんじゃね?と適当に返す

「さっさと進も」

そう言ってどんどん前に進んで行った


……にしても、結構道のりが長いような気がするんだけど…


Cブロック アスレチックステージ

ねくとside

なんでこんなことになったのか、今でも不思議に思ってる

目が覚めたらデスゲームに強制参加だし、というか死にたくないんですけど

私一般人なのに、なんで巻き込まれたの??

そう思いながら頑張ってゆっくりと前に進む

「ねくと殿。行けるか?」

ラケルタさんが後ろからそう言ってくる

大丈夫とだけ伝えてどんどんと前へ進んで行った

私の後ろにはラケルタさんとコルニクスさん、フロアとダンテさん、そしてこのゲームで知り合ったらりっとるさん、syuさん、やみづきとゲームに望んでいた

まぁ…と言ってもほとんどのプレイヤーさんが私やダンテさんを落とそうとした奴がいたらしく、そいつらは全員ラケルタさんが落としてくれたらしい

流石、魔帝王様…容赦ない

この人数なら確実にゴール出来そう

頑張っていきますか




ラケルタside

アスレチックステージ前

──待合室──

こんなくだらんゲームなど、参加したくも無いが、元の世界に帰るためには仕方の無いことだ

これは単なる好奇心で出来たゲームに過ぎぬと思っている

人間の心境を遊ばれているような感覚

まぁまずはこのゲームをクリアすることを優先するとしよう

というか…なぜ我の身長が前より小さくなってしまっておるのだ……

最初のゲームから違和感があったがやはり力が弱まっている

基本魔法なら使えそうだが、威力がそもそも弱い

何度も試すが、中々難しくなっておった

コルニクスも同じだという

「お主もか…」

「はい。基本魔法はそこそこ使えるとは思いますが……あまり連続の使用は不可能に近いでしょう」

コルニクスが自身の手を眺めながらそう言った

「私も同じですねー……肝心のハサミが出せない…」

ダンディーも力が弱まってしまっているようだった

「我もだ………もう違和感でしかならぬ…何故よりによってもっと力が弱まってしまったのだ…」

「なんか体も重く感じるしねー……というかさっきのゲームで疲れちゃったよ…」

フロア、ねくと殿は疲れている様子で地面に座り込む

「というか…ラケルタ殿何故そこまで小さくなっておるのだ?我も小さくなってしまったが…」

フロアは我に聞いてくる

あやつも同様、元の身長より人間並みに小さくなっておった

大体150~160と言ったところか

「我にも分からぬ。この理由はあのカルメという娘が知っているはずだ。まずは次のゲームをクリアしなければ話にならないだろう」

「あの小娘がか?全くめんどうだ……早く帰りたい…」

フロアはため息をしながらそう言った

「早く行きますよ皆さん」

コルニクスがそう言い、ステージ前まで移動しに行く

先頭を見てみれば人間どもの騒いでいる様子がよく見えた

俺が先に出るだの邪魔だの

くだらん

あぁいう奴ほど直ぐに命は経つのだろうな

早速綱渡りのステージに足を踏み入れる

途中、ダンティーやねくと殿を落とそうと企む奴がいたらしいが我は1人だけ片手で胸ぐらを掴み持ち上げ落とす

……まだ腕の力は残っているのだな

走行しているうちに綱渡りの終わりが近づいていた

なんだすぐに終わるではないか

と思っていたがねくと殿の様子がおかしい

もうすぐそこだと言うのにあまり進まないのだ

「ねくと殿。行けるか?」

「大丈夫です…!」

……本当に大丈夫だろうか

だが元の力が戻らない以上、我は何も出来ぬ

どうしたものか




──上層部──

「ねぇ…今の状況は?」

カルメが彼女に声をかける

「順調ですわ…皆私の魔力にかかってますし、楽しいゲームとなること間違いなしかと」

彼女はニコニコとしながら返した

下半身は大きな蜘蛛の体で髪は長く、金髪の女性

身長は2mと言ったところだろうか

楽しそうにモニターを眺めている

「そっかあ!それは良かった。脱落者を沢山出さないとねぇー。頼んだよ?ダチュラ」

カルメがそう言うとダチュラはモニターを眺めたままニコッとした

「えぇ……仰せのままに…主様」

彼女たちは画面越しに彼らを楽しそうに眺める

たった40mの細い道だと言うのに彼らは全然進まず、その場でとどまり、小さく歩いているだけ

まだつかないのかとキレ散らかしている人間もいるさぁ…いつ気づくのだろう


その景色が幻覚という事実を───


コルニクスside

先程から思っていたことですが…ゴールはすぐそこだと言うのに全然進む気配がありません

ねくと殿は少しづつでしか歩いてない様子……

しかしこのような場では無意味な行動だと思うのですが…一体何故?

