だから私は、演じるのにハマった。

 私は、自分の感情を詳しく言語化するのが苦手だ。いつも自分の感情の上澄みしかすくえない。ずっとその原因は自分の語彙力の無さだと思っていたのだが、いや、それもちゃんと原因の1つではあるんだけどね、根本は自分のことが嫌いだからということに最近気づいた。

 自分のことが嫌いだから、それと、自分の嗜好があまり一般的ではないから、自分の思考回路に吐き気がするんだよな。だから無意識に、吐き気がするところまで深く潜らないようにしているんだろう。

 私が目指す人間像は、根っからの善。善い人間であろうと心がけずとも善い行いが、善い思考ができる、そんな人。自分の機嫌は自分で取れ、自分が他人の行動によって怒ったり傷ついたりせず、自分の感情に振り回されず、他人を不快にさせない、愚痴は言わないどころかそんな思考にならない、そんな清く真っさらな人間になりたい。不可能なのはわかっている、それでも、そう有りたいと願ってしまうのだ。

 なのに、私ときたらどうだ? だらしない生活。常に自分の感情に支配され、自分で決めたことも何一つ守れず中途半端。理想は高いのに、これっぽっちも行動しない。他人に気を遣われていないように感じただけで深く傷つき、自分の中でずっと愚痴を吐いている。おまけに、フィクションでは不幸が好きなのだ。他人が絶望しているところを見て愉悦に浸っているのだ。気持ち悪い。心底。自分という人間が。

 だから、私は、自分の気持ちを言うのを控えるようにした。本当はやめたい。でも誰かに聞いてほしくて、でも言いたくなくて、それでも我慢できなくてこぼれてしまった時は、うまく整理できなくて、整理する時間もなくて、めちゃくちゃな文章を喋って、また自己嫌悪する。それに、自分が聞いて欲しくて話しても、相手に興味ないですって空気満々で返事されるのが悲しい。それはまぁ、私の喋りが下手なのが問題なのだが、だが、私だってお前の興味ない話を真剣に聞いているのだよ。誠意がない。そんなやつに私の感情を見せる必要はない。

 結局は自分の行いが自分に返ってきてるだけなんだ。誰にも嫌われたくないからって皆に合わせてた中学時代、アイデンティティなんて捨てて、ヘラヘラして、高校入学したら皆自分を持ってて、あれれ。そんな時に中学卒業間近から付き合った彼氏に生きてる価値ないって言われて、あれれが言語化されたんだよね。私は生きてる価値ないって。すごくしっくり来たのを覚えてる。それだけなら良かった。良かったのに。彼は私の身体に手をつけた。決して最後は許さなかったんだけど。初めての彼氏で、なんだか恥ずかしくて、嫌われるのが、というか、落胆されるのが嫌で、手を繋いでとか、抱きしめてくれとか、キスしてくれとか言えなかった。キスは付き合って1年が経つ頃に頑張って伝えてしてもらったんだけど。する前に、後悔すると思うみたいなことを言われて、未だにあれはどういう意味だったんだろうかと考えている。

 もしかしたら、もしかしなくとも、生きてる価値ないって言われたんだったらすぐ別れたら良かったのにって思う人いるだろうね。でも私はね、自分のことずっと生きてる価値ないって思ってたんだよ。それを彼が言語化してくれただけで。でも彼は私を彼女って特別な立ち位置に置いてくれてたの。私はもう、そこしか縋る場所がなかった。そこを失ったら、私はほんとに生きてる価値がなくなっちゃうから。身体を好きに触ってもらうだけでその場所を手にし続けられるのなら、全然構わなかった。むしろ、生きてる価値のない人間の身体を求めてしまうその本能性欲が、私を興奮させた。私だったら、生きてる価値のない人間なんか恋人にしない。それでもその位置における程の身体が私にはあったのだと、生きる価値を退けてしまえることに、彼の、人間としての欲望に馬鹿馬鹿しさを感じ、また私もその快楽に溺れたいと思った。なんだか大袈裟に感じるかもしれないけれど、私達はただの町の思春期の男女。私はとてもスタイルが良かったわけではない、ただ胸が少し大きかっただけ。ただそれだけで充分だった。

 でも、私が特別であることを感じられる時間は少なかった。それまでは外でそれなりの頻度で会っていたのに、身体に手を出されてから、月に一回しか会えなくなった。何回かそれはもう勇気を出して会いたいと伝えたことがあるのだが、その時は2人ではなく、友達を交えて遊んだ。私はあの時間しか安心できないのに。

 …………。はぁ、我に帰ってしまった。まだ今日のタイトルにたどりついていないのに。流石にゲロを吐きすぎだ。なんだっけ、何を言いたくてこれを話し始めたんだっけ。

 そうそう、自分の気持ちを言語化するのが苦手だけど、これからは頑張って言語化してみようと思う。明るいことは言葉に出して伝えた方が良いと理解してきたから。

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人間T 彼岸キョウカ @higankyouka

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