女子高生は大統領 〜女学園の転生女子高生〜【長編39万文字】

三日月未来

[前編]第一部 第一章 【一】プロローグ 家康の転生と東都の前兆

 五月になって東都では蒸し暑い日が続いている。

春の日差しが心地良く新緑の香りが立ち込める神宮の森の中は別世界だった。


 代々木原の地震研究所に勤務する田沼光博士と若宮咲苗助手は、少し早い昼食に出掛ける準備をしていた。

田沼は三十三歳の地震学者で助手の若宮は二十八歳だった。


 田沼と若宮はお揃いの水色のジャケットをロッカーから取り出し、忘れものを確認した。

ジャケットの左胸には、地震研究所のエンブレムがあった。


 田沼は、無地の淡い緑色のワンピースに、黒いストッキングを履いている。

若宮は、花柄の水色のワンピースに、白いストッキングスタイルで、田沼の準備を待っていた。


 田沼光の背丈は、一七〇センチで、若宮咲苗は、一六八センチだった。

二十二世紀の皇国女性の平均身長に近い。


 田沼は黒髪のショートヘアを七三分けにしている。

若宮の茶髪のセミロングは、ジャケットの肩に掛かっていた。


「田沼先生、少し早いですが、出掛けませんか」

「若宮さんが言うなら、それで構わないわよ」




 田沼と若宮は代々木原の小さな地震研究所を出て、神宮の代々木原側の大鳥居前に到着した。


 小柄で人の良さそうな神宮の守衛が、田沼に挨拶している。


「先生、おはようございます。

ーー 通り抜けは禁止されていますよ。

ーー お参りしてくださいね」


「守衛さん、いつも、ありがとうございます。

ーー お参りしますから大丈夫よ」


 田沼と若宮は、代々木原側の守衛前を抜け、長い参道の反対側にある山崎線原口駅側の大鳥居へ通じるルートで、原口駅ビルのレストランに向かう。


 二人は、地震研究所から原口駅への近道に神宮の参道の中抜けをする常習犯だった。

神宮の大鳥居の守衛は、毎回、注意して諦めていた。


「先生、あまり時間がありませんね」

若宮が田沼に言った。


「もう!こんな時間? 急ごうか、若宮さん」


「はい先生、急ぎましょう。混まないうちに」

 二人は、足早に歩を進めたが玉砂利が行く手を阻む。


 代々木原駅と原口駅のひと区間に相当する参道は真っ直ぐ長く、バスが二台並んで通れるほど幅が広かった。

木立が鬱蒼と茂り、昼間でも薄暗く空気がひんやりとしている。


 二人が歩く度に玉砂利の音が森にこだましていたが、いつもと違い静かだった。

田沼は森を見回すが、鳥たちの鳴き声が、一切していないなぁと気付き、独り言を呟く。


「変だな、おかしいよ!・・・・・・」

「え!」

田沼の独り言に若宮が反応している。



 田沼光三十三歳の専門はマグマ天体地震理論による地震予知だ。

田沼の天体地震理論は、地球規模の巨大地震を予測する、最新の地震学として脚光を集めている。


 田沼と同性の若宮咲苗助手二十八歳は、隣を歩きながら田沼に話し掛けた。


「先生、今月も月アプローチが地震リスク上昇期間に入りました。

ーー まもなく月が最大離脱ポイントを通過しますが・・・・・・」


「そうね、そろそろ危ないかも知れない」


「関係部署への報告を上げて置きましたが、

ーー どうも危機感が薄いようで心配です」

若宮が言った。


「今日あたり危ないね、杞憂きゆうならいいのだが」


 月や複数の惑星のデータを利用した複雑な計算データが、度々、マグニチュード七以上の地震予知に成功していた。


「先生、今日は、珍しく鳥たちの鳴き声が聞こえませんが・・・・・・。

ーー 何処かに遊びに行ったのかしら」

若宮が呟いた。


「逃げ出したとしたら・・・・・・。

ーー もう時間が残っていないかも・・・・・・」


「先生、そんな怖いことは、ご勘弁くださいね」


 原口駅前に到着するころには気温も上がり、二人は蒸し暑さを感じていた。

原口駅前から渋丘方面の遠くの景色が、霞んで見えた。

スモッグも霧も発生していないのに・・・・・・。



 水色のジャケットにワンピース姿の田沼と若宮の二人は、原口駅ビルのレストランの窓際の席に案内された。


 窓の遠くには、国会メモリアルセンターの超高層ビルが見えている。


 その時、電車の通過音に混ざって大きな地鳴りの音が幾度もしたが、田沼たちがいた最上階の席に地鳴りは聞こえなかった。


 だが、田沼と若宮は、胸騒ぎを感じていた。


 東都の天変地異の前兆気配が忍び寄っていたが誰も知らなかった。




 徳田幕府時代の大江戸城跡は、国会メモリアルセンターや政府官邸より低い位置にあった。


 永畑町の地形は丘ではなく、低い起伏のある山のように盛り上がっている。

伝えによるとーー 神社のあるところには、重大な意味が隠されていることが多いと聞く。


「先生、東都って、山の中みたいに起伏が多いね」


若宮の分析は、正しかった。


「若宮さん、山ならさぁ、アレが、隠されているかも」


田沼は、からかった。


「アレって、なんですか」

「アレって、ほら、アレですよ」


