【二】神聖女学園〜聖女徳田康代と神使セリエ

 私立神聖女学園は、首都東都から離れた郊外の森の中にある。

白樺の木立に囲まれ近くには広い田園が広がる。

遠くに大江戸平野の山々が見える環境は澄み切った木々の香りに満たされている。


 ドームスタジアムの二十倍の広さの学園の敷地の中央に赤レンガ色の大きな神聖女学園の校舎がある。


 神聖女学園の中央校舎を中心に各施設が配置されている。


 東側には、複数の学園寮と旧体育館がある。

北側には、ビジネスホテルと変わらない宿泊施設があった。

西側を見ると、新しい体育館と大講堂が並び、その奥には武道場とプールがある。

南側は、陸上グランド、サッカーグランドと野球スタジアム、テニスコートがあった。


 神聖の学園都市には、中等部、高等部、大学があり生徒たちは学園寮から通学している。


 校舎の北側にある宿泊施設の西側には大型ショッピングセンターがあり立体駐車場が併設されていた。

町の人たちも利用できた。


 敷地内にある施設は、それぞれ地下通路で繋がり雨天でも濡れることがなく生徒は動く歩道で移動できた。

ショッピングセンターと学園側を結ぶ地下通路はロボットが二十四時間巡回警備にあたっている。


 地下通路は、学園側のセキュリティゾーンとセンター側の一般エリアに分かれている。

立体駐車場の屋上には空中浮遊自動車専用の発着滑走路が設置されている。

ショッピングセンターの五階には最先端のリニアモノレール駅がある。




 神聖女学園の理事長は神聖財閥グループの会長と学園理事長をしている。

神聖ショッピングセンターの利益は学園に還元されて、生徒の制服、学費、寮費、食費の無償化に協力していた。



 徳田康代とくだやすよは、セミロングで目鼻立ちの輪郭がハッキリした美人タイプで長身が目立っている。


 織畑信美おりはたのぶみは、ポニーテールが自慢で容姿端麗だが背丈は普通くらい。


 前畑利恵まえはたりえは、ロングヘアーで可愛い顔立ちの美人で背は高くない。


 康代、信美、利恵の三人の黒髪はキラキラと輝いて美しい。

康代の健康的な肌色に対して信美と利恵の肌は色白に見える。




 神聖女学園のすべての女子生徒は前世記憶を有する能力者だ。

 陰陽師おんみょうじに選ばれた容姿端麗の生徒たちに入学試験は行われない。

陰陽師による面接だけが実施されている。


 合否案内は陰陽師おんみょうじから後日通知される慣例があった。

世間では、神聖女学園を転生女学園とか美女学園と呼ぶ者もいた。




 全寮制の神聖女学園高等部の女子生徒は校舎に併設されている学園寮から通学して、学園ライフをエンジョイしていた。


 陰陽師おんみょうじ安甲晴明あきのせいめいの子孫である陰陽師の安甲晴美あきのはるみは、神聖神社の神主と神聖女学園の教師を兼務している。

 この日の安甲は面接官として、徳田康代、織畑信美、前畑利恵の三人の前世を見ていた。


 三人の前世と未来を見て、ひっくり返りそうになるくらい陰陽師は、驚いた。

皇国の未来を垣間かいま見てしまったからだ。


『陰陽師さん、大丈夫ですか?』

徳田康代が話し掛けた。

( ※この物語ではに二重鉤括弧を使用しています。『  』)


「ちょっと、めまいがしただけだから心配ないわ。

ーー ところで、君たちは、知り合いなのかな?」


『はい、中等部の時から親しくしています』


「君たち三人は特別な能力者なので、

ーー 高等部でも生徒会役員をお願いしたい」


「そして、徳田さんには、生徒会の会長をお願いします。

ーー 面接は以上で終了です」


「みなさん、進学、おめでとうございます」

陰陽師の合格が、その場で知らされることも異例だった。




 徳田の前世を持つ徳田康代は神聖女学園高等部に通学している十六歳の女子高生だ。


 神聖女学園高等部の真新しい制服の水色のジャケットにライトシルバーグレー色のプリーツスカートを履いていた。

ジャケットの襟には神聖女学園高等部のゴールドバッチを付けている。

ブラウスやシャツの色に規定はなく、この日の康代はライトピンクを選んでいた。


 制服のスカートとパンツの選択、カラーの選択も生徒に任されている。

神聖女学園の理事長の方針があった。


 滅多に起きない異性間転生に康代の魂の無意識も驚いている。

女性として生まれ女性として育った康代の魂には違和感はない。

 

