【三】神々の包囲網と天罰
地球の神【アセリア】は、黒猫の神使[セリエ]を呼んだ。
「アセリア様、雷神の準備も出来ています」
黒猫は人間の男の声で話した。
「セリエよ、御苦労様。陛下や康代にも伝えてください」
「アセリア様、心得ました」
セリエはすぐに消えて光になった。
陛下の前に現れた黒猫姿の神使セリエ。
「陛下よ、セリエじゃ」
「セリエ様、そろそろでしょうか」
「其方(そち)は、察しが良くて助かるぞ」
セリエは消えて光になった。
神使セリエは徳田康代の前に現れた。
『セリエ様、御用でしょうか』
「そうじゃ、用があるから来ている」
「陛下が、もうじき臨時政府を宣言する」
『とうとう始まったのですね』
「そうじゃ、康代も心して準備せ!」
『ありがとうございます。セリエ様』
セリエは、忍者のように消えて光になった。
「メーデー!メーデー!メーデー!」
遭難信号を機長は操縦席で絶叫した。
複数のモンスター級の
機体は幾度も激しく爆発して真っ二つになって砕け散った。
爆発炎上した機体の残骸が紙飛行機のようにぐるぐると螺旋状に回転しながら急降下した。
やがて海面に激突して粉々に砕け散って海の藻屑となった。
機体の残骸が海面を漂いながら浮き沈みをしている。
海面を漂う専用機の離脱カプセルの残骸に、人の姿はなかった。
地球の守護神、女神アセリアは予定を実行した。
神使の黒猫[セリエ]は女神に従い静観している。
神々の裁きはまだ始まったばかりだった。
「東都の裁きが始まったね」
神使の黒猫セリエがアセリア様に告げた。
「人間は因果応報を未だ学習出来ないね」
神を敵にした者に神の救いは無かった。
天界の女神アメリアが白猫の神使メリエに尋ねた。
「メリエ、地球の神アセリアの神使セリエから連絡はあるかな」
「はい、アメリア様、もうすぐとのことです」
「中間世界が慌ただしくなりそうですね」
「はい、アメリア様、心得ています」
国会メモリアルセンター全館のエレベーターがショートして停止していたことを誰も知らなかった。
ほろ酔い気分の議員たちに命の砂時計は残っていない。
神の敵の逃げ道は完全封鎖され閉じ込められた事を知る議員はいなかった。
国会メモリアルセンター地下会議室はパニック議員たちの喚き声が溢れている。
男性議員のひとりが叫んだ。
「会議室が異常に蒸し暑いぞ、おかしいぞ・・・・・・」
女性議員が叫ぶ。
「暑いじゃ無くて、焼ける熱さよ・・・・・・」
ザワザワが拡大している。
「誰か、早く調べろ」
異臭騒ぎも起きた。
「なんか硫黄臭い・・・・・・」
熱風が次々に議員たちに纏わりついた。
「熱風だ。消防を呼べ・・・・・・」
「エレベーターがすべて停止しています」
大きな地鳴りが幾度も議員たちの耳にも聞こえた。
「なんなんだ、今の音は・・・・・・」
「聞こえた」
政府専用機墜落事件発生から数秒後のことだった。
女性議員が絶叫した時に事態は変化した。
「体が焼ける!ヤバイよこれ!・・・・・・」
ホログラム携帯が一斉に鳴り震源が表示がされた。
[ブーブーブー、緊急地震速報]
[ブーブーブー、緊急地震速報]
[ブーブーブー、緊急地震速報]
「大きな地震に備えてください」
「最大震度五以上・・・・・・」
「震源、国会メモリアルセンター地下・・・・・・」
照明が遮断されて緑色の非常灯が点灯したが消えた。
会議室に白煙の様な靄が広がり硫黄臭が充満する。
インターネットニュースの中継画像が真っ黒になって見えない。
天界では、白猫姿の神使メリエが女神アメリアに呟いた。
「女神さま、始まったようです。忙しくなります・・・・・・」
「人間どもは、本当に面倒くさい」
女神アメリアが白猫メリエの頭を撫でた。
白猫の姿の神使メリエは女神アメリアの膝の上にいた。
地球の守護神、女神アセリアも呟いた。
「環境破壊の代償はアメリアの神使メリエに伝えてある。
ーー 人間どもの好き勝手を抑制しないと手遅れになりかねない」
「皇国、東都の裁きが、まもなく始まります。
ーー 天界の女神アメリア様の神使メリエ様からも準備完了の連絡が届いています」
女神アセリアの黒猫の神使セリエが答えた。
「セリエよ、一人も逃してはならない」
怒気を顕な声でアセリアは言った。
「アトランティス以来の大仕事になるもしれない・・・・・・」
守護神女神アセリアは付け加えた。
神使セリエは巨大な黒猫の姿に変身して人間界を覗いていたが、人間には見えない。
会議室の灯りが消えパニックさながらの議員とスタッフが右往左往している。
次の瞬間、床から幾度も轟音が聞こえ床が割れ砕けた。
議員たちの何人かは、椅子と一緒に床の亀裂の中に消えた。
床の亀裂から熱風が吹き上げ、硫黄臭がしていた。
国会メモリアルセンタービルの灯りが、八十八階まですべて消えた。
阿鼻叫喚地獄さながらの悲鳴がビル全体を包んで静かになった。
永畑町の超高層ビルは地面に空いた大きな穴の中に跡形もなく呑み込まれた。
穴の中では血の池地獄のような真っ赤なマグマが生き物のように
メモリアルセンタービルがマグマの穴に消失するまで一分とかからなかった。
永畑町上空に漂う蒸気は山崎線の原口駅からも見える。
政府専用機墜落から僅か一分以内の偶然の出来事と知る者はいなかった。
長い時が流れたのかと誰しもが思った。
辺りの景色は掻き消され視界が変わっている。
国会メモリアルセンターと政府専用機に居合わせた職員と議員たちは別次元にいた。
広大な砂漠の真ん中にいることに気付き顔を見合わせ安堵するのだが・・・・・・。
「生きているぞ」
「大丈夫だったのか?」
「でも、変よここ、どこなの」
「異世界か」
「時空の狭間よ」
「並行世界じゃなそう」
「ちょっと、あれ、見て」
人間の魂たちの無意識の声がパニックを引き起こし喚いている。
空は薄暗く茶色で風のない荒涼な世界だったが阿鼻叫喚地獄には見えない。
誰もが異世界にタイムスリップしたと思った。
目の前に巨大な黄色い光の輪がいくつも現れ光の中央から人影が現れる。
神々の裁きの始まりの第二幕だった。
ひとりは天界の主人で人間の姿の背中に大きな白い翼が三枚もあった。
ひとりは地獄界の主人で大きな赤鬼の姿で仁王立ちして大きな剣を両手に持っている。
ひとりは人間界の転生の扉の主人で薄手の虹色の羽衣を何枚も重ねていた。
最後に中間世界の女神アメリアと白猫の神使メリエが門の
そ場の空気が変わり、スポットライトの様にキラキラとした眩しい光が地面に放射された。
空は茶色から黄色に変わり光が溢れ出す。
女神アメリアは、おもむろに口を開いた。
「みなさんは今、魂だけの存在になって、
ーー あの世とこの世の中間世界にいます。
ーー まもなく魂の最初の審判が宣告されますので、しばらくお待ちください」
総理と秘書官は、墜落の記憶を忘れ激昂して、女神に命令していた。
「茶番はやめて、元に戻しなさい!」
門の主人たちの静止を無視しての暴挙にも、女神は微笑んでいるだけだった。
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