第8話 あいされたい
ウルボside
僕は偶然出会ったけけさん、もかのすけさん、メイさん、そしてヒナミィさんと一緒に行動することにした
こんな僕がいても足でまといになるだけと彼らに言ったけど…
人は多い方がいいだろう、との事
確かに、僕一人では何も出来ない
逆に助かったのかも
後に様々な場所を探索し、化け物と思われるものから避けながら、安全だと思われる屋上に着く
外の景色は怪しげな夜の景色が広がっていた為、少し不気味に感じる
「さて…とりあえず色々探索はしたものの……見つけたのはこの謎の御札だけ?」
持ち物を確認するけけさん
「そうだね……問題はこの御札何に使う物なのか調べる必要がある。とりあえずもかちが持ってて」
メイさんがそう言って、もかのすけさんに御札を渡す
「調べるってなると…図書室とかに何かあるんじゃない?行ってみる価値はあると思うよ」
そうけけさんが提案する
確かに、唯一探索していなかったのが図書室だ
「じゃあ行こうか」
もかのすけさんがそう言うとけけさん、メイさん、僕で行けば良いのでは?との提案をヒナミィさんからされる
ヒナミィさんは行かないとのこと
何度も理由を聞いても、答えになってない回答が帰ってくる
こんなことをしても埒が明かないのでもかのすけさんとけけさん、僕で行くことにした
メイさんとヒナミィさんは屋上で待機
そんなこんなで、僕達は図書室に無事到着し、化け物が来ないと信じながら、三人でそれぞれ探索し始める
本棚の上や椅子の下など
周りを探索していると、僕は倉庫のような場所を見つける
扉を開け、中に入ってみた
そこには、奥に大量の段ボールが山積みになっており
地面には様々な本がちらばっていた
そして大きな棚の上には、美術品の肖像画などが飾られ、収納されていた
僕は順番に探索をする
額縁の裏、山積みになっている段ボールを探る
しかし、これといったものは特になかった
「何もないかぁ……ん?」
床をふと見れば、他の本とは違い赤く染まっており目立つ本を見つける
「題名がない……どんな内容なんだろう」
ふと気になり、ページをめくる
そこに書かれていたのは…
【都市伝説のミステリー】
僕は一度、本を閉じる
心臓が、バクバクとうるさくなり始めた
本当にこういうものは苦手だ……
けど…今は少しでも情報を持って彼らの役に立ちたい
意を決して本を開き、しばらく読み漁る
トイレの花子さんやこっくりさんなど
学校でよく見るものばかりだ
そんな中、聞いたこともない都市伝説が目に入る
そのページには【ケロケロ様】と書かれているが、下に内容が書いてあるはずだ
──破かれている それもズタズタに
これではどんな都市伝説なのかはっきりできない
「ケロケロ様?そんな都市伝説あったっけ……」
他のページも目を通したがケロケロ様に関するものは記されていなかった
ページを中間までくるとパラりと御札のようなものを見つけポケットの中にしまう
本の一番後ろまでたどり着くと何かがドシャっと沢山の物が落ちていく音が後ろから聞こえてきた
「ひっっ…!な……なに?」
恐る恐る後ろを振り返る
山積みにされていた段ボールが崩れて大量の本が床に散らばった
「なんだ……びっくりしたぁ…早くここから出て報告しに行かなきゃだよね……」
そう思い、僕は赤い本としおりを持って倉庫の部屋を開けようとする
ドアノブに手を取り回した
回そうとしたと言った方が正しいか
「………あれ?」
"開かない"
そう思ったその時、後ろからぐちゃりと何かが落ちた音が耳に入った
「……え?」
恐る恐る後ろを振り返る
そこには、生首だけの男の子が首から血を大量に流していた
瞬間、僕は一切声が出なくなる
息が荒い
男の子の目がギョロっとこちらに目を合わせる
合ってしまった
僕の意識は──そこで途切れる
もかのすけside
「けけさーん!そっちなんかあった?」
俺は少し離れた本棚を探索しているけけさんに聞いてみる
「いやー?特にないぞ」
情報は一切なし
これじゃあ来た意味がないな
そう思いながら長く時間を探索していたせいか疲れてきた
「ウルボくーん!そろそろ戻ろー」
俺はウルボくんを呼ぶ
しかし返事が返ってこない
どうしたのかと思いウルボくんが入った倉庫の扉を開ける
「ウルボくーん?……?!」
暗闇の中、顔を青ざめさせて、その場に倒れているウルボくんを見つけた
「ウルボくん!!大丈夫?!」
