第4話

 着ぐるみの中に何が入っているかと考えると、ちょっとドキドキする。

 わくわくすると言うより、恐怖だ。


 〇ラックマの中に何が入っているか。

 もし、開けられるとしたら、背中のファスナーを開けるか。


 もし、開けられるなら、俺は中に入っている小さい人とセックスしてみたい。

 かわいいキャラクターに対して不謹慎だと思うかもしれないが、〇ラックマはコンドームメーカーともコラボしている。

 あのパッケージを見ていると、茶色いのと白いのは実はできているという気がしてくる。


***


 俺が恐る恐る、背中のファスナーを開けると、中に現れたのは、見慣れたアジア人の黄色い肌だった。


 俺はがっかりした。できるなら、Paleというような青白い肌がよかった。本当は若い女性がいいけど、男ならそういう見た目の人がよかった。俺はファスナーを下まで完全に下げたが、脱がせるのは大変そうだった。とりあえず、どんな人か顔が見てみたい。


 俺はウサギの頭を外すことにした。着ぐるみの頭はそれほど大きくない。俺はベッドを降りて反対側に立った。バランスとしては六頭身、七頭身くらいだ。頭はすぐに外れた。


 そこに横たわっていたのは、よく見知った顔だった。

 

 Aさんだ。

 意外ではなかった。


 黄色い肌をして、口をぽっかりと開けていた。

 目はくぼんでいた。


 見た瞬間、もう生きてはいないことがわかった。

 

 Aさんがいなくなったと知った時、こうなる気がしていた。

 もう、この世のものではないということだ。


 しかし、ショックではあった。俺はウサギの頭を持ったまま立ち尽くしていた。


 俺は何も覚えていないけど、もしかしたら、Aさんはいつも俺の部屋でCをやってたのかもしれない。


 俺はウサギだと思ってAさんの体を撫でていたのか。

 毛布を撫でていたのか?

 全くわからない。


 しかし、こうなることはちょっとわかっていた気がする。

 そうなって欲しかったのか。

 愉快犯なのか。


 俺も自分の本心がわからない。

 

 今にも崩れ落ちそうな人間を引き連れてやって来て、完全に終わるのを見たかったのだろうか。Aさんを見て安心したいという気持ちからなのか。

 

 Aさんとは全く親しくはなかった。

 ただ、連絡先を知っているくらいの間柄だ。

 

 ただ間違いなく言えるのは、俺が間接的にAさんの〇を早めたということだけだ。


 ***


 俺はパニックになった。


 どうしようか?

 Aの両親に合わせる顔がない。

 警察沙汰じゃないか。

 海外で?


 すぐに帰れるだろうか。

 大使館に相談すればいいのか?

 どうしていいかわからない。


 俺はこれはすべて幻覚なんだと気が付いた。

 Cが見せている幻だ。

 俺はもう一本Cを吸って横になった。

 このまま、もう、目が覚めなければいいと思った。

 

 しかし、しばらくすると、吸い終わってしまう。


 たとえ、Cをいくら吸っても死に至ることはない。一万本吸ったらあるかもしれないが。それよりは、醬油を1L飲む方が危険だ。俺はチェーンスモーカーのように、Cを吸い続けていた。


 十本くらい吸った辺りで、隣にいたウサギの着ぐるみがムズムズと動きだした。よかった、Aさんは生きてた!俺は歓喜した。

 その様子をじっと見ていると、ヤモリのような黒い影のようなものが、着ぐるみの中から這い出して、俺の上に覆いかぶさって来た。

「うわ…」

 気持ち悪い。俺は思った。


 そして、そいつが腕と足を俺に絡めて、全身の力を込めて体を締め付け始めた。すごい力だった。指を組んだ時のように俺たちはぴったりとはまっていた。


 苦しいのだが、なぜか心地がよかった。その人が皮膚を通じて俺の中に入って来ようとしている気がした。俺と一つになりたがっているのだ。物理的に無理なのだが、それを諦め切れないようだった。やがて、俺の意識は泡のように静かに溶けて行った。


***


 気が付くと外は暗かった。


 やがて、恐る恐る横を見ると、俺の隣には見慣れたホテルの茶色い毛布があるだけだった。


 Aさんはどこに行ったのか。


 俺は動揺したが、それ以上の真実を見ようとはしなかった。

 

***


 アメリカ行きが俺の人生に与えたことは二つある。


 まずは、Aさんが今も見つかっていないという厳しい現実だ。


 それに、今も時々、夜になると白いウサギが俺の隣に寝ているということだろうか。


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