12天命を待つ

 一人、その時を待っていた。扉の外側には宰相の気配。これは、要人以外に知られてはいけない儀式。

 ルネは扉を隔てて向こう側にいる宰相に話しかける。


「あの、今、外はどうなっているのでしょう?」

「西の村が焼かれたそうです。北部はまだ地方魔導師が持ちこたえていると報告がありました」

「お父さん、お母さん……」

「そういえば、貴方の両親は北部の地方魔導師でした。貴方のように命懸けで国のために戦っているのでしょう。頭が下がります」


 リヒタート北部の村はルネの生まれ故郷だ。そこでは両親が地方魔導師として働いている。地方魔導師の仕事は、ヴェレンメ帝国の監視といざという時の戦力。きっと、二人は国のために戦っている。

 宮廷魔導師も、国民のために命を懸ける仕事だ。


「……いつから、宮廷魔導師が命をかけるようになったのですか?」

「初代ですよ。その時は、戦争ではなく天災から国を守るためだったと聞いています。この国のために身を捧げた魔導師に宮廷魔導師という名誉職を与えた――それが始まりです」

「そうだったのですね……」

「夜な夜な蔵書を持ち出していたから知っていると思っていましたが」


 ルネの肩がビクッと跳ねる。禁帯出の蔵書はこっそり持ちだしていたつもりだったが、彼には気付かれていたらしい。


「す、すみません」

「気にしなくとも良いです。宮廷魔導師となった皆が通る道だと聞いています」

「…………」

「そんなことより、あの方との話は本当ですか?」

「あの方?」

「公国のレグルス・リュミエラと蜜月の仲だという話ですよ」


 顔が一瞬にして燃えるように熱くなる。


「そっ、そんなことっ」


 慌てふためいて否定しようとするルネだったが、それ以上言葉は出てこなかった。すると、宰相は扉の向こうで溜め息を吐いた。


「その身に刻まれた術式が外部に漏れていなければ良いです」


 彼はそう言って、もう一度盛大な溜め息を吐いた。

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