第6話 願い

カインside

この日記を見る限り、少女は兄を探しているということだろうか


"お供え物で願いが叶う"


そんなうまい話は、よく恐ろしい化け物に襲われるなんてパターンが多い

小さな鳥居があったり、墓地があるのならそこを探索すれば早いと思うが、あいにくその場所もあるのかどうかも分からない


───行きずまりか?


俺は日記帳をじっと見る

すると目の前が一瞬にして真っ暗になったような気がした

しばらくして夜中の景色が見える

街灯は一つしか立っておらず周りは暗くて見えないほどだった

そこには大きな赤い鳥居と小さな神社が見えた

しかし、何故だろう

1度ここに来た気がする

いつだったか…覚えてない

小さな小鳥が鳥居の前に飛び降りる

ちゅんちゅんと可愛らしい鳴き声が響きわたった

神社のお供えものらしき木箱が置いてある

俺は鳥居に近づき箱の中を見ようと手を伸ばした

すると、箱の下から赤く染った液体が染み込み、ついには箱の上の隙間からドロドロと流れてきた

背筋が凍るような感覚

伸ばしていた手を戻そうとすると何かが前へと引っ張ってきた

手首を掴まれる感覚

慌てて外そうとするがどんどんと箱の近くへと手が進んでいく



怖くなり、強く目を瞑った



「……殿…ィン殿………カイン殿!」

レーアさんが、俺の肩に大きな手でポンっと叩くと同時に、声をかけられ俺はハッとする

「…ど……どうしたんですか?声をかけても反応ありませんでしたよ?」

シスターさんが心配して聞く

冷や汗が残る中、周りを見る

ザペル達は他のところを探索しているのが見えた

俺は手元を確認する

そこには日記帳を開き破かれた部分があった

日記帳の内容を見てて…

一時的に意識を失ったのだろうか

俺は何事も無かったかのように応える

「…大丈夫です……少し考え事をしてました」

これは後で考えるとして日記帳をしまう

すると遠くからモフテルの声が聞こえた

「みんなー!!こっちに何かあったよー」

全員が教室を出て、近くにある倉庫へと向かった

中に入るとザペルとモフテル、白狐さんが居た

白狐さんがこちらに近づき持っていた小さな紙切れを渡してくれる

「これは……紋章?」

ネズミやカエル、様々な動物の紋章がそこには書かれていた

レーアさんが紋章をじっと見る

「どうかしましたか?レーアさん」

俺が問掛けると珍しそうにして見つめながら言う

「これは…闇の魔力がこめられておりますなぁ…憎しみと恨みが混ざりあっている」

レーアさんは魔力などが見えるらしい

先程の化け物も黒いモヤが見えたのだという

「……なぜ見えるのですか?」

そう疑問を問うと、レーアさんは答える

「我もよく分かってはいませんが、我の作ったこの姿と同じ能力を持ってるようなのです」

なるほど

であれば話が合う

憎しみと恨み────

これを解消出来ればいいのだろうか…

少女を救うと言われても彼女は幽霊に見える

しかし、もう時間はないだろう


考えている間に、どんどんと数が減っていくのを感じた


なぜなら、遠くから悲鳴がいくつか聞こえてきたのだから


俺たちは重要だと思う紋章が書かれた紙と日記帳を持ち、先へ急ぐ

途中モフテルが化け物に食われそうになったが、ザペルが大盾を使い、グシャリと音を立て、そいつの触手をちぎった

そのおかげか、上手く逃げることができ、鳥居があるであろう場所を探す

化け物から逃げながら、目的地へと向かった

ギリギリ避けながら撒いて、ようやく外へ出る

外へ出ると、そこは校庭ではなく草むらが広がっており、真ん中の道を通ればそこに赤く染った鳥居が立っていた

少女の幽霊はいつの間にか鳥居の前に立っている

俺たちが近づくと突如として周りの景色が変わり始めた

そこは綺麗な夕日が見える高台のような場所

小さな鳥居の周りで子供たちが話す

3人の男の子が何やらヒソヒソとしている

「ケロケロ様って何でも願いを叶えてくれるんだろ?ならさぁ……あいつを消してくれることも可能ってことじゃね??」

1人の言葉にほか2人も賛成する

話から分かることはあいつというのは少女の探している兄であろう

男の子が持っている写真を見て少女と似ているような姿の男の子であったから、そう考える

白狐さんが怒りに任せ、彼らを止めに行こうとするが、レーアさんが止めて肩に乗せられていた

そんな光景を少し見たあと、子供3人は小さな紙切れを用意する

紙切れを小さな鳥居の近くに置き、目を閉じながら唱えた

「ケロケロ様。ケロケロ様。願いを叶えてください。僕たちの願いはこの愚か者を消して欲しいのです」

ひとりがそう言うと同じように、何度も、何度も……その言葉を繰り返した

すると紙切れから黒くにごったオーラがじわじわと周りに浮遊していく

「ななな…何してるのあの子たちは……!頭いかれてるよ……」

