10二人の想い
緊張しているのはルネばかりで、レグルスはいつもと変わらなかった。
それは、帝国がリヒタートへ侵攻する兆しを見せた時も同じだった。ルネは隣国からの使者であるレグルスに状況を説明する。このままリヒタートで戦渦に巻き込まれてはいけないからだ。
「レグルスさん、実は――」
彼は静かに話を聞いていた。
そして、ルネが状況を説明し終えると口を開いた。
「なるほど、帝国の動きが不穏なのですね」
「はい。すぐにレグルスさんもリヒタートを立つことになるかと思います」
「それは困りましたね。貴方が何をするかわかったものではありません」
「…………」
ルネは何も言えなかった。もし本当に帝国が侵攻してくるとすれば、術の発動をしなければならないかもしれない。そうなれば、命を落としてしまう。
怖い。
それが素直な感情だった。本当は、レグルスに助けて欲しい。しかしルネは強がって、笑顔を作る。
「私たちの国を守るためには、この術を使うのを躊躇いません。その時は、私は宮廷魔導師としての使命を果たします」
レグルスは「そうですか」とルネの意志を尊重するように言葉を返した。
(本当は、逃げ出してしまいたい。物語のヒロインのように、ここから連れ出して欲しい)
心の声はレグルスに聞こえることはない。聞こえたとしても、彼がヒーローになってくれるかはわからない。
「…………」
「ルネ?」
「は、はいっ。何でしょう?」
「私もリヒタートを立つまでの間、貴方のためにできることがないか探してみます」
「……ありがとうございます」
「では、私は荷作りに一度部屋に戻りますので」
「はい」
部屋に一人残されたルネは、目に涙を滲ませる。どうか、この国が戦火に飲まれませんように。そう祈るばかりで、仕事は手に着きそうになかった。
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