そう考えていると後ろが何やら騒がしい

またくだらない事を発している人間がいるのでしょうか

まぁ先頭が全然動かないですからそれはむりもないのでしょう

それかねくと殿に何かあったのでしょうか

「…我が魔王……あまり先に進んでないのですが何かあったのですか?」

「我にも分からぬ…だが1部の人間の様子がおかしい。しかしこんなに道が長かっただろうか」

道が長い?

「失礼ですが我が魔王。この綱渡り…長さとしては40m程かと思われます……」

「なぬ?!」

我が魔王の声に驚いたのか、ねくと殿が前を向いたまま聞いてきた

「ん?どうかしましたー?」

「コルニクスさん何か分かったのですか?」

ダンティーも不思議そうに聞いてくる

皆は気づいていなかったのだろう

「私にはすぐに終わるはずと思っていたのですが、全然前に進まずでしたので…もしかしたらと……」

「なぬ?40m?そんな訳無かろう。我には……えーっと…現世で言う某ドームの長さと思っていた!」

フロア殿がそういえば、ダンティーが呆れて言う

「何故こんな時にそれを出すんですか…けど私にも道は長く見えます」

これはもしや……幻影魔法のせいか?

であれば説明もつく

何者かが幻影魔法を使用し、ワタクシ達に幻覚を見せられ短いはずの道を長く見せているということですか

ならば、簡単に抜けられるでしょう

幻影魔法の解除をすればいいだけの話です

ワタクシは皆、そして自分自身の周りに付いている怪しげな紫色のモヤを見つけるように意識を集中させる

相手に見つからぬよう静かに

そのモヤを打ち砕く

砕かれたモヤの欠片は暗闇の底に落ちてゆきました

目の前の景色が暗闇から出られたような感覚

綱渡りだと思われていた地面だが、まだ少し幅がある

それも数人は横に並びながら歩ける幅

「…これで幻覚は消えたはずです。どうでしょうか」

ワタクシがそう聞くとねくと殿は驚いた様子で言葉を発する

「ええ?!さっきまでの道が……って私少ししか進んでなかったんじゃん」

「コルニクス。よくやった」

「有り難きお言葉です。我が魔王」


パゴニアside

私がモニター室に入るとダチュラさんが珍しくキョトンとした顔でモニターを見ていた

「……どうかされたのですか?ダチュラさん」

私がそう問いただすと、困惑した状態で私の両肩をガシッと掴む

「どうしたもこうしたもありませんわ!!私の魔力を打ち消したものが出てきたんですわよ??こんなの聞いてませんわ!」

そう泣きながら強くゆさゆさと私を揺さぶる

「……とりあえず…落ち着いてください。まだ時間はあるのです。存分に力を発揮してもらって構いません」

「………そ…そうですわね…まだまだやってやりますわ!!」

案外、この方は負けず嫌いなのかもしれませんね

彼女は私から離れ、また能力発動に専念する

さて…人数が少し多いようです

もしこのゲームに相応しくない者と判断されてしまった方から処分していきましょうか

そうすれば黒も楽に仕事が出来るでしょう

しかしその後も脱落者は多く出たが、彼らはまだ生き残っているのですが

厄介なことにもなりそうです

「……パゴニアさん。少しよろしいですか?」

後ろから聞きなれた声が聞こえる

振り返ると、そこには黒さんの姿があった

「なんでしょう?もう皆様の準備は終わったはずですが」

「いいえ……次のゲームに少し相談があるのです」


"本番のゲームをより楽しくするために……とマスターから伝言を受けております"



