9 剣




「セス、しっかりしろ!」


聞いた事がある声だ。


「ヒ、ヒーノ……。」

「いつまでも寝てるな、この野郎!」


セスがはっと起きる。


「ゾルジは!」


ヒーノが強くセスに抱きついた。


「この野郎、お前はずっと行方不明だったんだぞ!

心配させやがって!」

「す、すまん。」


セスは周りを見渡す。

城の大広間だ。

割れた窓からは明るい日差しが周りを照らしていた。


大臣や兵が何人も倒れている。

そしてセスはすぐそばに幻庭げんていの剣が落ちているのを見た。

彼は素早くそれを掴んだ。


「いったい何があったんだ。」


ヒーノが彼から離れた。

少しばかり目が赤い。


「城に入れなくなってから魔物が城からどんどん出て来たんだ。

だが城下町からも出られない。

俺達は魔物とずっと戦っていたんだ。」


ヒーノや周りにいる兵もボロボロだった。


「それがさっき城から緑の光が出て来て結界が消えた。

魔物も出なくなったんだ。

だから城に入って大広間に来たんだ。

そうしたらお偉いさんとか仲間が、

そしてお前とアリシア姫が倒れていた。」

「ズィー村の人達は!」


ヒーノが見る。


「いるぞ。みんな気を失っている。

今安全な場所に連れて行って手当をする。」


セスははっとして立ち上がった。


「アリシアは!」

「アリシア?姫さんだぞ。」

「そんなことどうでも良い。どこ行った。」

「お前より先に気が付いてレリック王の部屋に行った。」


セスは慌てて走り出した。


「お前、呼び捨てとか打ち首ものだぞ。」


ヒーノが呟いた。




セスは王族の部屋に向かった。

階段を駆け上がる。

本当ならこのように入ってはいけないのだ。

だが今はそれどころではない。


彼はレリック王の部屋の扉をノックもせずに激しく開けた。

そこには一人召使が立っている。


「あ、あなた!なんて無礼な。」


クレールだ。

彼女は生き残ったのだ。そしてアリシアと会ったのだろう。

だがセスは構わず王のベッドに向かう。


「アリシア!」


そこには王が起き上がりアリシアと抱き合っていた。

レリック王が驚いた顔でセスを見た。


「き、君は……。」


アリシアが涙に濡れた顔を上げた。


「セス、よ。私を助けてくれた人。」


セスははっと気が付き直立不動になり敬礼をした。


「そしてゾルシを倒してこの国を守ったの。」

「そうなのか。」


王がセスを見て手を差し出した。


「すまぬ、こんなふがいない王で。」

「まったく問題はありません!

お体を大事になさって下さい!」


セスは直立不動のまま顔を真っ赤にして言った。

それを見てアリシアが少し笑う。

それをちろりとセスが見た。


アリシアはセスのそばに近寄りその手を持った。

そしてレリック王の手と重ねて二人の手を包んだ。


「セスはお母様も助けてくれるの。」


王がセスを見た。

そしてその手が強くセスの手を握った。


「……そうか。」


王は呟いた。




セスは城を後にすると城下町の詰め所に向かった。


「アリシアは城にいた方が良いんじゃないか?」


アリシアも彼に着いて来た。


「だめよ、シーラとフランのお父さんを探さないと。

お父様にはクレールがいるから。」


だが町はまだ混乱している。


「とりあえず詰め所に行こう。」


彼らがそちらに向かうと中には兵もいたが平民もいた。


「魔物が出たので兵だけでは対応できず、

腕に自信がある人にも手伝ってもらいました。」


部下がセスに報告をする。


「非常時とは言え危険な目に遭わせてしまった。

大変申し訳ない。」


セスは平民に頭を下げた。


「いや、全然構わんよ。ともかく城下町から出られなかったからな。」

「怖かったなあ。

でもあんた達二人が悪い奴をやっつけてくれたんだろう?」


ここまで話は広がっていたようだ。


「じゃあ明日にでも帰るとするよ。

森の家では子どもが待ってるからな。心配しているだろうし。」


弓を背にした男が言った。セスがはっとする。

シーラに渡した耳飾りの願いが引き寄せたのだろうか。


「すまない、子どもさんはシーラとフランか?」


男は驚いた。


「えっ、どうして知っているんだ。」

「実は……。」


セスは説明をする。


「……、そんな事があったんか。驚いたな。

俺は森で狩った毛皮を売りに来ていたんだ。

結構な値で売れたから帰ろうかなと思ったら出られなくなってな。

でもうちの子はちゃんとしてたかい?」


アリシアが頷く。


「本当に驚く程良くしていただきました。

命の恩人です。

落ち着いたら改めてご挨拶に伺います。」

「いやいや、そんなこと良いよ。」


彼は手を振った。


「それより早く帰ってあいつらに会いたいね。

姫さんが褒めてたって。」


アリシアが驚く。


「あんた姫さんだろ?みんな噂してるからすぐ分かったよ。

俺も本当はこんな風にしゃべっちゃいけないよな。」

「そんな、全然構わないです。

と言うか、もうどうでも良い気がして来たわ。」


アリシアが立ち上がった。

そして大声で言う。


「みんな!本当にありがとう!頑張ったわね!

必ずお礼はするから。

レリック王第三女アリシアが約束するわ!!」


周りが一瞬しんとなるがすぐに大きな歓声が上がった。


セスがアリシアに囁く。


「そんな約束していいのか?」


アリシアが笑う。


「良いのよ。その代わり良い耳飾り買ってね。」


セスはそれを聞いてニヤリと笑った。




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