第六話 二度目の海/上京
絶望は死に至る病である。
自己の
永遠に死ぬことであり、
死ぬべくして死ねないことである。
それは死を死ぬことである
──死に至る病, セーレン・キルケゴール
海は、夏に含まれるものだ。快晴の空の下、輝いている海の前でさえ、人は夏への
少し、昔を思い出した。高校を卒業した後、就職に際して上京した。そして、半年後の夏──私は再び海にいた。
それは、人生で二度目の海だった。
東京駅に初めて降り立った時、木々よりも遥かに高いビル群に対して、
しかし、私にとって、季節などはもはやどうでも良いものだった。都会の春の風物詩における
入社式は本社で行われた。百名を超える仲間を前にして、新しい人生の始まりを感じていた。高層ビルにテナントしている職場で、東京の街を見下ろしながら優雅にオフィスワークに励む。当時の私は、上京という言葉が持つ
私は、工場配属だった。京浜工業地帯の、とある一角で働くこととなった。本社から電車で一時間程掛かるその工場は、いわゆる町工場だった。その時、親会社ですら無く、グループ会社という名の下請け会社に配属されたのだと知った。工場は、
自宅アパートは神奈川にあった。私の安月給では、東京の家賃を払うことは困難だったからだ。家のすぐ傍には川が走っていた。川の
稼ぎは悪い仕事だったが、あまりお金を使う事は無かった。顔だけは良かったのか、女が寄って来る為、ヒモとして暮らしていたからだ。何人かの女性に寄生して、家を行ったり来たりしていた。それは、女の扱いだけが
就寝時は、部屋の奥から忍び寄る絶望に耐えることで必死だった。じめっとする部屋の雰囲気と、ガタガタと音を立てる木枠の窓が、恐怖をより増幅させた。隙間風の音は、私を
肝心の救済は、どこに
そんな生活をしていた
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