第17話【晩餐】

久々の学校から帰宅したその日の夜。

私は月光家で大旦那様と婚約者達と夕食を囲んでいた。

婚約者達といっても夜空君はモデルの仕事、一葉さんは用事があるとかで今回の夕食の席には居ない。

それにしても月光邸で出されるコース料理はどれも見た目も味も完璧であり、私はその料理に舌鼓を打つ。


「そういえば羽闇ちゃん、今日から学校に復帰したんだろ?久し振りの学校楽しかったかい?」


「うーん…どうだろ。私が休んでいる間、何か変な噂が流れてて。」


「えっ、何それ!?いじめ?」


華弦の問いに溜息混じりで答えるとその話を聞いていた鳳鞠君は心配そうに声を上げたので頭を掻きながら苦笑いを浮かべる。

碓氷さんも黙ってはいるが箸を進めながらチラッと私に視線を向けたのを感じた、少しでも心配してくれたのだろうか?


「いや、違う違う。先週夜空君とデートしてたでしょ?実はそれを学園の生徒に目撃されてたみたいでさー、夜空君と私が付き合っているって噂になっていたの。夜空君って学園のアイドルって呼ばれてる位人気があるから思ってたより大事になってて…」


「それでどうなったんだい?」


「今はもう大丈夫。夜空君が誤解を解いてくれたから」


「なら良かった。星宮君がいるから心配いらないだろうけど何かあれば僕達も協力するから遠慮ない言うといいよ。」


華弦は首を傾げながら片手に持っていた水の入ったグラスを静かにテーブル置く。

星宮君のおかげで誤解は完全に解かれ、もう問題は解決となった為私は華弦に安心させる様な笑みを浮かべた。

鳳鞠君が


「それにしても夜空はいいよなぁ…羽闇と同じ学校なんてさ。しかも同じクラスなんて羨ましすぎる!」


「ってまりりんは中3なんだから飛び級でもしない限り羽闇ちゃんと同じクラスなんて無理じゃないの?」


「そもそもこいつの学力では飛び級なんて無理だな。」


「海紀、酷くない!?確かにテストは赤点が多いけどさぁ。てか華弦、まりりんって何だよぉ!?」


「年下には愛称で呼びたくてね。マスコットキャラみたいで可愛いじゃんか♪」


「みたいも何もマスコットだと思うが。」


「マスコット言うなっ!」


「私も華弦より年下のはずなんだけど…」


「羽闇ちゃんは年下というより婚約者として見てるから♪」


碓氷さんもしれっと会話に混じり込み華弦と2人で鳳鞠君をからかい始めていた。

わいわいと言い合っている空間は何だか平和な日常に戻れた様な気がして少し楽しい。

すると食事を済ませた大旦那様が席を立ち上がり際にようやく口を開いた。


「羽闇よ。次のデートの相手は決まったのか?」


「え?またデート?」


「当然であろう、まだ星宮としかデートをしておらぬではないか。直ぐに相手を決めるといい。」


そう告げた大旦那様は壱月を連れて食堂から出ていく。

そういえば夜空君以来誰ともデートしていなかったな、でも次の相手と言われても…。


「羽闇ちゃん、次の相手が決まってないなら僕とデートしちゃう?」


「羽闇、次は俺とデートしようよ!俺放課後デートとかしたい!」


皆も予定もあるだろうし次の相手をどう選べば悩んでいると華弦と鳳鞠君がいつの間に席から立ち上がっており私の両隣へと近づいてきた。

気を遣ってくれているとは思うが2人共目をキラキラさせながら自分を選べと言っているように私を見つめている。

碓氷さんは食後の紅茶を飲みながらその様子を横目に呆れたような表情を浮かべていた。


「2人共落ち着いて…何も次に拘る事ないと思うよ。」


「そうでもないでしょ。だって羽闇ちゃんがもう次の相手を正式な婚約者として選ばれてしまったら他の皆は婚約破棄になってしまうからさ。」


「そうそう!こう見えて俺達も結構焦ってるんだよ?」


「…俺は別に焦っていないがな。」


碓氷さんは彼らと一緒にされているのが気に食わないらしくボソッと鳳鞠君の言葉を否定していたが、鳳鞠君にだけはその言葉は全く届いていないようだった。


「でもしっかり見極めて選べば良いって華弦も言っていたじゃない。」


「次のデートで見極められたら終わりでしょ?」


「そうかもしれないけども…」


「なら絶対華弦に譲るわけにいかないっ!ね、俺を選んでよ!」


「いーや、僕を選びなよ。絶対後悔させないし一発で君を虜にしてみせるよ。」


ぐいぐいと迫ってくる2人にどちらを選べば良いのか分からず困惑していると、碓氷さんがティーカップを置いてまた口を開いた。


「ジャンケンでもしろ。」


「「あ」」


あ、ハモった…。

碓氷さんの言葉に2人は一瞬固まり、納得したのか拳を鳴らしながらバチバチに火花を散らして向かい合った。


「負けないよ華弦!」


「僕だって。これでもジャンケンには強い方だからね負ける気がしないな。」


「「ジャンケン―…」」


そしてこのジャンケンにより次のデートの相手が決まったのだった。

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