第10話 包まれるほど癖になる

「花巻JCTで曲がって、遠野・釜石方面だよね?」 

 操が道順を確認してくる。

「うん、そうだね。で、花巻空港IC越えると、すぐに本線料金所あるからね」

 僕はそう答えた。


 鍵を開けて、再び車に乗り込む。

 今度は、操が運転席、僕が助手席だ──。


 ………………


 パーキングエリアを抜けると、数分で花巻JCTの標識が見えてくる。


 操はウインカーを左に上げて、車線を分岐へ向けていく。そして車は、大きなループ路を走って釜石道へと進入していく──。


 一つ目のIC、花巻空港ICを通りすぎると、すぐに料金所が見えてくる。有料区間はここで終わりなのだ。

 ここからは、無料の高速道へと入っていくことになる。


 車線はやがて、対面通行の暫定二車線に切り替わる。

 すると、操は少しほっとしたようだ。


「……二車線、苦手?」

 僕は何気なく聞いてみる。


「苦手ってほどじゃないけど、やっぱり気は使うよね、周りの状況とか。……一車線なら、前後だけ気を付けてればいいし」


 そう言って、にこりと笑顔を見せる。

「さて、余裕もできたし……。聞かせてくれる?」

 そしてそんなことを言う。

 まあ、さっきの話しのつづきだろう。


 仕方ない、お話ししましょう──。

 魅せられた禁断の下着のお話を……。


 ………………


 下着の魅力、それは美しさにもあるが、同時に……普段は隠されていて見ることができない、という事もひとつの要因であろう。


 しかし、真に見せる必要のない物ならここまでデザインが洗練されることはなかったかもしれない。下着というのは、普段は見せないのに、いざというときには積極的に見せるものでもあるのだ。


 そして、中には見せることを前提としている……見せるための下着というものも存在する。


 それが為に、下着は進化し続け、多様化してきたのだ。


 そして同時に、下着は女性(と一部の男性も)の身体を美しく見せるための機能も併せ持つ。現在では、そのどちらも高度に両立しているものも多く存在しているのだ。


 一方で、下着そのものではなく、着用時のシルエットを美しく見せるための機能に特化した下着も少なからず存在する……。


 その、機能特化型ともいえる下着の一群、……そう。


 それが───、補整下着と呼ばれるものだ。


 補整下着というカテゴリーも、それだけでひとつのジャンルと呼べるほど多岐にわたっている。

 補整力の強いブラジャーも、広義ではそう呼べるかもしれない。


 しかし今回は、補整力に特化して布面積が通常より広く、何より下着として見せる前提ではない──所謂ベージュ色の下着に代表される……物を指すことにする。


「──宜しいですね?操くん」

「わかりました!教授!」

 ノリのいい操は、きちんと生徒役を演じてくれている。


 むふふ、今の僕は、ぱんつ教授か……


 今回、特に取り上げるのは……

 補整下着の中でも、上半身と下半身を同時に覆う、ボディスーツと呼ばれる物の一群である。


 ────ボディスーツ。


 上半身から、下腹部及び臀部まで覆う物、中には太股部分まで覆う物もあり、多くは上下ワンピースで構成されている。

 身体のシルエットを美しく見せるために、必然的にその拘束力はかなり強く、着用するのは結構手強い。

 胸周りをきれいに整え、乳房を持ち上げて形を美しく見せる。腰周りは、強力な補整ネットで絞り上げスッキリとしたラインを生む。その腰周辺部分には、特徴的な鉤ホックで腹部を締め付ける機構が備わっていることが多いのだ。