Aブロック

カインside

走行しているうちに綱渡りが終わり次のゾーンへと向かった

そこは何も無い1本道に途中バラバラに壁が立ち、隙間から何匹もの蛇が飛び出してゆく

しかも毒を吐きながら飛んでくるやつもいるようだった

ほとんどのやつは綱渡りゾーンで脱落している

しかし俺ら以外にもまだ何人かいるようだ

俺らが生き残るためには奴らを脱落させなければならない

まぁそう簡単には行かないだろうな

「……私とてもじゃないけどここから行きたくないのですが…」

少しカタカタと震えるシスターさん

そういえばシスターさんは蛇が苦手だった

「頑張りましょう。僕がついてますから」

ゲールさんがそう言って彼女の背中を撫でる

「正直私も行きたくないんだけど……でも行かないとクリアにはならないよね…」


『残り時間:10分』


どちらにせよ、早く進まなければならない

シスターさんは少し時間がかかるらしく先に行って欲しいとの事

ゲールさんも残り、シスターさんを連れてゆくと言った

俺はその言葉を信じて先へ進む

ここは何も問題なくクリアできた

さて…目の前の光景を俺はとてもじゃないが見たくない

なぜなら崖の足場があり、そして下に落ちれば魚たちに食われる運命であろう

しかもその魚共何故か知らんが飛んでくる

避けながらなど無理な話では無いのか?