俺はすぐに駆け寄る
彼の近くには、赤い本と俺たちが見つけた御札が落ちていた
とりあえずその二つを俺が持ち、けけさんにウルボくんを運ばせた
急いで屋上に戻る
途中、化け物と遭遇したが俺らは全力で走る
あとからけけさんに聞いた話だが、その時でもずっとうなされていて、静かにお母さんと呟いていたらしい
悪夢を見ているのだろうか
屋上につくとウルボくんを壁に寄りかかるように寝かせる
「大丈夫かな……ウルボくん」
ヒナミィが心配そうに彼を見つめ、そういった
するとウルボくんは苦しみだす
足をジタバタをさせ、汗を流す彼
みんなが慌てる
そんな中、メイメイが彼の両肩を掴み、彼の名前を大声で呼んだのだ
ウルボside
僕は、人生がうまくいってないと思っている
何事にも挑戦して、何度も失敗して
成功したとしてもほんの少しだけ
僕は一体何がしたいのだろうか
未だにわからない
何が特別で、何が一番幸せなのか
それは人それぞれ違うと思う
けど僕にはそんなものはないと、小さいころからそういわれたから
大好きだとか愛しているだとか
そんなの知ったこっちゃない
何もかも闇だらけで僕なんか居なくたってどうにでもなる
よく学校とかでグループ分けやらあるがそんなもの消えてしまえばいい、なんて思う
僕がいたところで何も変わらない
他の人だけで充分だと
そう言えるのだろう
──いっそのこと、殺された方が楽なのかもしれない
誰にも見つけられず、静かに死にたい
水の泡になって消え去りたい
なにかに必死になってやり遂げる
そんなことがあったら、何か変われたのだろうか
悪夢ばっかり見せてくる
今でも聞こえてくるあの言葉
きもい、邪魔者、役立たず
消えろ
居なくなれ
もう、何も聞きたくない
僕は耳を両手で塞ぐ
“あんたなんて産まなければよかった"
母から口癖のように言われたあの言葉が、頭を過った
嗚呼、なんでこんなにも、僕は残酷な人間なのだろうか
涙が零れ落ちる
僕はただ、見て欲しかっただけなんだ
誰に頼ろうたって、誰も助けてくれないから必死に努力した
勉強も、スポーツも、人間関係だってそうだ
お母さんとお父さんに褒めて貰えると思ってた
学校のテストで、初めて満点を取れた
今度こそ見てもらえると……
褒めてもらえると思った
好奇心を抱きながら家に帰る
けど、そんな期待は叶わなかった
親はいつものように喧嘩していたのだ
毎回不倫の話で揉めている
またかと思いながら、僕は引き出しの中に満点のテストの紙をしまう
そのたびに涙が零れ落ちた
大声では泣かず、布団の中でうずくまり、静かにする
慰められた事もなければ、褒められた事もない
いつも怒られてばかり
みんなは楽しそうに親について喋るところを聞く
そんなお母さんとお父さんがよかった
そう言いそうになる
小さい頃の僕は、当時の親が大好きだった
最初のころは家族みんなで遊園地に行ったり、キャンプしたりと楽しかった
幸せな時間をこのまま止めてくれたらどんだけ幸せなのだろう
もうわからない
何もかも
愛する家族なんて、大切な友達なんて
僕には居ない
僕をちゃんと見てくれる人なんているはずがないから
だからここに逃げてきた
それでも僕は悪夢を見続けている
こんなゲームに巻き込まれるなんて、どんだけ運が悪いのだろう
心臓が締め付けられそうな痛み
息が続かない
悪夢ばっかり見せないで
たまには──
誰かに愛されたい
誰かに見てもらいたい
誰かに褒めて欲しい
こんな僕にも、幸せな夢を見させてよ
誰か……
──────この暗闇から出させて
「……ボル…っ!…ウルボくん!!!」
誰かが僕を呼ぶ声が聞こえ、僕はハッとして目をぱっちりと開けた
暗闇だったはずの景色が一気に明るくなる
僕の体は壁に背中を寄りかかり、座り込んでいた
目の前には僕の両肩を掴んでゆさゆさと揺らし、焦っていたメイさんの姿があった
僕達はいつの間にか図書室から抜け出し、屋上に戻ってきていた
メイさんは僕が起きたことに気づくと、安心した様子で僕を見る
「よかった……ウルボくん。大丈夫?」
「は……はい。大丈夫です…」
少し息を切らしているけど問題はないと思いメイさんに言う
話を聞けば、二人が探索を終えて僕を呼んだらしいが一向に返事がなく様子を見に行く
部屋の中に入ると僕が倒れていたらしくずっとうなされていたらしい
「本当に焦ったよ……けど無事で何よりだ」
けけさんは笑顔でそういった