「───男の身に付けるものに、鉤ホックってそもそも無いんだよね。」

「そういえばそうだね」

 操は同意する。


「だから鉤ホックって、それを留めるだけで、なんか……非日常感を感じちゃうんだ~」


 僕は、うっとりと語ってしまう。


「うん、それはわかる……けど?」

 操が疑問を挟む。

「どうしたのかね?」

 僕は、教授っぽく尋ねる。


「……無理あるんじゃない?」

「ふむ?……無理とは?」


 すると操は、顔をこちらに向けて──

「み、みさお!!前向いて!!」


 僕は慌てて操に注意を促す。

「あ、いけないいけない…」

 操もすぐに前を向く。


 ……やはり、語るときには僕が運転した方が安全そうだ。


「運転、替わろう」

 僕は提案する。

「え~?!まだあんまり走ってないよ~?」

 操は不満そうだ。


「……お菓子買ってあげるから」

「……さっきのコーラの仕返し?」


 せめて、おかえしと言って欲しい……。


 若干不満ぎみであったが、彼女は承諾してくれたようだ。


 案内標識に宮守ICの文字が見える。

 ……確か、ここで降りれば直ぐコンビニがあったはずだ。

「操、ここで一旦降りよう」

「うん、りょうか~い。あたし、シュークリームがいいな~♪」


 既に、操の思考は甘い物へと展開していたようだ。


 ウインカーを左に出して、車はICから外に向けて進んでいく。出口で右に曲がると目の前にファミリーマートが見えてきた。


 ……………


 車を停めて、コンビニに入る。

 コンビニというのは、どこの土地でもあまり変わり映えがしない。その点は、安心材料でもあり、ちょっとした残念ポイントでもある。

 一方で、食料品スーパーというのはどこも同じに見えて、実は大変地域色豊かなものだ。見知らぬ土地に行ったら、必ずと言っていいほどスーパーに寄ることにしている。


 僕も操も、スーパーが大好きだ。


 忙しいときにも、ちょっとしたデート感覚でよく一緒に出掛けていく。暮らしに必要なものを、一緒に考え、手にするプロセスは二人にとって必要なことであり、喜びでもあるのだ。

 女性と付き合うようになったら、一緒にスーパーに行くのが、僕のささやかな夢だった。

 操はそんな僕の夢を叶えてくれた人でもあるのだ。


 …………………


 買ってきたシュークリームを手に、二人で車に乗り込む。再び、僕が運転席、彼女が助手席だ。

 彼女は、持ち込んでいたお湯でインスタントコーヒーを溶かしてくれている。


「はい、どうぞ」

「うん、ありがと」


 操からマグカップを受け取り、コーヒーを一口。それから、おもむろにシュークリームの封を開ける。


 中にカスタードクリームとホイップクリームが両方入っている、ちょっとリッチなシュークリームが、今回のチョイスだ。


 個人的には、チョコクリームが入っている物が気になっていたのだが、値段を見たら操の選んだものより20円高かったので、同じものにしたのだ。


 「ん~~♪おいひぃ」


 操は早速かぶりついている。

 シュークリーム上級者である彼女は、クリームをこぼすような愚は犯さない。ぺろりと舌を覗かせながら、美味しそうに食べている。


 僕も、同じようにかぶりつく。

 ……シュークリーム初心者の僕は、クリームを絞り出すように無様にこぼしそうになってしまう。


「んん…?!」

 慌てて、指で掬い上げるようにクリームを受け止める。服にこぼすのだけはなんとか回避した。

 右手に持ったシュークリームと、左手の人差し指にこんもり乗ったクリーム……。

 左右見比べてから、僕はまずシュークリーム本体を口に放り込む。形が崩れてしまっているので、一口で食べようと無理に押し込む……。口腔内がクリームでいっぱいになり、少し苦しい……。


 すると、いち早く自分のものを平らげていた操が、僕の左手を掴んで、クリームの乗った指にしゃぶりついた。


「!!っ!…?!っ!!(それ、僕の!)」


 そう言おうと思ったが、口いっぱいのクリームが発声を許してくれなかった。

 操は、口を塞がれている僕を煽るように、僕の指をぺろぺろとしながら、満足げな表情をしていた。


「クリーム強奪だ……」

 ようやく飲み込んでそう声をかけると、彼女はいっそう微笑んで、


「もーらい♪」


 そう言って顔を寄せて、僕の唇をぺろりと嘗め取った。

「んふふふふっ♪」

 操は美味しそうに舌をぺろりと一周させている。どうやら、僕の唇にはまだクリームが残っていたようだった。

 その顔と、……唇に残った柔らかな感触で、思わず……僕も微笑んでしまっていた。


 ………………


 再び車は高速道に乗り、暫定二車線道路を東へ。


 この釜石自動車道と、これから繋がる三陸道は新直轄方式という、従来の高速道とは違う方式が採られている。通行料金がかからない代わりに、PAなどの施設は最小限に抑えられていることが多く、車線もご覧の通り片側一車線区間が目立つ。「暫定」二車線と呼ばれる所以だ。