 徳田康代、神聖女学園一年生、神聖女学園理事長の娘であり、高校一年にして生徒会長に陰陽師から任命された能力者だった。


 康代は、文武両道で成績はいつも学年トップの天才女子で高等部でもその実力を発揮していた。

康代は前世記憶を有する能力者の一人でレベルSランクに該当した。


 織畑信美十六歳は[織畑信長の生まれ変わり]で剣道の天才。

 前畑利恵十六歳は[前畑利家の生まれ変わり]で数学の天才だった。


 神聖女学園高等部の生徒会で活躍する三人は前世からの縁で結ばれた親友同士だった。




「康代、地球の神様の噂、聞いたことある」

『信美、それ、あぶない話じゃなくて』


「また、始まったね」

利恵がツッコミを入れた。


 三人は、神さま談義を学園の屋上ですることがあった。

遠くには、大江戸平野の山々の新緑が日差しに反射して輝いていた。




 皇国の陛下は、東都の郊外にある神聖女学園の近くの別荘に住まいを移転した。


 地球の守護神【アセリア】の神使[セリエ]から、東都で起きる情報を知らされていたからだ。

口外できる内容では無かったので、陛下は親族と側近を引き連れて三か月前に転居を終えていた。


 大きな姿の黒猫が陛下の前に現れた。


「陛下よ、神使のセリエじゃ、準備はされているか」

「はい、大丈夫でございます。セリエ様」


 守護神アセリアの神使セリエは、すぐに陛下の前から消えて光になった。




 生きながら、神の使者である神使と対話できるのは、選ばれた陛下と陰陽師と聖女徳田康代の三人だけだ。


 家に伝わる緊急事態応マニュアルを確認するのが陛下の日課だ。

万が一の大災害などで国家機能が停止した場合、陛下が臨時政府の指導者を徳田家から指名して承認する内容だ。


 の時の裏取り決めが歴史に記録されていないことを陛下は知っていた。



 陛下が臨時政府宣言に署名した場合、ありとあらゆる政治的制限が解放され自由にできる内容だ。

すべての仕組みがリセットされる。


 陛下は、地球のの意思に従い臨時政府に権限を委ねる準備をしていた。


 陛下には地球の守護神女神アセリアの声が聞こえることがあった。

黒猫の使は使者として陛下の元に度々現れた。




 神さま同士は、神使、天使、使者などを通じて情報を交換していた。

人類は、神の手のひらの上で管理されていた。

それを知らず悪行の限りを繰り返す人間が世の中を蹂躙じゅうりんしている。

 

