第四話 海へ
駅を出てから、三十分は歩いただろうか。全てがスマートフォンで完結する現代において、それ無しでは時間すら把握することが出来ない。腕時計くらいは買っておくべきだった──そう思いながら空を見上げる。相変わらずの快晴である。強烈な日差しは、私の
「太陽は、白い穴に違いない」
穴は本来暗闇の特性を持つため、太陽とは縁が無い。しかし今の私には、太陽は完全な穴に思えた。そう、向こう側から強烈な光が差しているだけで、太陽も穴に違いないのだ。光も闇も、同じ舞台に立っているのだ。ただ、スポットライトが当たっているかどうかの違いに過ぎない。……あの白い穴の中には、どのような光景が広がっているのだろうか。光に満ちた無重力状態を想像する。暖かく白いだけの空間で、ただ泳ぐ。心地が良い、このままここで暮らせたのなら──
突然、潮の香りがした。潮風は鼻を通り、脳を支配する。ああ、一度目の海を思い出す。光の宇宙は慌てて逃げ去り、暗い海が大きく呻き声を上げて全てを呑み込む。その波音は、神話の怪物を思わせる恐ろしいものだった。海はひたすらに大きく、上空ではカモメが笑うように鳴く。海は青くて、ずっと暗い。その奥には、一体何が潜んでいるのだろうか。
やがて坂道は終わり、
歩き続けると防波堤が終わり、代わりに林が続いていた。いわゆる、
遂に林の終わりに辿り着いた。途端に、強烈な光が私の視界を奪う。目を伏せ、
目を奪われる光景を前にして、体の感覚が戻って来た。かなり歩いたせいか、足が少し震えていた。木陰を見つけて座る。その瞬間、疲労がどっと押し寄せて来た。歩き疲れた。ここまでよく、頑張った。
浜辺に寝そべり、目を閉じる。母の
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