モフテルがカタカタと震わせながら話す

すると後ろから少女の幽霊が立っていた

みんなびっくりしたが、彼女は悲しそうに話し始める

〈みんなお兄ちゃんをいじめてた。私になにかできないかなって考えたけど、やっぱりダメだった…だからお兄ちゃんを探して〉

とは言われど、どうやって探せばいいのだろうか

あの化け物から逃げながら──

俺たちは学校内へと戻り、別れて探索し始めた

途中で何度か食われそうになるが回避して探索を続ける

他のプレイヤー達も必死だったのか、強引な奴も何人かいた

まぁそんなやつは大体無視だ

やっとの事で見つけたものと、言えば呪いの御札を見つける

これをあの化け物に付ければ、ご丁寧にクリアだと紙に書いてあった

「簡単じゃねぇか。なぁカイン」

ザペルがそう言う

俺はため息をつく

「足引っ張るなよ?」

俺はそう言って、みんなに見つけたら報告をお願いした

そうしていると何やら助けてと大声で叫んでいる奴がいた

確か俺が優先だと言わんばかりのイカれたやつ

助けたく思わなかったがそんなことはさておき、俺はすぐさま行動に移る

剣を抜き、遠くから化け物に向かって走り出す

その後にレーアさんとザペルも後ろから追いかける

ザペルは高く飛び、大盾を大きく振りかぶり平の状態で化け物の上に乗った

黒の液体で出来た化け物の体は凹んで動かなくなる

「レーアさん!!おなしゃす!」

ザペルがそう言うと、レーアさんは片手に大鎌を構えながら走る

「承知した!」

そう言いながら大鎌を振りかぶり、化け物の触手達を切り刻んだ

化け物の叫び声がうるさく、耳が痛い

みんな耳を抑える

そんなこともつかの間──化け物の触手は1本だけ復活しゲールさん達の方へと勢いよく伸びていった


白狐さんの目の前へと


「我が子!!!!」

レーアさんが気づき大声で叫ぶ

化け物をほっておいて白狐さんの所へと向かおうとしていた

しかしその時には白狐さんが頭を下に向き、怖がって後ろの影に隠れていた


彼女の目の前には、白く毛深い獣の体に触手が腹に突き刺さっているのがよく分かる




モフテルが庇ったのだ

彼女の口から血が飛び出し、床へポタポタと垂れる

すぐさま伸びていた触手は引き抜かれ俺が触手の根元をぶった斬る

それと同時に俺は化け物の核であろう白く光る宝玉のような玉を剣で突き刺し壊した

パリンっと割れる音が響き渡り化け物の体は徐々に灰と化していた

シスターさん達がモフテルの所へと駆け寄る

俺はザペルの方に顔を向けた

あいつは悔しそうに歯を食いしばり、モフテルの所へと向かおうとせずその場に佇んでいる


「モフテルさん…!!しっかりしてください!!」

シスターさんがモフテルの頭を起こし、必死に声をかける

「目を覚ましてください!」

ゲールさんも後に続いて言う

白狐さんは隣で、その光景を目にし、カタカタと震えるだけだった

そんな彼女をレーアさんが抱き抱える


彼も無言のままモフテルを見つめた


「行かねぇのか?」

俺はザペルに声をかける

しかしあいつは黙ったまま


──現実は受け入れなければならない


あいつの背中を勢いよく押す

「ちょっ……?!何すんだ!」

あいつは驚きながらこちらの方に体を向け睨みつけた

「行ってやれ」

長年の付き合いだ

あいつは、少し頑固なとこがある

それゆえ不器用だ

こうでもしなければあいつは行かないだろう

少しお互いを見つめたあとに、あいつは走ってモフテルの所へと向かった

大事な大盾を置いていってな

全く世話の焼くやつだ

俺は化け物の灰を強く踏みつけた

この怒りはゲームマスターと自称しているあいつにぶちまけるか


レーアside

なんとも…複雑な気持ちだ

我が子しか知り合いがいない今だからこそ、不安になる

しかし、彼らとならこの化け物を潰せると感じた

我は、元々力があったはずなのだが、あまり発揮が出来なかったのだ

何故なのかは不明だが今は生き残ることを専念するしかない

黒とかいう娘

少し、とある知り合いに聞こえたような気がしたが、見た目も違う

違和感はあれど今はゲームに集中せねば


そんな時──


我が子が刺されそうになる瞬間、何もかもが真っ白になった

我が子は家族なのだ


─────我が守れないでどうする


しかしモフテルさんが守ってくれたのだ

感謝と同時に、悲しさが込み上げてくる

死というのは……まさにこの事なのであろう

我なら魂を保管しておきたいが、今の状態では力が足りぬ

早くこの哀れなゲームを終わらせて仇を晴らしたい

「はは……」

我が子は涙を流しながら我に抱きつく

目の前でのプレイヤーの死

これほど辛いことはあってはならぬ


もしかしたらラケルタ殿達も──


いやあの人達なら大丈夫であろう

我はそう思いながら、彼らの姿を後ろから見ていた

何も出来ぬ今