そう考えているとザペルがポンっと優しく俺の肩を叩く

「俺に任せとけ」

そう一言だけ言ってザペルは大盾を構える

足場には他のプレイヤーの姿もあった

俺は今からするザペルの行動を察する

「……任せた」

少し気は引けるかもしれないが彼らが俺たちに敵対している以上、仕方の無い事だ

「テテル。俺の腕にくっつけ」

「え?う…うん」

腕を差し出すとテテルは俺の腕にくっつく

「よぉし…行くぞ!」

ザペルは全速力で走り気楽にアスレチックをこなす

俺もその後に続いた

「お…おい待て!!止まれ!!!」

参加者が大声でそういうがどうだっていい

ザペルは大盾を前にし、そいつを突き落とした

悲鳴が聞こえたあと、青く染った海は嘘のように赤く染まる

こいつがやっていることは人殺しと変わりない

だが、生き残るためには仕方の無いことだ

そう……生き残るためにはな

犠牲も付き物なのだと

そして俺らはゴールできた


『残り時間:5分』


未だゲールさん達を見かけない

まさか───

残り時間は着々と進んでゆく

そしてアスレチックのステージが崩れ始めていた


ゲールside

僕達は順調に障害物を避けながら進んで行った

先に行った男たちの遺体が前に散らる

まだ見慣れない…見ただけで吐き気がした

それを避けながら進んでいゆく

カインくん達は本当に凄い

障害物も軽く躱す

僕も負けてられない

そんなことを考えながら走っていると突然左目が真っ暗になり痛みが走った

それもかなりの激痛

今にも気絶してしまいそうだ

先程毒を吐く蛇を見たからその毒にやられたのだろう

左目が全く見えずただただ刺されるような痛みが走る

足が崩れ跪く体制でいた

「ゲールさん!!大丈夫ですか?!」

シスターさんの声が聞こえる

「……ッ…大丈夫です…!!早く進んで…!」

時間が無い

僕は直ぐに立ち上がる

後ろにあった障害物や道は大きな音を立てながら奥底の暗闇へと落ちてゆく

僕は彼女の肩を借りながら部屋に着いた

しかしその先の扉は既に閉まっており、壁紙には『ゲームオーバー』という文字が浮かんでいる

ただ唖然とする

この場に居るのはシスターさんと僕だけ

僕は何も出来なかった

何の役にも立たない

「ゲールさん」

呆然としていた僕にそう声をかけられる

綺麗な笑顔で彼女は僕を見ていた

天井もゆっくりと崩れてゆく

そんな中で僕の手を暖かく、強く握りながら

僕と彼女は地面に座り込んだ

「…かっこよかったです。ゲールさんはみんなの中でも……とてもかっこよかったです」

切実にそう言われた

彼女は悔しそうな顔で、涙を流す

「私は……ッ!誰にも幸せをあげれなかった……ッ!!!この世界ならって…ッッ!!けど結局………何も出来ませんでした…守られてばかりでした…」

彼女は僕の顔を見ながらポロポロと泣き出す

彼女のことはよく知っていた

過去のこと、トラウマになってしまったこと

僕に話してくれた

僕だってそうだ

けどこれだけは言える

「……いいえ。僕は貴方がいてくれたからここまで来れたんです…貴方が僕を助けてくれたから…幸せをくれたから」

笑顔で言えた

昔から誰にも頼れなかった

両親も僕のことなんかどうでもいいと言われ、学校でも虐められてばかりで

いつも1人で泣いていた

でも僕はこの世界にこれて良かったと思える

だってこんなにも優しくて僕のことを信頼してくれる相手に出会えたのだから

両手で恋人繋ぎをして僕は恥ずかしくなりながらも言う

「僕は…あなたの事が大好きです。いつか必ず…お迎えに行きます」

彼女は呆然とした後に笑顔で答えた

「…待ってます」

床が段々と崩れ落ち2人は手を繋いだまま目を静かに閉じる

顔をお互い近ずけ……キスを交わした

そして2人は奥底の暗闇へと沈んで行ったのだ




──Cブロック──

ラケルタside

我の視界が明るくなり、そして足場が広くなっていた

本来ならこのような景色が見えていたのか

流石コルニクスだな

「他のものも見えるようになったか?」

我がそう聞けば何人か返事が帰ってくる

「私も大丈夫ですよー。早く進んじゃお」

「やみづき早く行ってくれ……こっち結構きちぃんだよ」

「ちょっと待て。そんな急かさないでっての」

そう話すのはsyu殿とやみづき殿

2人とはまだあまり話しては無いがこのゲームであった2人だ

そしてその後ろにらりっとる殿もおって、彼女は我の言葉にコクコクと頷いた

フロアもねくと殿も見えるようになったようだ

これでスムーズに進むであろう

そのまま順調に進み、ゴールまでたどり着けた


『残り時間:5分』


時間は過ぎてゆく

そしてアスレチックのステージは段々と崩れ始め、やがて0分になる頃には全て暗闇の底に沈んで行った


『……ゲーム終了です…生き残った皆様…お疲れ様でした』



──Bブロック──

ウルボside

『……ゲーム終了です…生き残った皆様…お疲れ様でした』

黒さんのアナウンスが流れる