もかのすけさんやヒナミィさんも心配そうに僕のことを見ていた
「あ…!そうだ……本…!」
図書室で見つけた都市伝説が書かれている本と御札のことを思い出し焦る
すると、もかのすけさんが僕の目線に合わせるようしゃがみ、手元に一冊の本と御札を持たせていた
「大丈夫。俺らのほうで回収したから」
「そうでしたか……ありがとうございます」
僕は少し俯く
けけさんたちのおかげで戻ることはできた
──やっぱり何も出来てない
"役立たず"だと……また言われるのかな
「本当に大丈夫か?どこも痛くない?」
心配そうに、もかのすけさんがこちらを見る
他のみなさんも心配そうに見つめていた
ふと、不思議に思う───
なぜそこまで心配をしてくれているのだろう
僕は呆然としていた
「あれ?ウルボくん?」
けけさんが僕に声をかけ、顔を覗き込む
「え…えっと、大丈夫です………もう落ち着きましたから」
僕は笑顔でそういった
後に、この後どうしようかと、彼らは向こうで話しに行く
僕はまだ休んでほしいとみんなから言われたので、そのまま夜の景色を眺めていた
いつになったら、この地獄が終わるのだろうか
そんな不安を抱きながら、光り輝く満月を眺めた
「ウルボくん。そんな顔してどうしたの?」
「あ…もかのすけさん……」
もかのすけさんは、僕の隣に座る
「聞いてもいい分からないけど……何か嫌な夢でも見たの?」
話を聞くと私がうなされているとき、お母さんと呟いていたのを気にかけていたらしい
「……少し、昔の夢を見ていました」
僕はボソッと言う
〈あんたなんて産まなければよかった〉
また浮かんでくる母の言葉
心が締め付けられるような感覚が襲う
「僕は何もできない……ただの邪魔なお荷物ですから……」
──僕は何を言っているのだろう
自分でも意味が分からなかった
「どうしてそう思ったの?」
どうして?
考えても、よくわからなかった
その場に合わせて空気を読み表情や言葉を変える
まるでピエロのようにして本性を隠していた
それでもいつしか報われるのだと
ずっと願っていた
けどやっぱり何もできないのが僕なのだと
「ウルボくんは自分のことどう思ってる?」
「………わかりません。僕自身何がしたいのか……」
僕は失笑するだけ
「……そっか」
もかのすけさんは、僕の話を静かに聞いてくれる
「正直、僕のいる意味はどこにあるのか。誰かに必要とされたかったと何度も思っていました」
どれだけ努力してもどんだけ心を傷つけられても我慢した
それでも誰にも届かないのが現実だ
「……ウルボくんはよくやったよ」
そう言って、僕の頭を撫でてくれた
「過去に何があったかは知らないけど、少なくとも俺たちの中ではウルボくんが必要だ。怖いのが苦手な君だけど、それでも頑張ってくれてた。俺も負けてられないと思ったし。だから…もしひとりじゃ何も出来ない状況にあったら必ず俺たちを頼りな」
──君はひとりじゃない
そう言いながら僕の肩を軽く叩く
「………ありがとうございます」
僕はまた俯く
こんなことを言われたのは初めてだ
嬉しかった
そんな中、ぐちゃぐちゃと嫌な音がする
もかのすけさんがその音に気がつくと僕の耳元でヒソッと言った
「絶対に音を立てないで。声も出さないこと」
「はっ……はい…」
そう言われ僕は扉から離れて端っこに座り込む
もかのすけさんはヒナミィさん達のところへ急ぐ
まだ体力が回復してないからか体が重い
けど何故音を立てちゃ行けないんだろう
そう思った次の瞬間
屋上の扉が吹き飛ばされる
大きな音が耳に響き渡り、耳鳴りがした
次の光景を目にすると僕はもかのすけさんが言ったことをすぐ理解できた
化け物が音に気づいて食べてしまうのだから
僕は自分の口を自ら手で抑える
少しの音でも出したら全てが終わってしまう
緊張感が走る
心臓がバクバクとうるさい
早く逃げなきゃ
ドロドロとした物がズリズリと引きずりながら体を移動させる化け物
初めて見る
そして漂う鉄の匂い
血だ
もう何人も食べたのだろう
考えるだけでゾッとする
しかし化け物は僕の横を通り過ぎて行った
"絶対に音を立てないで。声も出さないこと"
もかのすけさんの言葉が過ぎる
音を出せば化け物が勘づいて追いかけてきて来るから忠告してくれたのだろう
息を殺し、気配を消す
バクバクと心臓がうるさいが、今はそんなこと関係ない
早くここから出なければ
みんなで逃げなきゃ
でもどうやって?