その死を受け入れ、来世でも幸せになることを祈る

ただそれだけだ


これがデスゲームだと改めて実感した瞬間だった



ザペルside

モフテルの腹辺りは服に血が滲む

鉄の匂いが広まっていた

見たくもない

受け入れたくなかった

これはデスゲーム

死ぬというのは当たり前のゲームだ

俺は何ができたのだろうか

分からない

不安と悲しみが溢れる

しかし1番辛いのはテテルだろう

なんてったっていつも2人で行動していたから

アスレチックに挑む時も

謎解きだってみんなと挑む時なんか2人のお陰で出来たものも多々ある

それに──

モフテルは俺のライバルだ

バトロワゲームをする時だっていつもキル数で勝負していた仲だ

「……モフテル」

そう言いながらあいつの傍に座り込む

泣きそうになる涙をグッと堪えてあいつを見つめた

息が荒くなりながらも俺の方に目を向けてきた

「本当に………ちゃんと…周りを見なさいよ…あんたはいつも……」

ムッとしながらゆっくりと言葉を発するモフテル

ゲールさんやシスターさんもごめんと泣きながら謝るばかり

俺には謝ることさえ許されない

何も出来なかった自分に腹が立つ

もう少し早く反応出来れば

もっと守ることに専念しておけば


──ライバル……失格だよな


そろそろ時間も迫っている

プレイヤーが死ぬと段々と体が下から消えてゆく

もう下半身は消えていた

「…ザ……ぺル…」

モフテルが必死に俺を呼びながら袖を掴む

「……なんだ」

「いきろ………もしこっち……きたら…かくごしとけ……」


お前はいつもそうだよな

本当にお人好しなやつ


「…わーってるよ。テテルのことは任せとけ。安心してそこで眠れ」

立ち上がり俺はカインから返された大盾を持ち少し離れた場所でみんなを待った

俺も馬鹿だな

本当の気持ちも言えずにか──



シスターside

モフテルさんが死ぬ

信じたくありませんでした

しかし現実は受け入れなければなりません

私は天国に行けることを願って彼女の手を強く握りしめるだけです

ザペルさんは特にお辛いでしょう

彼は彼女の事が好きなのですから

通話をする時もバトロワのゲームしながら喧嘩してましたし、たまに推しの話をしてたりなど楽しそうにしているのをいつも見ていました

ずっと楽しく話していたイツメンの1人

大切な仲間の1人が死ぬ

心が苦しくなります

涙も止まりません

そんな中ザペルさんはモフテルさんと話終えるとカインさんの所へと向かいに行く

その背中は悲しそうでした

彼女は笑顔で静かに消えていきました


私は自身が持っていた十字架をギュッと握りしめ祈りを捧げる



どうか天国でゆっくりとおやすみください



モフテルside

周りはいつの間にか黒い空間に突っ立っていた

私は死んだのか

あっけないなぁ…

ダサいところで死んでしまったか?

そんなことを考えていたら昔の事を思い出した


いつも元気な妹と、一緒だ

遊びから帰ってくると必ず服は汚すし、怪我してくるし──

そんなやんちゃな妹だった

それと、少しムカつく兄も

いつものように、私にしつこく絡んでくるし

めんどくさい兄だった

しかしある日、母から電話がかかってきた


2人が事故にあったと─────


交通事故だったらしい

私は悲しい気持ちでいっぱいだった

父親は子供の頃に他界し、母親一筋で私たちは育てられた

母はうつ病になってしまい、2人が天国に行った次の日に、自殺した

私は1人だけ

何が幸せなのかも分からなくなってしまった


帰る場所も、楽しく感じていた時間までも


時が経ち、私はメタバースという世界に興味が湧いた

そこで初めて出会ったのが、テテルとカインそしてザペルだ

テテルとは女子同士での会話が弾むくらい仲良くなり、カインとザペルに関してはバトロワゲームで仲良くなった仲だ

シスターさんやゲールさんにも会えてとても良かったと今思う


あいつには本当の事──


言いたかったなぁ


私はあいつの事が好きだ

言葉に出来ない程なのかもしれない

しかしあいつに言えたことは言えたと思う



あいつがこっちに来たら蹴り飛ばすか


私は目の前に光り輝く道へと進んだ




『……ゆっくりとおやすみなさい…』




カインside

俺たちは静かに出口から学校を出る

するとアスレチックのような所に連れてこられ、ラッパの音が響いた


「パンパカパーン!!みんなお疲れ様〜!」

デスゲームのゲームマスター

カルメのお出ましだ

あいつに苛立ちが走る

しかしここは落ち着け

まだそのときでは無いと───


「よし!次のゲームに移るよー!みんな準備はいいかなぁ〜?」


カルメの元気な声が響きわった

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