第七話 二度目の海/公園にて
ある日の残業終わり、一服する為に、帰路に在る公園に寄った。普段は家に着いてから一服するのだが、その日は何となく、そうしてみた。公園には、象を模した滑り台があった。鮮やかなピンク色に塗られたそれは、公園の名物であり、子供達に大人気だった。昼とは打って変わり、夜の象は、どこか
夜の公園は、静寂という概念のお手本に違いない。時折聞こえてくる雑音も、何故だか
滑り台の
ハッと、我に返る様に──いや、我に返る為に、煙草に火を点ける。
一本吸い終わり、二本目の煙草に手を掛ける。その時、公園に入って来る一人の女の姿が、視界の端に映った。恐らく、私と同じ様に一服しに来たのだろう。喫煙者は、喫煙者を見分けられるものだ。そんなことを考えながら、自らの足元を見る。改めて、自分が幼稚な滑り台の天辺にいることを認識し、気恥ずかしさを覚えた。しかし、今更滑り台を後にするのは、女を意識している様で
「すみませーん! ライター無いんですか?」
しかし、私の声が聞こえなかったのか、女は手を休めることなく、ライターを捜し続けてた。不審者だと思われて、無視されたのだろうか。──いや、無視というよりも、そもそも声が届いていない様に思えた。いつもの私なら、これ以上は関わらない。だが、今日は、もう一度声をかけてみることに決めた。臆病で八方美人な私にとっては、非常に珍しい行動をしようとしている。特に良いことがあった訳では無いが──何となく、今日はそうしてみたかった。……もしかすると、星の光にやられてしまったせいかもしれない。しかし、もし仮にそうだとしても、
「待ってください! ライター無いんです! 貸してください!!」
女が大きな声でそう叫んだ。どこか
「すごい顔してますよ!」
女は笑いながら、私を指差す。その笑い声は、停止した世界を再び揺り動かした。急いで自分の姿を
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