 その分、乗り降りしても追加料金を気にしなくて良いので、休憩などは一旦高速を降りて沿線のコンビニや道の駅などを利用することもできる。

 しかし、三陸道の岩手県内の区間にはトイレ付きPAが1ヵ所も無く、普段利用している身としては少々不便でもあった。緊急時は、PAの端っこでこっそり立ちションしてしまうこともあるのだ(軽犯罪)。

 男の場合は、最悪それでも仕方ないかもしれないが、女の人などは大変だろうと思う。


「──お腹空いてない?」


 僕は、時計を見てお昼ごはんを食べていなかったことに気づく。現在時刻は午後2時くらい。操がお腹をすかせていないか気になったのだ。


「私は大丈夫よ。さっきシュークリーム食べたし。天音、お腹空いたならなんか食べようか?」

 操は平然とそう答える。

 まあ、今日は全然動いてないから僕もそれほどお腹はすいていない。


「ううん、僕もそれほど。わざわざ寄るほどでもないかな……」


 とはいえ、若干の空腹感はある。

 ……さっきのコンビニでおにぎりくらい買ってくれば良かったかな。


 そう思っていると……目の前に、さっと黒い三角形の物体が差し出される。

「真昆布」と「焼しゃけ」というラベルが貼られていた。


 僕は驚いて尋ねる。

「買っておいたの?」

 すると操は、

「二個だけだけどね、天音お腹すくんじゃないかと思って」


 これは嬉しい。


「どっちがいい?」

 操が聞いてくる。

 僕は正直どっちでもいいが、操はしゃけが好きだったはずだ。


「昆布くださ~い」

「おっけー♪」


 操はなれた手付きで、ラッピングを剥がしておにぎりを組み立てていく。


「はい」

 操はそう言って、僕の口許におにぎりを差し出す。僕はそれをぱくりと咥えて、それから左手で受けとる。

 ぱりぱりとした、海苔の食感が心地好い。


「お茶も淹れるね」

 すぐさま彼女は、マグカップにお茶の粉を入れてお湯も注いでくれる。


 おにぎりとお茶を交互に口に流し込み、ほっと一息着く。


「操って、ほんと気が利くよね?」

 僕は嬉しさのあまり、──迂闊にも……そんなことを言ってしまった。


 すると操は、ちょっとだけ表情に翳りを含ませて、

「……きっと、天音だからだよ。他の人相手だったら変に気を遣って、……全然うまく行かないと思う」

 そう答えた。


 ………あ、

 こういう話題は、良くなかった。


 操の内面に、改めて思いが至って、少し苦い心境になる。


「そういえばさ……」

 すると操が、話を振ってきてくれた。

 ……どうやら不用意に内側に斬り込む愚行は流してくれたようだ。


「さっき、話の途中じゃなかったっけ?」

 ボディスーツの事か。

「そういえばそうだったね……どこまで話したっけ?」


「んーと、……鉤ホックが気持ちいい……とか?」


 あ、そうだそうだ。

「無理あるんじゃない、って言ってたとこだね」

「あー、そうそう!ぞうさん!」

 操が嬉しそうに話す。


 ぞうさん……?