屋上は柵以外何も無い
あるとすれば僕の場所より遠くにある
投げれるものすら無いというのにどうすれば
考えていたその時、ふと壊れてしまい床に倒れている扉を見る
そしてここは本当の世界では無いく仮想現実の世界だということを思い出した
これなら─────
メイside
化け物は真っ直ぐこっちに歩み寄ってくる
鉄の匂いが強く、息が出来なくなりそうだ
ズリズリと引きずりながら移動する化け物の後は赤く血のような液体が流れている
もう既に何人もの犠牲者が出たのだろう
けけさんはヒナミィの口を手で抑えていた
声を出そうとしていたのを防いだんだ
すぐに声を出そうとするから、ひとまず安心
もかちがこっちこっちと合図を送ってくる
俺たちは静かに移動していた
そして扉に向かっていた最中
「んー!!……ぷはっ!けけくんなにし………んむッ!」
ヒナミィの声が聞こえた
その音を聞き、化け物はこちらに目をギョロっと向ける
けけさんが再度ヒナミィの口を抑えて黙らせた
──がその必要は無かったらしい
もう既に化け物の触手がこちらに勢いよく伸びてきていたから
これで死ぬのだとみんなが察する
急いで走るが間に合わない
「どいてくださぁぁぁぁいっっ!!!」
ウルボくんの大きな声が聞こえた
小さく屈んで先程壊れて落ちていた扉を両手で持ち上げ、化け物に向かって走ってくる
俺たちは咄嗟に避けた
ウルボくんは化け物の前まで来ると扉を大きく振りかぶり、そのまま上から振り下ろした
ぐしゃりと化け物の体は床に打ち付けられる
ピクピクとして動かない
「はぁ…はぁ…」
ウルボくんは疲れたのか息を切らす
「今のうちに逃げよ!!」
ヒナミィがそういう
彼女は先に屋上の出入口に着いていた
みんなで屋上から離れ、体育館へ走る
ヒナミィに強く言いたかったが、目の前の光景に目を背くことが出来ない
そこには少女の幽霊が真ん中に立ち尽くしていた
少女はボソボソと泣きながら何かを呟いている
《おにいちゃんどこ?ねぇ…どこ?どこ?どこ?どこ…………》
そう何度も何度も繰り返して
《かえりたい……おにいちゃんと…おうちに……》
何処と無く悲しそうだった
すると、ウルボくんは少女に近く
怖いのが苦手な彼だったはずなのに今の彼は何か違う気がする
彼は少女の目線似合うようにしゃがんだ
「……お兄さんに会いたい?」
そう聞くと少女はコクコクと小さく頷いた
そしてウルボくんはこう聞く
「…例えどんな姿になってても………?」
彼の言葉を聞いて、俺は一瞬理解が出来なかった
けど彼の言っているお兄さんは────
"あの化け物の事だろう"
赤い本には、都市伝説の中にこんな内容が書かれている
【ケロケロ様は、蛙の怨霊であり、憎しみを好む霊。願いを叶えることが出来るが、ひとつの魂を引き換えにより、叶うことが出来る。そして、生贄にされた魂を食い荒らし、全て無くなるまで魂を苦しませる。ケロケロ様の出現方法は2人から4人までの人間が対象の魂を生贄にすれば出てくる。最後の感謝を伝える祈りを忘れずに。でなければ………呪われるであろう】
しかし、とあるページを見れば、微かに文字が書かれていた
その文字はとても幼く所々読めなかったが
【おに……んを、た…け…ほうほう】
少女は、お兄さんを助ける方法でも探そうとしたのだろうか
しかし相手は人を食い荒らす化け物
俺らはどうすればいいのか困惑しつつ、少女に近づいた
「ハナ………レロ"」
低く、ドロドロとした音が後ろから聞こえた
振り返るとそこには先程の化け物が入口を塞いでいたのだ
「やばいぞ!これじゃあ逃げ道が……」
けけさんがそう一言発した次の瞬間
無数の触手が俺らに一直線に伸びてくる
それも物凄い速さで向かって───
「──ッ!」
ウルボくんが俺らを庇うように両手を広げ前に出る
俺はその場から動けず、ただ見ているだけだった
場所 ???
