第13話 王さま、ひどい
せっかくお母さまに倣って『喜ばせるためのさぷらいず』をしようって思ってたのに!!
そう思ったものの、バレちゃったんなら仕方がない。
「王さまにぷれぜんとです」
「プレゼント?」
「昨日助けてくれたから」
昨日のことを思い出したら、ちょっと幸せな気持ちになった。
頼もしかったのだ、うれしかったのだ。そんな気持ちがよみがえってきた。だから。
「それに、王さまはちょっと怖いから」
「あ?」
「いつも眉間にしわが寄ってて、本当はやさしい王さまなのに、とってももったいないって思う」
そう言いながらすぐ近くにある眉間をチョンと触ってみせれば、何でかもっとしわが深くなっちゃった。
それでもわたしは、自分の言葉が間違っているとは思わない。
「お母さまが言ってたの。『誰かに愛されるためには、“まず相手に自分のよさを知ってもらう努力をする”必要がある』って!」
それが、愛され十か条の一つ目。それに倣って、まずは王さまのいいところ、周りに知ってもらうべきなのは「やさしいところだ」って知った。
だから今日は二つ目だ。
「『内面を知ってもらうためには、外見から工夫するのが一番早い』。お母さまはそうも言ってたの。だから王さまがやさしいんだって、怖くないんだって知ってもらうために……」
わたしは自信をもって告げる。
「まずは見た目をかわいくするところから始めたほうがいいと思うの!」
お母さまが教えてくれていた。
『あのね、リコリス。見た目は人の心の中をそのまま示すものではないけど、人は見た目で相手の印象を計ってしまう事が多いの。だからリコリスは、自分が相手にどう思われたいか考えて、おめかしをするといいと思うわ』
って。
たとえば、可愛く見られたいならフリフリ、元気に見られたいならビタミンカラー、清楚に見られたいならシンプルなデザインやベルベットカラーを選べばいいし、強く見せたいなら尖ったアクセサリーや赤や黒がいい。
そんなふうに、服や小物を見ながら一緒に身に着けるものを選んでくれた。
色んな服を着た。お母さまが喜んでくれた。とてもうれしくて楽しくて、その時のことはよく覚えてる。
だから王さまにもやってあげたくなった。
渡すのはお母さまのリボンだ。きっとお母さまのご加護もあるはずだ。
きっと喜んでもらえるって信じてた。だから「ありがとう」の言葉を、そういえばまだ一度も見た事がない王さまの笑顔を期待して、王さまを見上げる。
そんなわたしに王さまは。
「要らん。こんなもの」
そう言って、手櫛でスッと自分の髪をといた。
一緒にリボンも梳き取られてしまう。王さまはそれを机の端に置いて、再び机に視線を戻した。
「というか、何でこんな所にいる」
わたしは答えられなかった。ただ机の上にある、さっきまで王さまの黒髪を結わえていた蝶々結びをされたままのリボンを呆然してと見ていて。
「はぁ。まぁいい。この部屋から出るな。その辺に座ってろ、動くな」
わたしは無言で、乗っていた引き出しから降りた。そのままトボトボと絨毯の上を歩き、指されたソファーの上に飛び込む。
王さまから「おい」と呆れたような声が聞こえたけど、もう知らない。
お母さまからもらったリボンを、わたしの大事な宝物を、わたしがあげたぷれぜんとをすぐに外して横に置いちゃう王さまなんて、もう知らないんだ。
うつぶせで、ソファーに置いてあったクッションをギューッと強く抱きしめる。
泣いてなんていない。お母さまみたいな強くてカッコいい大人のレディになるためには、こんなところで泣けやしない。
でも、それでも。
王さま、ひどいもん……。
今は少しでも温かさが欲しくて、クッションにスリッと頬釣りをした。
後ろで小さく「ホ~」という、悲しそうなスーちゃんの声がした気がした。
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