「タマタマとかぞうさんとか、潰れちゃうんじゃないの?あんなの着たら……」


 なるほど、その点についてか……。


「うん。それは僕も最初から気付いてたんだ。」

「だよね?でも、持ってるんでしょ……?」


 僕は頷いて答える。

「無理だと、諦めていたんだ……最初の頃は」


 そう言って、僕は遠い目をする。


「……何が、あったの?」

 彼女まで、シリアスに聞いてくる。


 ………………


 女性下着の世界に入門して、半年ほどがたった頃──。


 僕は、相変わらず様々なデザインのぱんつに没頭していた。


 紐ぱんから、オープンクロッチへ派生し、改めてオーソドックスなハイキニショーツへ回帰し、ボックスショーツとハイウエストへ寄り道したりしながらレースと刺繍の美しさに酔いしれる日々を過ごしていた。


 特に、レースと刺繍の組み合わせが産み出す、えもいわれぬ重厚な感動は、僕を夢中にさせるのに充分であった。


 しかし、僕の探求心と渇望は、更なる美しさ……それは芸術と呼べる領域の造形美を欲していたのだった。



「──教授、ちょっとくどいです」


 彼女から指導が入ってしまった。

 ……少しテンションを抑えよう。



 いろんな下着を漁っていると、刺繍、レースというワードに関連して、高頻度で混ざってくる、補整下着の数々……。


 補整下着は、その機能を満たすためどれも布面積が大きいものばかりだ。

 そして、その広大なキャンバスとも呼べる生地は、どれも美しい刺繍とレースの凝った装飾が施されているのである。


 改めて考えてみると、不思議だった。


 補整下着とは実際のところ、勝負下着と呼ばれるものとは違って、積極的に誰かに見せるものではない。

 そのシルエットは、きちんと上に洋服を着た状態で見せるものであり、下着そのものをお目にかける事態は稀だろう。仮に、これから性行為が予想されるとして、そこにわざわざ補整下着を着用していく人は、たぶんいないだろう。万一、着ていったとしても、相手の前に立ち会う際には、これは脱ぐはずだ。

 補整下着とは、言ってしまえば体型の誤魔化ごまかしである──補整が必要な体型であることを、わざわざひけらかすようなものだろうから。


 そういう意味では、裸よりも見せることに抵抗を感じてしまうものではないのだろうか?


 現に、海外製の補整下着の多くは、その見た目がスエットのようにのっぺりとしていて、デザイン性は皆無といってもいいものばかりだ。機能と役割で考えれば、必然的にそうなるはずなのだ。


 ───だが、しかし!


 日本製の補整下着、特にボディスーツは……そのどれもが、複雑で優美な紋様とも呼べる凝った刺繍とレース処理が施されているものばかりなのである。

 

 見せないことを前提としていながら、その意匠と造形には一切の手抜きが無いのだ──!!


 この事実に気付いたとき、……僕は驚愕したのだ。


 例え見せなくても、その美しさの探求には妥協がない。あたかも、不意の場面に遭遇しても、いつ何時なんどき、服を脱ぐ場面に出くわそうとも、内に秘めた美しさを隠し持っていることを忘れない──、そんな貴高さを感じる下着。


 それこそが───


「───ボディスーツ……」


 僕の解説の後を受けて、操は厳かにその名を呼んだ。


「そう、わかってくれた?」

 僕は、ふぅ、と息をついて操に目配せした。


「………ボディスーツが大好きで、見せるものじゃない、っていうのは解ったけどさ? ……肝心の、ぞうさん問題の部分がまだ出てきてないよ?」

 操が、そう不満をこぼす。


 あぅ………、そうだった。


 ………………


 毎日毎日……ため息をつきながらボディスーツの画像を眺める日々。

 

 いくら恋焦がれようとも、僕には身に付けることは叶わない……。これは、男性体型の僕にはどうしても解決不可能な問題だった。

 中には、下半身部分を省略した、上半身だけのスーツもあるのだが、やはり身に付けるにあたっては上下ワンピースタイプのものでなければ、納得できなかった。

 ここで妥協するということは、女性下着愛好家としては堕落……いや、破戒であろう。


 そんな僕の目に、偶然飛び込んできた一着のスーツ。


 前に、検索でオープンクロッチショーツを調べていたために起こった、偶然の奇跡と呼べるものであっただろう。


 そのボディスーツは、一見するとよくあるタイプの物だった。太ももまで覆う全身タイプの補整下着。腹部に強力な鉤ホックがついている、ハードタイプと呼ばれる補整特化の仕様だ。


 だが、写真のモデルが着用しているスーツの、その股間部分は丸く刳り貫かれており、中からぱんつが見えていた。


 こ、これは……?


