第15話【戦いの後】

「う…あれ…?」


瞼を開くと視界には白い天井があった。

私は自分の部屋のベッドに横になっていた。

頭もぼうっとしているし体が重くて動けない、私何で此処にいるんだっけ?

確かにあの戦闘が終わってから壱月達が迎えに来てくれて車に乗って…その後の記憶が全くない。

あの出来事は夢だったのか。


「ほう、もう目を覚ました様ですね。」


部屋にある窓辺の方から声が聞こえそちらへ顔を向けると、本を開いている一葉さんが足を組んで椅子に座っていた。


「一葉さん、何で此処に…」


「早目に用事が終わりましてね、帰ってきた途端に貴方の容態を見ておく様に壱月に言われたのですよ。夜空は少し安静にしていなければならない様ですし一応僕は貴方の婚約者に選ばれた身ですので。」


「そうですか…。」


どうやら夢ではなかったらしい。

私は体を起こそうとするがやはり力が入らず仰向けの状態のまま動けないでいた。


「具合はどうですか?」


「全く体が動きません…。」


「でしょうね。鍛えてもいない体で覚醒したばかり、ましてや力を使いすぎたとなれば当然数日はその状態のはず。ですが、てっきり5日は眠ったままかと思いましたが僅か2日で目を覚ますとは中々ですよ。」


ガタッと音を立てて立ち上がった一葉さんは読んでいた本を閉じ、ゆっくりと私へ近づいてくると私の頬を撫でてきた。


「月光羽闇…多少貴方に興味が湧いてきました。」


一葉さんは意味深な言葉を口にした瞬間、私に覆い被さり唇を奪おうと顔を近づけてくる。


「ちょ、ちょっと待って…何するんですか…?」


「…分かりませんか?無抵抗な貴方を襲おうとしているのですが。」


「はぁっ…!?何で…」


「興味が湧いてきたと言ったはずですが。どうです?このまま僕に愛されるというのは。僕は婚約者なのですからその位は許されるでしょう。」


まずい、このままだと本当に一葉さんにされるがままになってしまう。しかし無理矢理に体を動かそうにもやはり全く動かない私はただ固く目を瞑るしかなかった。

あれ?何も起きない…?

時間が経っても唇に感触が感じられず、おそるおそる瞼を開くともう少しで唇が重なるという寸前で止まったまま一葉さんがじっと私を見つめていた。


「一葉さん…?」


「フッ…期待させてしまいましたか?冗談ですよ。では僕は次の用事があるのでこれにて失礼…萱には貴方が目を覚ましたと伝えておきますよ。ではお大事に。」


パタン…


うっすらと口角を上げ一葉さんは私から体を離し、先程の読んでいた本を手にとって部屋を出ていってしまった。

私、からかわれていたの…!?っていうか期待なんてしてないし!

一葉さんは真面目でクールな印象があってとても冗談なんて言う性格じゃないと思っていたのだが、まんまと彼にからかわれてしまい恥ずかしすぎて顔から火が出そうになる。

その数分後には一葉さんから私が目を覚ましたという連絡を受けた壱月が部屋に入ってきた。


壱月によると、私はあの戦闘から2日間昏睡状態となっていた。

何故あの日車に乗った後の記憶がなかったというと、私と星宮君は車に乗ってすぐに気を失ってしまい各自自分達の部屋へと運ばれたらしい。

夜空君は昨日目を覚ましたらしいが歌の力で傷が癒えているとはいえ、まだ体力は回復しているわけではなく暫く安静が必要との事。

私の場合は一葉さんが言っていた内容同様、体が動かないのは覚醒したばかりの体で力を使いすぎが原因でありあと3日位はこの状態が続くようだ。

学校に行けるのは来週辺りになりそうだ…ここまで学校を休む事なんて今まで無かったから向日葵も陽葉もきっと心配しているはず。

水族館は爆発の影響で建物の損傷が激しく休館が続いているそうだ、再開の目処も立っていないとか。

そして爆発を起こした犯人はまだ捕まっていない、特定すらも出来ていない。

あの時、倒れていた麗夢と男2人は恐らく私達が去った後すぐに仲間に回収されていったのだろう。


壱月の話を聞いて少し安心した。

すると随分と眠っていたはずなのにだんだんと瞼が重くなっていき私は再び眠りに就いた。

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