8 庭



緑の光は周りを包んだ。


アリシアとセスは周りを見渡す。

彼方まで花が咲き誇る広大な庭だ。


「ここは……、」


セスが呟いた。


「庭……、幻の庭。」


アリシアは近くの花に触れた。

するとそれは緑の光を放って散っていく。


「アリシア。」


どこかから声がする。

いつか昔聞いた声だ。


アリシアははっとして周りを見た。


「アリシア。」


その声はグレイシャルだった。


「お母様!」


彼女は走り寄った。

だがグレイシャルは少し離れた。


「それ以上近寄ってはいけません。」

「お母様、どうして。」

「私は死者、そしてこの庭は死者の庭です。

生者であるあなた達は長くはいられません。」


彼女は仕方なく立ち止った。

セスもアリシアの後ろに来る。


「ここは幻庭げんていの剣が吸い取った魔力を花に変える庭です。」

「幻庭の剣って一体何なの?」


アリシアが聞く。


「あの剣は魔力を終わらせるものです。

光も闇も全ての魔力を。」


グレイシアが指を差す。

そこには花に包まれてゾルジが横たわっていた。


「ゾルジ……。」

「ゾルジは闇に操られていたのです。

闇は魔力が支配する世界の復活を願っていた。

でも私は違った。

魔力は人の世界にはもう必要ないのです。

ですが私はゾルジの力に負けて死んでしまった。」


アリシアはゾルジを見た。


ゾルジはグレイシャルに恋焦がれていたのかもしれない。

だがそれは叶わぬ事だ。

嫁いだグレイシャルと共にデヴァイン国に来たが、

既に人のものとなったグレイシャルを見る日々だ。

その心に闇が付け込んでしまったのかもしれない。


グレイシャルがセスを見た。


「あなたの母、リビーがいた国も闇が滅ぼしました。」


セスの顔がはっとなる。


「その国も魔力を使う国でズィーの者を重用していました。

ですが闇はそれを良しとしなかった。

全ての魔素を自分に集める為です。

ズィーの村を滅ぼしたのもそのためです。

他の者に魔素を渡したくなかったのです。」


その時グレイシャルの後ろに一人の女性が現れた。

彼女はにっこりと笑ってセスを見た。

セスによく似た顔立ちの女性だ。


「……母さん?」

「そうです。私の友リビーです。あなたに会いたがっていました。

あなたのお父様は南の国の方です。

残念ながら争いに巻き込まれて亡くなりました。」


セスが手を伸ばす。

だがリビーは首を振った。


「私達はいつもあなた達を見守っていました。

二人が出会ったのも運命なのです。」


セスとアリシアが顔を合わせる。


「アリシア、あなたは耳飾りをどうしましたか?」


彼女ははっと耳に触れる。


「あの、私を助けてくれた女の子に渡したの……。」


それを聞いてグレイシャルがにっこりと笑った。


「それで良いのです。」

「良かったの?」

「あれは願いの石です。

願いをかけて人に手渡すのです。

私はあなたにあなたが幸せになる人と出会えるようにと

願いを掛けました。

あの石はその願いが叶うと別の人の手に渡るのです。」


アリシアははっとする。


「アリシア、あなたはどんな願いを込めて渡したのですか?」

「私は……、」


彼女は思い出す。


― これはお守り。

― あなたとフランとこの世界も守ってくれる。


「シーラとフランのお父さん……。」


グレイシャルはにっこりと笑った。


「あなた達は元の世界に戻りなさい。

あなた達には三つの国の守りがあります。全ての国が祝福するでしょう。

そしてここは私とリビーが守ります。」

「ゾルジは?」


セスが聞く。


「やがて花に包まれて消えるでしょう。

私達は巫女です。

全てが終わるまでここを守り、いずれ閉じます。

それが定めです。」


グレイシャルがゾルジを見る。


「私が彼を弔います。」


ゾルジの顔はもう魔の顔ではなく人に戻っていた。

そしてあれほど求めたグレイシャルのそばにいるのだ。

彼の望みがやっと叶ったのだろう。

彼を包む花が静かに揺れる。


セスは初めて会った母をずっと見ていた。

リビーはにっこりと笑う。


「母さん……。」


ゆっくりと光が広がる。


「ここを出たらズィーの村人も剣で切りなさい。

あの人達が最後の魔素です。

そしてあなた達も。」


グレイシャルの声が響く。


「ズィーの魔素が消えれば花が枯れ、この庭も消えます。

私達の見守りをどうか終わらせてください。

アリシアとセス、お願いです。」


それはどう言う事なのか、

二人には分からなかったが光に包まれて意識が消えた。




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