 地球の守護神と天界のが東都の裁きを準備していた。

世の中に蔓延はびこる悪人への退である。


 女神アメリアと白猫の神使メリエは、人間の心の声を天界で聞いていた。


「女神様、地球のアセリア様の神使セリエ様から実施の報告が届いています」


女神アメリアは微笑んで答えた。


「もうすぐ大掃除が始まるか・・・・・・」




 その頃、神聖女学園では、占い部が大騒ぎをしていた。

徳田康代生徒会会長は、大きな生徒会室で生徒会役員の織畑信美に話掛けた。


『信美、聞いている、天変地異の噂』

「聞いているよ。占い部の話ね」


『どうも、あぶない話で他人事じゃなくない』

「万が一と言うこともあるから注意しないと」


『ところで、地球の神様の使者の話なんだけど』

「なに、もっとあぶない話があるの・・・・・・」



 生徒会役員の前畑利恵も会話に入って来た。

前畑利恵は、徳田康代と織畑信美の親友で占星術が得意だった。

康代、信美、利恵の三人は前世からの縁で生徒会を盛り上げている。


「信美、学園に出たんだって」

「利恵、見たの・・・・・・」


「大きな二足歩行の黒猫を誰かが目撃したとか」

「利恵、化け猫はいないよ」


『意外と地球の神様の使者は猫かも知れないね・・・・・・。

ーー でもお稲荷さんに悪いかしら』


 信美と利恵は顔を見合わせて大笑いした。

 徳田康代の無意識は真剣に考えていた。




 地球の守護神であり大自然の女神【アセリア】は、黒猫の神使[セリエ]を呼んだ。


「アセリア様、ご用でしょうか」


神使のセリエは人間の男の声で答えた。


「東都の監視状況はどうなったかな」

「ええ、残念ながら、負のエネルギーが増大して危ない状況です」


「セリエよ、解放するしかないな」

「それは、大変な事になります」


「セリエよ、陛下と康代に伝えよ」

「何をで、ございますか」


「新しい時代の準備をするように」

「アセリア様、承知致しました」


セリエは、アセリアの前から消え光になった。




 皇国の陛下の前に黒猫の神使[セリエ]が現れた。


「陛下よ、地球の守護神【アセリア】様の神使の[セリエ]じゃ、伝えることがある」

「セリエ様、何でしょうか」


「まもなくすると、皇国の害虫どもの一斉駆除が始まる」

「結果、無政府状態になるだろう」

「その時、其方そちが臨時政府を宣言してくれとアセリア様の指示があった」


「徳田家康の生まれ変わりのを時の神【エルミオ】の赤猫の神使[ルニャ]から聞いておる」

「今世の家康は徳田康代として転生しておる」

「徳田康代を指名して皇国再生に協力せと、アセリア様の御命令じゃ」


 黒猫の神使セリエは忍者のように陛下の前から消え光になった。




 東都の政府官邸近くの日山神社では大規模な二百年記念祭の神事が行われていた。

日山神社の小さな境内は小高い山の上にあった。


 頂上まで伸びている上りエスカレーターはショッピングセンターのように混雑していた。


「今日は、さすがに、上も混雑してそうだ・・・・・・」

「やっぱり、別の日にすれば良かったかな」

「まだ、少し早いし、ちょっとだけにすれば」


 参拝客の好き勝手なつぶやき声が聞こえた。


 下りエスカレーターの停止に気付いた関係者は首を傾げ、上りに出来ないか神社に交渉する。


「もしもし、下りエスカレーターですが、上りに出来ませんか」

「あれ、故障中でメンテナンスを手配していますから」

「今日、間に合うかは分かりません・・・・・・」


 魔物の呻き声に似た地鳴りが響き、地面が微かに揺れた。

[ゴーゴー]


 神社の向かいの坂の上には政府官邸と国会メモリアルセンターの超高層ビルが見える。

溜沼交差点の上を伸びていた高速道路は老朽化のため解体されていた。そのため一般道路が渋滞している。


 空中浮遊タクシーは渋滞もなくスムーズに動いていて神社に参拝者を届けていたが、問題があった。

 浮遊自動車は規則で一方通行が義務化されていたからだ。

着地点も指定場所以外に着地することが禁止されている。


 便利と不便は、いつも隣り合わせだった。




 東都の結界が・・・・・・。


 黒猫の神使セリエが徳田康代の寝室に現れる。

康代は特殊な能力者な故にセリエが見えた。


「康代よ、地球の守護神【アセリア】様の神使の[セリエ]じゃ」

『セリエ様、なんでしょうか』


「康代よ、時代が変わる」

「その時、陛下が其方そちを指名する」


「必ず受け入れてくれ」

『セリエ様、承知しました』


「今は、ここまでにしよう」


 黒猫のセリエは消えて光になった。



 


 地球の神【アセリア】はすべてを見ていた。

神使の黒猫[セリエ]はアセリアの顔色をうかがいながら話した。


「東都の結界が・・・・・・。

ーー もう限界に近くなっています。

ーー 負のエネルギーも最大です」

「まあ、始まるのね・・・・・・」


「セリエ準備して」

「アセリア様、承知しました」

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