 原口駅ビルのランチ帰りのいつもの会話だった。


 だった。




 皇国を支配している偽物の民主主義に民たちが立ちあがろうとしていた。

 田沼と若宮は、ランチ帰りにサラリーマンの声を聞くことがあった。


「時代劇なら、いいがね」

「今の時代にも、悪代官みたいなのが、沢山いるんだよね」


「本当、困りものです」

「サラリーマンは汗水流して働いているのにね」


「搾り取られるだけなら無抵抗なサンドバッグと同じだよな」

「まあね、気晴らしするしかないでしょう」


「そうだな、今日は、居酒屋へ行こうか?」

「いいね、アイツにも声かけるか」


 田沼と若宮は、通りすがりのサラリーマンたちの他愛もない会話の声に微笑んだ。




 敗戦より二百年もの長い独裁政治が維持される奇跡は偶然ではなかった。

古くさいアナログスタイルの投票箱の移動トリックが独裁政権の奇跡を支えていた。


 インターネットチャンネル配信から聞こえてくる噂があった。


「間違って投票用紙が捨てられるか」

「投票率を下げる裏技だよな」


 庶民の声は、犬の遠吠えにされかき消される。


 ネット投票が解禁されない不都合を追求する者もいる。

投票用紙に鉛筆スタイルの焼け野原政治の敵では無かった。

ベニヤ板の掲示板が設置されてポスターが貼られるという不効率が二百年間変わらない。


 ネットの声は単発花火のように散った。


「カネのかかる仕組みを変える勇者が現れないと国民はジリ貧だよ」

「まあ、俺たちには、何もできないし・・・・・・」


「立候補者は名前を連呼しているが、誰か知っている?」

「知らない。町中を宣伝カーで巡回する騒音装置か」


【やってますスタイル】に庶民の呆れた声がネットから溢れている。


 そんなおかしなことに異議を唱える者は現れては消えた。


 有権者は暴虐非道な政治に歯向かうこともなく叩きのめされ増税と搾取に甘んじた。


「真実が伝わることがあるなんて、無いわ」

「信じているなら、大馬鹿よ」


 居酒屋では女性記者が酔っ払いながら喚いている。


 国民の負の感情の無意識が自然災害にも影響を与える・・・・・・。


 因果関係を知る陰陽師【安甲晴明あきのせいめいの子孫】は負の連鎖の仕組みを知っていた。

陰陽師おんみょうじの子孫である安甲晴美あきのはるみは、私立神聖女学園の教師で占い部の顧問をしている。


 独裁政治の利権者は、負のエネルギーの因果関係に気付こうとしない。


 街では皇都大の中立デモ隊がプラカードを掲げ練り歩いている。


 シュプレヒコールが原口駅付近に聞こえて来た。


 学生は抵抗していたが、大きな力の前では無力に近いと思っていた。

魔法でも働かない限り・・・・・・。


 デモに参加した学生が居酒屋で討論している。


「選挙の度、疑惑が浮上し投票箱のすり替え疑惑が起きるんだよ」

「そして、毎回揉み消されれる、この国って、やばくない」


「同じ筆跡の投票用紙がインターネットなどで公開されているよね」

「疑惑があっても調査もしない無神経さだよ」


 二百年もの独裁政権を維持し続けたカラクリを声に出して疑う者は多かった。

追求した正義感のある国会議員の多くは始末された。




 その十六年前の天界では、神々の準備が始まっていた。


 徳田家康の魂が転生の扉の前で現世うつしよに戻ろうとしていた時だった。

転生の扉の主人あるじに家康の魂の意識が話掛けた。


『転生は幾度目じゃろうかな』


転生の扉の主人が答えた。

「今回で七度目です。

ーー 魂の記録によれば・・・・・・」


 家康の魂の前世を見てみると歴史に残る勇者の名前がずらり並んでいた。


「すべては把握出来ませんが・・・・・・。

ーー 今回は【聖女】徳田康代として七度目の転生が決定しています」


 家康の魂は数え切れない転生を繰り返しては、国家を建て直したの魂だった。




 再び転生の扉の白い光の渦の前に、家康の生まれ変わりの魂が立つと、転生の扉が金色に輝いた。

家康の魂は天界からの転生だったのだ。


 しかし天界の魂には転生への流れがない。


 使(赤猫)は、使(白猫)に、家康の転生をお願いしていたのだ。


 女神エルミオは地球の異変を知っていた。


【女神アメリア】の[神使メリエ]が大きな白猫になってウインクした。

瞬間、金色の光の輪は大きくなって家康の魂を包み込んだ。

癒しの光は徐々に強く大きな黄色の光の輪に変化して透明な光になって消えた。


 家康の魂が現世へ転生したことを透明な光が告げていた。

白猫の神使メリエは元の大きさに戻ると、その場から消え光になった。




 家康の魂が転生してから長い歳月が流れたある日。


 地球の守護神の女神であるの意識が神使の意識に伝えた。


「天界の神使メリエにお伝えてください。

ーー まもなく始まりますと・・・・・・」


黒猫の姿のセリエが答えた。

「分かりましたアセリア様・・・・・・お伝えします」

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