第11話 ダメだホ~
全身羽毛でモフモフな彼は、フクロウの体の上に赤いチョッキを羽織っていた。
金色の刺繍がされていて、とてもきれい。いいものだってすぐに分かる。
胸元には、交差する二つの剣の上に王冠が書いたワッペンが。
お母さまが言っていた。ああいうのはたしか『記章』っていうって。
王城内でそういうのを付けるのは、何か特別な役割を担うすごい人なんだって。
「僕、国王陛下の近衛で、ストテンベルグという者ですホ~。今回陛下の娘であるリコリス様の、護衛役を仰せつかっているホ~」
初めて会う人だ。大きな人だったのもあって、最初はちょっとビックリした。
でも大丈夫。こういう時にどうするべきかは、ちゃんとお母さまから教えてもらってる。
「おはようございます! ストテンテンさん!!」
あいさつは、相手と仲よくするための基本。せっかくこのお城に住むんだから、わたしは全員と仲よくしたい。
抱きついたままそう声を上げると、彼はフクロウの顔でホ~と笑った。
「ストテンベルグだホ~。スーでいいホ~」
「スーちゃん!」
「さっきのメイドはフレンというホ~。彼女は相手が誰でもあぁホ~。人見知りなんだホ~。許してあげてほしいホ~」
呼ぶと、スーちゃんはホ~ホ~と嬉しげに頷きながら、ネズミのメイドの子のことも教えてくれた。
フレン、フレン……よし、覚えた!
って、そうじゃない!
「あのね、スーちゃん。わたし、これから王さまのところに行きたいの!」
「それはダメだホ~」
だから通してと言おうと思ったのに、そんな暇さえなかった。
「いきた」
「ダメだホ~」
「い」
「ダメホ~」
「……」
シュンとする。
どうしてもダメ? そう思いながら彼を見上げると、ちょっと困ったように笑いながら、スーちゃんが「ごめんホ~」と言う。
「生涯の恩人からの指示を無視する事はできないホ~」
「恩人?」
「国王陛下だホ~」
「王さま!!」
王さまのことは昨日少しだけ知れたけど、モッテモテにするためにはもっと知っておいて損はない。
「スーちゃんは、王さまの事をよく知ってるの?」
そう尋ねると、彼は少し考えるそぶりを見せてから「よくかどうかは分からないけど、王さまは素晴らしい人だホ~」と答える。
ドアの前からのいてくれる様子はまったくないし、それなら王さまの話を聞きたい。そう思って、わたしは少し彼に教えてもらうことにする。
「スーちゃんから見て、王さまってどんな人?」
「若くして国王になりながらも立派にこの国を支えているすごい人であり、先祖返りである僕たちを差別せずに能力あれば要職にも起用する、優しく賢いお方ですホ~」
「先祖返り?」
彼の口から出た聞き慣れない言葉に、わたしはコテンと首を傾げた。するとスーちゃんは両翼を広げる。
「この通り、僕はフクロウの見た目をしているホ~。先祖返りとは、獣の見た目をそのまま残している魔族のことで、元々魔族の先祖はこういう姿だったのだホ~。でも今の魔族の主流は人型ですホ~。そしてそれを『進化の結果』だと考えている人がいるホ~」
そう言われれば、たしかに王城内には宰相さまや騎士の人みたいに獣の耳やしっぽを残した人の形をした人と、スーちゃんやフレンみたいに獣の形をしている人がいた。
騎士の人も、意味はよく分からなかったけど、フレンに昨日『下賤な先祖返り』という言葉を使っていたような気がする。
「魔族には他にも、木や岩などの自然的なものの姿をした者や、霊的な者もいるホ~。僕たち先祖返りやそういう者たちはこれまでずっと、人型の魔族たちに下に見られて、肩身の狭い思いをしていたんだホ~。だから大体そういう者たちは、自分の住処に引っ込んで出てこなかったのだホ~」
「でもスーちゃんやフレンは王城にいるよ?」
「そうですホ~! そういう王城になりつつあるのは、王さまが僕たちを王城に差別なく迎え入れてくれているからなのだホ~!! 王さまは僕たちの『生まれた時から叶いようがなかった夢』を叶えてくれた人なのだホ~!!!!」
わたしの疑問に答えたスーちゃんは、胸を張って声を上げた。
得意そうな彼が何だかとてもかわいくて、わたしは思わずフフフッと笑う。
しかし次の言葉を聞いて、私は思わず身を乗り出した。
「国王陛下は、ちょっと周りから誤解を買いやすいお方だけど、とてもお優しい方ですホ~。お忙しい方なのに王城内の事をよく見ていらっしゃって、この前も仕事をしていた僕に『ご苦労』と労いのお言葉をかけてくださったホ~」
「王さまはやさしいよね!」
わたしとおなじことを感じている人がいた。そのことがとてもうれしくて、胸の前で両手をグーにして一歩前に出る。
スーちゃんは、元々丸くて大きな目を、もっと見開いてわたしを見た。何だろうと思っていると、スーちゃんがバッと勢いよく両方の羽を広げる。
「そうなんだホ~! 理解者ができて嬉しいホ~!!」
元気のいい声が返ってきて、今度はわたしがちょっと驚いた。だけどニッコニコなスーちゃんに、わたしの方までうれしくなる。
「あのね、スーちゃん! わたしこれから、王さまがやさしい人なのをみんなに教えるために、王さまのところに行こうと思ったの!!」
そう言いながら、わたしは手に持っているもの――ピンク色のリボンを彼に見せる。
だからお願い、部屋の外に出して?
そういう気持ちで見上げれば、彼は両手を広げたまま一瞬固まった。しかしそれも一時のことだ。
「そういう事なら分かりましたホ~! わたしがリコリス様の身の回りの安全は守りますホ~!!」
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