???年前
???side
とある学校で、先生が言い出す
生徒が1名行方不明なのだと言う
先生は不安な表情をしていたが、1部生徒はクスクスと嘲笑った
行方不明になった生徒の名は石塚輝祐(いしずかたすく)
1人の妹さんがいるのだが、その子も何も知らないのだそう
最後に見た人も居らず、警察が誘拐事件として捜査をしているらしいが……
いつまで経っても、彼が帰って来ることは無かった
「なぁ、あいつ死んだんじゃねぇの?w」
数日だった頃、いじめを行っていた1人が笑いながら言った
周りの奴らもげらげらと笑う
「全然戻ってこねぇしなwww」
「いやいや戻ってこなくていいだろ??w」
……正直自分もどうでもよかったが、こいつらの感情はどうなってるんだとつくづく思う
それに、あいつは良い奴だ
理由もなしに居なくなるなんて、断然ありえない話だろう
妹思いの奴が……
一体どこをほっつき歩いてるんだか
周りの奴らは、俺に対しても罪を着せてくる
懲りない奴らだ
学校の近くに鳥居がある
両親も苦しい思いをしているんだろうな
せめて、願いでもしに行くか
片手に桔梗(キキョウ)という花を持ち、鳥居に足を運ぶ
誰もいないことを確認して、小さな神社に花を添えた
「……なにしてるの?」
聞き覚えのある声が後ろから聞こえる
「ちょっと暇だったから、来ただけだ」
俺はそう言って、会話を避けた
声の主は、石塚の妹だろう
「…そう……」
俺が荷物を持ち帰ろうとする
彼女の横を通り過ぎようとすると、ふと口元が見えた
それは、優しく微笑んでいるように見える
……花を置いた理由なんて、大したことじゃねぇってのによ
「…………起きて」
「……あ"?」
俺は黒の声に起こされ、目を開ける
いつの間にか、ソファで寝ていたようだ
「もうゲームが開始してる……寝ていないで、さっさと手伝えって…マスターが言ってた……」
ウザったらしい命令が、また来る
「…あいつはどうした?」
「……既に準備を始めてる」
相変わらず真面目な奴だ
「そうか。なら、俺が行く必要ねぇだろ」
『それは困りますわよぉ〜?吸血鬼のお兄様♡』
ちっさな機械から喋りかけてくるクソババァ
「"ダチュラ"…お前はいい加減その気持ち悪い喋り方を治せよ」
俺がそう言うと、奴は怒り出す
『なんですって?!わたくしにそんな下品な言葉を口にするなどと!!許せませんわ!』
ダチュラ、奴は蜘蛛の悪魔とされている
能力の幻覚を使いこなし、脱落者を増やす
そして、部下として使えなくなった者や1部の脱落者は、全てあいつの腹の中
食われたやつの感情、能力を共に食い荒らす
関わりはするが、あいつの姿なんて1度も見たことはねぇ
「……ダチュラ様は順調なのでしょうか」
黒がそう聞けば、奴は誇らしげに語る
『もちろんですわ!このわたくしをなんだと思っていらっしゃるの?』
この様子だと、結構食ったんだろうな
これは今回もあまりいい獲物は居ねぇんだろう
しかし、そう思っているのもつかの間だった
『けれど、今回の方々は少ししぶとかったですわ』
「…おい。それは本当か?」
『わたくしが嘘ついたことありまして?先程の脱落者の体、あまり好みじゃなかったわ』
好みでは無い
ということは、ダチュラ以上の骨のあるやつが来たということになる
あいつがマズいと言えば、"俺の好物"だ
「……あいつのとこに行ってくる」
『は?!ちょっと!まだ話は終わっていませんわよ!!』
俺はそう言って、弟の場所へとすぐさま足を運んだ
『もう!あの方はいつもこうですわ!!』
ダチュラの操作している機械はジタバタせながら怒りを表現する
「……ダチュラ様。引き続き、お願い致します」