なんとかこのゲームを終えることが出来た

最初はどうなるかと思ったけど、全員無事で何よりだ

終わった瞬間、みんなその場に座り込む

「はぁぁ……つ…疲れた…」

けけさんがため息をしてそう言った

そうだ

お礼をしなければ

僕はメイさんの近くにより座りながら小さく頭を下げた

「メイさん……ありがとうございました…おかげで最後までたどり着くことが出来ました」

「いや…そこまでのことはしてないから……気にしないで。礼ならけけさんに言いな…ウルボくんのこと1番守ってたんだし」

話を聞けば僕を落とそうとしていた奴を蹴落としたらしい

僕はけけさんにもお礼を言って少し休憩することにした

もう僕ら以外残っていなかったのもある

「……他の奴らはここで死んだんだな」

もかのすけさんが悲しそうに言う

みんな黙るばかり

僕は静かに目を閉じ、黙祷を捧げた



──Aブロック──

カインside

またか

何も出来ず大切な人をまた失った

先に行かずに戻るべきだった

情けない

「……カイン。シスターさんもゲールさんも幸せに行ったよね」

「………だといいな」

2人の行動はモニターで見せられていた

だから状況は全て把握済み

──正直見たくなかった

しかしここはデスゲーム

死ぬのが当たり前の世界

心の底から叫びたい

泣きたい

だが我慢だ


俺は片手を強く握りしめる

手のひらからポタポタと血が滲んで落ちてゆく

するとテテルが俺の手をそっと握った

「カイン……ちょっと聞いて」

今すぐにそれをやめてとばかり言うような顔をして

「なんだよ」

そう聞くとテテルは悲しげに言った

「私も辛いし、苦しいし、悲しいよ…でも……それでもさ、2人は死ぬ最後まで…一緒にいれて幸せだったと思う……だってあんなに愛し合ってたんだもん」

「それは俺も同感だぜ。つーか正直俺は怒りの方が大きいな。あいつの顔面を早く殴り殺してやりたい気分だ」

ニコッとしてザペルは話す


──こいつらだって辛いんだ


本当なら大声で泣き叫びたい

しかしそうなればあいつの思う壷だろう

みんな我慢している

「だから早くあの女を倒して帰ろ!!」

テテルがニコッとしてそう言った

するとアナウンスが鳴り響く

『……皆様にお伝えします。ただいま人数を確認した結果…何名か多いことが確認されました……よって……』


『"ランダムで選ばれた方を公開処刑"とさせていただきます』


「「「……は?」」」



Bブロック

ウルボside

『"ランダムで選ばれた方を公開処刑"とさせていただきます』

「「「「「えぇぇ?!」」」」」

みんなが驚く

それもそのはず

確実にクリア出来ているはずなのに理不尽だ

「おかしいだろ!!人数は満たしているだろ!」

メイさんが大声でそういった

人数は満たしてるはず

だって何度数えても16名……



どうして?



Cブロック

フロアside

『"ランダムで選ばれた方を公開処刑"とさせていただきます』

訳が分からぬ

人数は満たしているというのにこの発言だ

こちらでは18名

この中から何名か消えるというのか…

我らが当たらなければ良いのだが

『それでは処刑を開始致します』

そのアナウンスが流れ終えると何名か床に穴が空き落ちていった

そやつらは毒蛇に食われたり、大量の銃が現れ銃殺されたりと様々であった

残ったのは知ってるものたちのみ

「なんとか逃れたな」

ラケルタ殿が処刑される姿を見ながら言った

『それでは最後の処刑に参りましょう』

黒のアナウンスで伝えられると目の前にいた我が子の上空からロボットのアームのようなものが飛び出してきた

我は素早く、ねくと殿を掴もうとしたが──

遅かった

ねくと殿の体を強く縛るように掴み連れていかれた

もう少しで届こうとしていた所をラケルタ殿が我を地面に引き寄せる

今の我には何も出来ぬ

その光景を我は見ることしか出来なかった


何も出来ぬのだ


Aブロック

カインside

『それでは最後の処刑に参りましょう』

そのアナウンスが聞こえた次の瞬間、テテルの体が浮いていた

ふと見ればロボットのアームのようなものが飛び出しテテルを捕まえる

ザペルと俺で切り離そうとするが掴めば電流が流れ全身に痛みが走る

俺とザペルはその場に倒れた

「カイン!!ザペル!!!」

大声で俺たちを呼ぶ声が聞こえる

テテルの顔を見れば笑顔で涙が溢れていた

「……ありがとう」

俺は何も信じたくない

何も見たくない

だが俺はその光景を見ることしか出来ない

何も出来ない自分が憎い


Cブロック

ねくとside

持ち上げられた瞬間、私は死ぬのだと察した

死にたくない

まだやりたいことが沢山あるんだよ

もっとみんなと話したい

もっとみんなと遊びたい

早く帰りたい


嫌だ


私はそのまま大きく透明なガラスケースに運ばれた

とても広く何百人も入れると思われる

しかし何も無い

今から殺されるのではないのか?

