第16話 噂は更に迷走する ~宰相・ルガルゼ視点~
ふん、早速気が付いたか、陛下の慈悲に。分かったら今すぐ喜びひれ伏せ――。
「蝶々結びがかわいいよ?」
「却下だ」
「えー」
不服そうな顔をするな、まったく無礼な。そもそも陛下がワンポイントとはいえ金と黒以外の色をお召しになる事がどういう事なのか、まったく分かってなどいない。
せっかくの陛下の行為に対してそのような顔をするような娘、今すぐ八つ裂きにしてやろうか。
そう思ったが、一体何を思ったのか、娘はこんな事を聞いてくる。
「王さま、そのリボンと仲よくしてくれる?」
「……まぁつけといてはやる」
その答えが気に入ったのか、娘は解けるように笑った。
「じゃあ王さまにぷれぜんと。赤がとっても似合ってるから」
「こんなものを貢いできても、お前の待遇は変わらんぞ」
「王さまがモッテモテになれれば、満足」
娘の笑顔に面食らってちょっと居心地が悪そうに憎まれ口を叩いた陛下に、更にさも献身的な言葉を重ねた娘。子どもだからと侮っていたが、何分陛下はモテた経験が著しく乏しい。もしかしたらこのレベルでも、陛下には危険か……?
「ふん、こんなもので周りの目が変わる筈がないだろ」
ホッ。そんな事はなかったようだ。
「変わるもん、お母さまが見た目は大事だって言ってた!!」
娘、また頬を膨らませて陛下にそんな言葉を。
いじけて寝たと思ったら、今度は笑ってまた怒って。忙しい娘だ、面倒臭い。
……いや、それよりも。
陛下の胸元を見ながら考える。
まぁ、たしかに陛下の言う通り、金と黒以外を身につけないのはただの『機会を逃して』だ。
服すべき喪は、既に開けている。陛下が自らの色を取り戻しても問題自体はない。
が、おそらく周りは騒ぐだろう。陛下の意向が第一だし、面白そうなのでもう止めないが。
その後、翌日とは言わずその日から、案の定城内には新たな噂が飛び交った。
~~
これまで三年もの間前陛下の喪に服し続けていた陛下が、ついに赤を、自らの瞳と同じ色を衣装に取り戻した。
――そこにはどうやら人間の娘が影響しているらしい。
~~
娘がここに来た日からずっと赤い靴を履いているのも、おそらく影響したのだろう。
城内ではその他にも、「陛下が自らの赤を娘に身に着けるように言ったのか、それとも娘が好む赤を自らも身に着ける気になったのか」「もしかして娘が赤好きだから、気に入って娘にすることにしたのでは」などという、世にも面白い世迷言が城内では囁かれている。
もちろん陛下は項垂れた。
前回から深まる噂の瞑想にまた「何故そんな話になった」と言ったので、これらの情報と憶測をすべて話すと、やはり「暇なのか」と呟いていた。
別に暇だから噂が生まれた訳ではないだろうが「もう少し仕事を増やした方がいいか」と、これまでは「あまり性急に国家を発展させてしまっては、臣下たちが大変だろう」という陛下の慈悲で止まっていた『新たな国家経営の進捗』が少し加速しそうなので、事態は好転したと言っていいだろう。
陛下の反応はひとしきり楽しめたので、あとは私の仕事――この噂によって緩んだ陛下へのイメージをうまく操り『威厳ある王』を維持し続けることに、邁進するとしよう。
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