第三話 見知らぬ駅
電車の車窓から、
──やはり、死ぬことにしよう。美しいものは美しいが、私には、対岸の出来事の様に思える。向こう岸は、東アジアの湾岸都市の様に煌びやかである。一方でこちら側は、草木一本生えていない不毛の土地なのだ。幾度かこの川を渡ろうと試みたが、
最後に、あの海を近くで見たい。美しい記憶に包まれて、死んでいきたい。
電車の速度が緩やかに減少し始め、車内アナウンスが流れる。駅名が幾度か繰り返された後、電車は停止した。重い腰を上げ、電車を降りる。二時間ぶりに浴びた外の空気は
故郷を思い出す風景であった。胸に溜まっていたものを吐き出すように、深呼吸をする。
海の方を目指し、緩やかな坂を下る。
両脇に田園が広がる坂を、ただ下っていく。空には雲一つ無く、代わりに太陽がただ一つ在った。快晴の空は、巨大な半円上の水色の壁に思えた。そこに大きな穴が開き、向こうの光が漏れているような、そんな強い日差しだった。
昔から、晴れの日はあまり好きではない。
私は、光の中にいるべき存在では無い様に思えるからだ。とは言え、暗闇に特段の親しみがある訳では無い。この後、空が晴れるか、雨が降るか分からない、その中間の不安定さの中で、曇りの様に生きていた。
しかし、今日の光は、嫌な眩しさを感じなかった。生に対する執着を亡くしたからだろうか。期待をしなければ、絶望を覚えることもないのだ。悪人も善人も、皆が極楽浄土へ行きたがるのも頷ける。光は祝福であり、同時に
それにしても、晴れた日がよく似合う、本当に、美しい土地だ。見渡す限り、緑と青しか見えないが、この世界は二色だけで十分なのではないか──そう思える程の、彩度を放っていた。
……私は、とっくに死を覚悟し、今は天国の様な美しい土地にいる。私の運命を邪魔するものなど、もう何もないはずだ。それにも
悪魔は、音も立てずに忍び寄り、突然現れるのだ。
あの草木の陰から、山の向こうから、雲の
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