第16話【噂】

「うーん!久し振りの学校だー!」


「羽闇様、あまり無理はしないでくださいね。何かあればすぐにお迎えに上がりますので。」


「わかってるわよ。」


あの水族館の日から1週間が過ぎた頃。私は徐々に体を動かせるようになり、ようやく回復した私は本日久々に学校へ復帰する。

病み上がりという理由もあるが、以前の様に何者かに襲撃される可能性も踏まえて暫くは壱月に車で送迎して貰う事になった。

本当は学校もクラスも同じ夜空君も一緒に乗るべきなのだが、彼はモデルの仕事の関係で遅刻や早退が多い上に一緒の車に乗っているのを誰かに目撃されたら私達が同居している事が周囲にバレてしまう為別の車で送迎して貰うそうだ。


「ご到着致しました。」


「ありがとう、じゃあ行ってくるね。」


「はい、行ってらっしゃいませ。」


校門に到着し私は車を降りて教室へと向かった。

教室へ向かっている途中チラホラと生徒達からの視線を感じていた。

何だろう…。

不思議に思っていたがあまり気にしないでおこうと私は教室の扉を開ける。


「皆おはよー」


教室に入った途端に、クラスメイト達の視線が一気に私の方へと注目する。

私を見てヒソヒソと何か話してるけど何かしたっけ…?

気まずい空気になりながらも私は気にしていないフリをして自分の席へ座ると向日葵と陽葉がバタバタと足音を立てて話し掛けてきた。


「ちょっと羽闇!」


「やみちゃん!」


「おはよう向日葵、陽葉。そんなに慌ただしそうにしてどうしたのよ?」


「どうしたも何もないでしょ!?あんた学園中で噂になってんじゃん!」


「う、噂って何のこと…!?」


「あんた―…」


まさかあの水族館で戦っているところを見られたとか…!?

だとするとどう説明したら…。


「ほっしーと付き合ってるんでしょ!?」


「………へ?」


私と夜空君が付き合ってる?

私は予想外の言葉にあんぐりと口を開いてしまった。それに気付いていない2人はニヤニヤとした表情を浮かべてその話で盛り上がっていた。


「いやー、恋愛に興味なさげな羽闇がまさか相手があのほっしーなんてねぇ…ぐふふ」


「草原先輩の告白を断った理由はそれだったんだね。付き合ってるならもっと早く教えてよぉ。そういえば今度演劇部でオリジナルの台本を私が作るんだけどね、やみちゃん達を参考にしたいなぁ…!」


「ちょっと待って!話についていけてない…まず何でそんな噂が流れてるの?誰がそんな事言ってたの?」


「え?先週辺りだっけ、星宮君とデートしてたんでしょ?」


「実はマーメイドフィッシュキャッスルでやみちゃんと星宮君が手を繋いで歩いているのを見たっていう人がいて。星宮君はモデルもやっているし学園内にもファンクラブが作られてるくらい人気があるでしょ?それで学園中大騒ぎになってるんだよ。」


成る程、朝から視線が痛かったのはこのせいか。

手を繋いでいる場面を目撃してしまえば誰だって付き合ってると認識してしまうだろう。


「そーいやあの日、水族館で事件があったって聞いたけどそれは大丈夫だったわけ?」


「あぁ、あれね。私達お昼前には解散してたから大丈夫だったよ。」


「そうなの?暫く休んでいたから巻き込まれたんじゃないかと思ったけど無事で良かったぁ。」


事件の話になると、とっさに反応してしまいそうになるが何とか気持ちを落ち着かせ自分達は無関係だというように取り繕っておいた。

しかし夜空君とのデートは目撃されているものの水族館の戦いまでは目撃されていなかったらしい。

これも当然っちゃ当然よね、あの時お客さんは皆避難してたわけだし。


「で、話戻すけどさ!ほっしーとはいつから付き合ってんの?」


「私も気になる!」


ずいっと迫ってくる2人に圧倒されそうに加え、周囲にいる生徒達も先程よりも距離が近くなっているような気が…。チラチラをこちらを見ているし絶対聞き耳を立てているに違いない。


「いや、私達まだ付き合ってるわけじゃ…」


「僕が頼んだんだ。」


「夜空君!?」


私は周囲に圧倒されていると背後からの声と同時に夜空君が私を後ろからがばっと抱き締めてきた。

夜空君に片思いしている女子達はを酷く睨んでおり今にも飛び掛かってきそうな程に殺気を放っている…。


「おはよう、皆。実は今度恋人同士をテーマにした撮影があるんだけど、彼女っていた事がないから感覚がよく分からなくて。それで相談に乗ってくれた羽闇ちゃんに頼んで恋人体験をさせて貰っていたんだ。」


「あっ、だから手を繋いでたって…」


「そう、恋人らしく見えるように練習してたんだ。ね?」


「う、うん…」


夜空君を私ウィンクをして同意を求めてくる。

私はそれに応えるように頷くと先程まで私を睨んでいた女子達がホッとしたような表情へと変わっていく。


「誤解させちゃったみたいで本当にごめんね。」


私達が付き合っていない事に安心した人もいるが興味を失った人もおり、こっそりと私達を囲んでいた生徒達は各々と散らばっていき夜空君は申し訳なさそうに頭を掻いた。


「噂は耳にはしていたんだけど、ここまで広がってるとは知らなくて。僕のせいでこんな噂が流れちゃったみたいでごめんね。」


「夜空君のせいじゃないって!誰も悪くないと思ってるしそれに…夜空君の彼女になれた気分が味わえて楽しかったよ。また遊ぼうね!」


すると夜空君はほんのりと頬を赤らめて私の耳元へと近づいてきた。


「こんな事言ったら怒るかもしれないけど羽闇ちゃんと恋人同士だと思われて嬉しかった。本当の恋人に選ばれる様にこれから頑張っていくつもりだから覚悟してね。」


そう囁いた夜空君は満足そうな笑みを浮かべて自分の席へと戻っていった。

本当の恋人…。

私はその言葉の響きに胸がドキドキしてしまい、暫く夜空君を視界に映す事が出来なかった。




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