 説明文を読んでみると、着用したままでトイレに行ける「トイレホール」付きだという。


 ───これだ……!!


 僕は、天啓を受けた思いだった。

 これならば、男性体型の僕でも着られるかもしれない、と───



「───そんなのあるの?!」

 操も驚いている。

 どうやら、はじめて聞く仕様だったようだ。


「お股の部分にスナップ付いてたりするのは、知ってるけど……、穴空いてるのは見たこと無いよ?」


 他にも、背中側に横向きのスリットが付いていて、着たままでお尻が出せるような仕様のものも存在する。


 ボディスーツというのは、その役割上どうしても強烈な締め付けを発生させる。当然、着るのも脱ぐのもひと苦労だ。

 しかし、これを着用する場面というのは、必然的に誰かに会う用事がある、という場合が殆どだろう。

 合わせる洋服も、それなりに凝ったものを着ていくことが想定される。

 ただでさえ窮屈なスーツを着て不便なのに、その状態でトイレに行かなければならないと考えると……その着用には躊躇を感じるはずだ。

 急に催したりしたら、最悪……大惨事を招きかねない。


 トイレホール付きのボディスーツは、その悩みを解決してくれる。

 着たままで、トイレで用を済ませるに充分なホールが備わっているのである。

 通常は、このボディスーツを着たからぱんつを重ねて穿くのである。


 そして、このホールが僕のぞうさんを圧死から救ってもくれるのである。


「なるほどね~~!」

 操は、いたく感心して深く頷いていた。


「着るときは、窮屈に感じるんだけど、着てしまえば結構快適なんだよね。背筋も延びるし、腰痛対策にもなるし」


 元々がシルエットを整えるためのものだ。そのため、背中を反らして姿勢も美しくサポートしてくれる。だから僕は、重いものを持つ仕事の時は、積極的にこれを身に付けていくことも多いのだ。


「それに、服着た状態で綺麗に見せるためのものだから、アウターにも響きにくいんだよね。ブラとかよりも気軽に着られるんだよ」


 そのため夏場は、ブラよりもスーツの出番の方が多いくらいなのだ。


「……暑くない? 夏ってブラ着けるのも嫌になることあるけど……」

 操が聞いてくる。


「まあ、あんまり暑いときは着ないけど……」


 だが、ガーターベルトを組み合わせたフル装備が、かなりの覚悟と状況の兼ね合いを必要とするのに対して、気軽に使える重装備という意味で、とても重宝しているのだ。


「実用的だしね。もちろん、トイレにも行きやすいし……冬は冬で、インナーとして防寒対策にもなるし」


 それを聞いて、はぁ~……、と操は大きく息を吐いた。

 さすがに、呆れちゃったのかな……、と心配になる。


「なんか……、世の女よりよっぽど下着に気を遣ってるよね、天音って……。そこまでこだわってる人って、女でもなかなかいないんじゃないかな」


 僕の心配をよそに、操は相変わらず優しい笑顔を向けてくれている。


「僕のは、趣味だから……。女の人の大変さとは、違うよ……きっと」


 僕がそう、控えめに言うと、操は、

「ふふふっ♪ 家に帰ったら、着て見せてね?」

 そんなことを言っている。


「だから……、これは見せるものじゃないんだってば~……」

 僕は、そう抵抗を示すが、

「だーめ、見るの。見せなさい!……それに私にも、必要になるかもしれないし?」


 体型、気にしてたのかな? 操の身体は理想的で、むしろもっと肉付きがあってもいいくらいなのに……。


「操はそのままでいいの! ダイエットとか絶対ダメだよ?」

 僕は、あわてて釘を刺す。


 健康に影響が出るほど太ってしまったら話しは別だが、見た目を気にして無理に痩せるなど愚の骨頂だ。むちむちしていようが、僕は操を愛し続ける絶対の自信がある。


 僕は、いっぱい食べる、今のままの操が好きなんだから───。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る