そう思っていたその時だった

「ガルルルル……」

嫌な声が聞こえ、後ろを振り返る

私より大きな虎がヨダレを垂らしてこちらを見ていた

「あ……」

声も出ない

私はこのままこの虎に食べられるんだろう

「逃げろ!!なるべく長く生き残れ!!!」

フロアの声が聞こえた

まだ生き残れる可能性がある

虎がこちらに全速力で走ってくる

なら……逃げるしかない


フロアside

「落ち着けフロア!!お主が行けばどちらも消えてしまうだろう!少しは考えろ!」

ラケルタ殿が我を捕まえ、止める

「あんな状況に陥っておきながら、大人しくできるとでも思うのか?!」

「……いくらお主らでも容赦はしないぞ。力は対等だ」

ラケルタ殿は我にそう言った

『あれれぇー??お困りで?』

憎たらしい声が聞こえる

ゲームマスターの声であった

「お主は……一体何がしたいのだ…力が元に戻ったらまずお主から我の雷で粉々してやる」

『えぇ??当たり強くない???ひっどいなぁ……カルメちゃんガッカリ。君たちにやさァしくしてあげるのにさぁー』

ニコニコとした表情が浮かび上がる

余計に腹が立つ奴だ

「……なにか方法があるということでしょうか?」

コルニクス殿が問うとケラケラと笑いながら返した

『あはは!!だいせいかぁい!あの子は君たちの知り合いなんだよね?だったら"助けたい"よねぇ?なら私が直々に教えて……あ げ る♡』

話を聞けば何かわかるかもしれぬ

「さっさと教えろ!!小娘!」

『だァれが小娘だぁ??……まぁいいや。教えてあげる。あの子を助けられる方法は"時間内まであの虎に捕まらずに逃げ切れば生かしてあげる"簡単な話でしょ?』

我はそれを聞けばすぐさま大声で叫んだ

「逃げろ!!なるべく長く生き残れ!!!」

『さぁ……どこまで持つのかなぁー…』


ひとつのてるてる坊主は海の中へ沈んでゆく

必死にもがいたところで誰も助けられない

周りには肉を頬張る魚がうじゃうじゃといた

魚たちに囲まれ、全てを食いちぎられる

何一つ血も出ないてるてる坊主

だが少し悲しさが込み上げてくるだろう


テテルside

何も聞こえない

体は下へ、下へと沈む

小さく出来たシャボン玉のような物がどんどん上に昇ってゆく

息もできない

このままゆっくり目を閉じて静かに眠りに着きたい

そんな思いで目を閉じてみた

〔おいおい……そんな所で寝るなよ。お兄ちゃんの身にもなってくれ〕

懐かしい声が聞こえる

目を開ければそこには居ないはずの人がいた

馬鹿兄だった

彼は数年前、私がまだ中学生の時に事故で死んだ

私の好きなお菓子を勝手に食べたりテストの勝負を挑んでも毎回負ける

ムカつく野郎だ

周りを見れば自然に囲まれ、大きな木下で私はそいつの膝の上に頭を乗せて寝ていたらしい

「…いいじゃん。これくらいさせなさいよ馬鹿にぃ」

今はこうしていたい

〔だぁれが馬鹿にぃだ!……にしても珍しいな。いつもならこんな事しないだろ?最近なんか変だぞ?〕

「さぁね……私は変じゃないと思うからいいの」

〔ふーん?〕

兄はニコニコとしながら私を見る

「……なによ」

〔楽しかったか?あいつらと遊ぶのは〕


───見てたんだ


「…………うん」

〔そっか。ならよし!じゃあ……行くか?〕

そう言って川の向こう側を見る

暖かい場所

癒される場所

行きたい

しかし馬鹿兄を見れば少し悲しそうな顔をしていた

不思議に思ったが───

私は兄の手を掴む

「早く行くよ?馬鹿にぃ」

〔……はいはい…〕

兄は少し笑って一緒に船に乗り、川を渡った

大きな木下に1人の女の子がその光景を見る

「………おやすみなさい」

黒髪の少女は白く染った欠片を持ち、消えた


ねくとside

どんだけ逃げても追いかけてくる

どんだけ走っても追いつかれる

私の体力は段々と消費し始めた

息が出来ない

ちらりと壁を見れば制限時間を刺す時計があった

もう少しで制限時間は切れる

行ける!!

最後まで走り続けろ私!!!

足が痛みで悲鳴をあげようが関係ない

走れ!!!!


ビーーッ


終了の音が響く


終わっ……た??

後ろを振り返れば虎は針の串刺しになり後に動かなくなった

「やっ……た…」

そうボソッと言った

安心感が襲う

私はそのまま地面に座り込んだ


そしてアナウンスが鳴り響く

『……それでは1ラウンド目の合格を確認。2ラウンド目に突入致します』

「……えっ…?」

上から飛び出した別の虎が私に襲いかかった

口を大きく開け尖り並んでいる歯がはっきりと見える

私の目の前は真っ暗になった


嗚呼……もっと、遊べばよかったかな



真っ暗な世界だ

これで、私の人生終了かぁ……

そんな時だった

「おーい!ねくとちゃーん?」

私は大声をだす奴に起こされる

「……ん?」

「何ボーっとしてんの?」

目の前にいるのは…

あー……飛鳥あすか

「眠いのなら、もう寝る?」

りょふもいる…って、私何してたんだっけ

えーーーーっと……あれ?