黒はそう言って、マスターの元へと足を運ぶ
『ちょっと…!!……もう!分かりましたわ!もっともっと絶望を見せてやりますの!』
彼女もまた、元の場所へ戻るため、機械を動かし始めた
その頃
ウルボside
《かえりたい……おにいちゃんと…おうちに……》
少女は悲しそうに言っていた
本当の家族というのは、こういうものを言うのだろうか
──しかし今はそんなことを考えないようにしよう
どこに居るのかも分からない自分の大切な妹を探そうとする化け物
会いたい人と会えず、ここが何処なのかも分からない場所で泣いている少女
もしかしたらこの子達は兄弟でどちらもお互いを探しているのでは無いのかと僕は考える
家族の愛というのを僕は知らない
それでもあの化け物と会いたいのなら力を貸す他ないと──
"例えどんな姿になっても会いたいのか?"
僕がそう聞くと少女は小さく、うんと応えた
羨ましい
ふと思った次の瞬間
化け物が入口を塞ぎ何かを伝えようとしているが、僕には聞こえなかった
しかし、こちらに敵意を向けているのはハッキリと分かる
触手が一直線に伸びてきた
───僕は怖がりだ
暗いところにいるもの、誰かと話すことも、1人で何かを成し遂げようとすることも
全てが怖い
愛されようと頑張っても何も得られない
けど────
この世界でなら、強くなれる気がしたんだ
僕は何も出来ないかもしれない
出来損ない、役に立たないのかもしれない
そしていつの間にか、僕は彼らを庇うように前に出た
強く目を瞑る
死ぬ覚悟を持って…
「ウルボくん!」
メイさんの声で僕はハッとする
目の前を見れば、メイさんが御札を片手で持ち、前に突き出していた
無数の触手は御札の前でカタカタと震わせながら止まっている
「え……」
僕は言葉が出なかった
化け物の触手は御札に吸い込まれて行く
全てを吸い込むと御札は黒く染まり化け物は居なくなった
それと同時にもうひとつの御札が光だし少女を包み込んだ
彼女はニコッと笑って、"ありがとう"と一言少女もまた、御札に吸い込まれて行った
そしてふたつの御札は地面に落ち、灰になる
「……っ…はぁぁぁ…びっくりしたァァ……」
メイさんはどっと疲れたのか、その場に座り込む
「おい!!!ウルボくん毎回ヒヤヒヤさせるなっっ!」
もかのすけさんが怒りながら僕に言ってくる
「へ?!ご……ごめんなさいぃぃ!」
僕は涙目になりながら言った
正直物凄く怖かった
けど、安堵があまりにも大きかったのか、僕もその場に座り込む
「まぁまぁ……2人のおかげで生き残れたし、これでよしとしないか?」
けけさんがもかのすけさんの肩をポンと軽く叩く
「みんな無事で良かったよぉ…」
「ヒナミィは何もしてないじゃん……」
ヒナミィさんが言ったことを、すぐにメイさんが返す
確かにヒナミィさんは何もしてない
その後、僕以外の4人は口論していたが僕はそれを見てて正直笑ってしまった
本当に仲良しなんだなと改めて思う
『プレイヤーの皆様。おめでとうございます。ゲームクリアです』
突然黒さんのアナウンスが響き渡る
『他の皆様がお待ちしております。けけ様、もかのすけ様、ヒナミィ様、メイ様、そしてウルボ様。次のエリアの準備がございますので、目の前の扉からお入りください』
そう言われると床からズズズと木製の扉が出てくる
けけさんが扉を開くと、そこには生き残った人達がそれぞれ話し合っていた
いわゆるフリータイムと言えばいいだろうか
『パンパカパーン!!みんなお疲れ様〜!』
ゲームマスターさんの元気な声が響き渡る
そして次のゲームが始まるのだった
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