6 三つの国




予定より早く二人はダーダイがいる森まで戻った。


「おお、これは。」


セスが手にした棒を見てダーダイがため息をついた。


幻庭げんていの剣。」

「これが剣なのか?」

「はい。人は切らぬが力を吸う剣じゃ。」

「ただの棒にしか見えんがな。」


セスは棒しか見えない剣を構える。


「そう言えばセス殿はグレイシャル様とお話したとか。」

「あ、ああ、さっきも言ったが、」


セスはダーダイに剣が見つかった時の事を話す。


「グレイシャル様は二人で倒せと……。」


ダーダイがしばらく考え込む。

そしてアリシアを見た。


「姫様、セス殿と一緒に剣を持って下さるか。」

「えっ、私も?」


アリシアがセスのそばにおずおずと近寄る。


「ほら持てよ。」


横目で見降ろすようにセスが彼女を見た。


「分かったわよ。」


彼女は棒を構えている彼の手のそばに手を添えた。

その時彼の手が彼女の手を包み込むように上から触れた。

アリシアの心臓がとくんと鳴る。


その時だ。


黒い棒の横に緑の光が走る。

文字のような紋章のような複雑な光だ。


清らかな透明な緑の光が周りを照らす。

その形は両刃りょうばの剣のような形をしていた。


「おお!」


ダーダイが感嘆の声を上げた。

そして剣を握る二人も驚いて顔を合わせた。


「お二人でと言うのはこういう意味でしょうな。

強い、とても強いズィーの光だ。」

「二人で一人分なんでしょ?」


アリシアが言う。

ダーダイが首を振った。


「この前わしが言った事は忘れて下され。」


アリシアとセスが不思議そうな顔をする。


「村人にセス殿の事を聞いたのじゃ。

老婆の一人がリビー様の事を知っておった。」


セスがはっとした顔をする。


「グレイシャル様と同じ年頃でな、よく一緒に遊んでおったらしい。

だが小さな頃に海にほど近い南の国に雇われ魔術師として家族で行ったそうじゃ。」

「だが母さんは行き倒れだったぞ。」

「そうじゃ、その国はその後戦争に巻き込まれてしまった。

リビー様は多分逃げて来たのじゃろう。」

「その先で力尽きて……。」


セスが俯いた。

アリシアがその横に寄りそう。


「セス殿はズィー村と南の国の血、

そしてアリシア様はズィー村とデヴァイン国の血、

お二人にはこの三つの国の血がある。

この全てがゾルジの野望を防ぐとしたら……。

ズィーだけではないのじゃ。

三つの国が一緒になってゾルジを倒し、平和を願う。」


セスが顔を上げた。


「俺は皆を助けたい。」

「私も同じ気持ち。みんなを助けなければいけない。」


二人は強い顔でダーダイを見た。


「よろしい。

ならばわし達も皆で城へと向かう。」


その時小屋の扉が開いた。


小屋の前には空き地があり十人の人が立っていた。

その中には昼食を持って来てくれたルメがいた。


「姫様。」


彼女が笑いながらアリシアに近寄り頭を下げた。


「姫じゃないわ、アリシアよ。」


アリシアはルメの肩に手を添えた。


「最初から知っていたんじゃない?」


アリシアが言うとルメが笑った。


「そうです。だから城からここまで飛ばせたの。

でもどんな人かなと思って知らない振りをしていました。」

「いじわるねぇ。」


とアリシアが笑う。


「ごめんなさい。

でもとても良い人だと分かったわ。」


二人は顔を合わせる。


「あなたが私達を飛ばしてくれるの?」

「ええ、私にはその力がある。みんなを城まで飛ばすの。

そしてダーダイ師が私達を守る結界を張るわ。」

「城の様子は分かるか?」


セスがルメに聞いた。

彼女は目を閉じ何かを探った。


「城はゾルジの結界の中です。

魔物が城下町に現れているけど

兵士がいてぎりぎりで保っているわ。」


セスの顔が厳しくなる。


近くにいる十人の中にはセスの母親の

リビーの話をしてくれただろう老婆がいた。

彼女がセスに近寄る。


「あんたがリビーちゃんの子かい?」

「あ、ああ、そうらしい。」

「すぐ分かったよ、顔がそっくりだ。」


セスが彼女を見た。


「おばあさんも城に行くのか?」

「ああ、あたしゃ火の使いでね、強いんだよ。」


と老婆がにやりと笑う。


「そうか、頼もしいな。

戦いが終わったら母さんの話をしてくれるか。」

「分かってるよ。」


空き地に立っている人達が手をつなぎだした。

その中にセスとアリシアも入る。


「アリシア様、セス殿、城の中を、

ゾルジがいる場所を念じて下され。」


ダーダイが言う。

セスとアリシアは目を合わせて頷いた。

すると手を繋いだその中から緑の光が広がる。

やがてそれが強くなると皆の姿が消えた。




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