記憶が飛んでいる

そういえば、さっきまで私何してたんだろう

「ねくとさんちゃんと寝ないとダメっすよ?」

アンノンが居る…

周りを見渡すと、様々なアバターや食べ物達が所々に置いてあった

これは…アバターブース?

訳が分からん

なんで私ここにいるん???

困惑していると、りょふが提案し始める

「まぁとりあえず、ここは回ったし、別のワールドに移動する?」

すると、みんなそうしようって流れになった


なんか────忘れているような気がする


なんだっけ

「おーいねくと!行くよ?」

りょふが私のことを呼び、ポータル近くにみんなが集まっていた

なんだろう


ここから先は、行っては行けない気がする


「……まぁいいや」


今日は、のんびりとしてよう

私はそう思いながら、りょふたちについて行った



「……永遠の眠りへ…ご案内致します」

黒髪の少女はそう言って、その場を立ち去る



フロアside

我らの見ている画面には、虎の口周りが赤く染まり初め、ねくと殿の体が段々と小さくなってゆく

皆その様子を見ていた

ダンティーは青ざめ、らりっとる殿はその光景を静かに見ている

やみづき殿とshu殿は画面をただ見るだけ

ラケルタ殿、コルニクス殿も同様だ

我は無言で画面を拳で殴り、割った

パラパラと破片が床に落ちてゆく

「……はぁ…はぁ……」

息を荒らげながら───

『ざんねぇーん!成功ならずだったねぇー?』

あのムカつく小娘が別の画面から我に声をかけてきた

「……なぜ言わなかった」

『えぇ〜?だって聞かれてないしぃー?言おうとしたらあんたが話降ったんでしょ?どうしようもないよねぇ』

画面をガシッと掴み顔を引き寄せる

「……お主…名を名乗れ」

『え?!まさか最初の挨拶聞いてないとかぁ?!馬鹿だねぇ!まぁ今私は超機嫌がいいからぁ…教えてあげる。このゲームのマスターであり元凶!カルメだよぉー!』

ニコニコとしながら彼女はそう言った

「カルメ……お主を我直々に手を下してやろう…」

『なになに??宣戦布告??あんたが生きるか死ぬかもわかんないのに???馬鹿だねぇ……でも面白そう。いいよ?こっちまでおいで???来れるならァ!!!あはははは!』

狂ったように笑う彼女


こいつは我の手で殺す

後に我らは休憩所へと導かれた


レーアside

我らは次の部屋へと向かう

すると、そこにはラケルタ殿やダンティー達の姿があった

「レーア殿!」

ラケルタ殿が我に向かってそう言う

「ラケルタ殿!無事でしたか……」

「力は弱まった状態であるが…なんとかな」

そんな話をしているとフロアの姿をふと見る


──何となく予想はしていた


ねくと殿の死を目の前で見たのなら意気消沈するのも無理は無い

「…フロアどうしたの?」

我が子が聞いてくる

するとダンティーがニコッとして話す

「フロアさんは少し疲れたんですよ…私も今休憩中ですし」

「じゃあねくとちゃは?」

その言葉に、沈黙する

我は我が子を抱き上げて目線を合わせた

「……大丈夫だ。ねくと殿は後に来るだろう」

そう言うしか無かった



カインside

シスターさんが死に、ゲールさんも死んだ

そしてテテルもモフテルも────

地面で仰向けになり、何も無い天井を見上げる

どうしていいのか分からねぇ

いつものあの日常が、彼らが恋しい


──俺も死ねばあいつらと会えんのかな


「……おーい。生きてっかぁ?」

ザペルが俺の顔を上から除く

「なんだよ…」

「お前メンタル大丈夫か?」

ザペルの言葉に何も言えなくなる

「…はぁ……なぁカイン。あいつの事だ。どうせ俺やお前が死んだらあいつめっっっちゃ怒るだろ????」

「……怖ぇくらいにな」

「なーんだ。分かってんじゃん」


"だったら死にものぐるいで生きるしかねぇだろ?"


あいつの目は、何故か誇らしげだった





to be continued



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