第14話【歌】


「私…この姿は一体…?」


私は自分の姿を見て愕然としていた。

純白なドレスに膝上丈のブーツ、キラキラと輝くティアラにはあちこちにダイヤモンドのような宝石が散らばっており真ん中にはパールが埋め込まれている。

そして右手には一輪の月下美人が握られている。

もしかしてこれが覚醒した姿だというの?


「チッ…覚醒されましたわ…!」


舌打ちをして私を睨みつける麗夢はこの後の私の行動を警戒しているらしく地面に落とした大鎌を拾い構え出した。しかし先程の光の影響でまだ目が眩んでいるのかフラフラの状態で立っている、これなら奴の視力が回復するか私が何か仕掛けてこない限りすぐに襲い掛かってくる心配はないだろう。

それに覚醒したまでは良いがこの後どう戦えばいいかわからない。

すると手に持っている月下美人までもが突然光り出し月白色のマイクへと変化した。


覚醒したとなればこれで麗夢と対等には戦えるはず。

だがまずは―…

私は麗夢に背中を向け、気を失ったままの夜空君の傍へとしゃがみ込みそっと彼に触れる。

昔、お母さんはよく私に歌を歌ってくれていた。お母さんも歌が大好きな人で色々な歌を歌ってくれたが、私が怪我をしたり泣きじゃくっている時でないと歌わない歌があった。

TVやCD等でも聴いたことがなく、私はある日お母さんに「何のお歌?」って問いかけるとお母さんは何となく作った歌と答えていたが、もしかするとアレは代々伝わっているとされる歌で癒しの効力があるのかもしれない。

私は両手で握りしめたマイクを口元に近づかせて夜空君の事を想いながらお母さんが歌っていた歌を口ずさんだ。

間もなく星宮君の上からキラキラと黄金の小さな光が現れ同時に彼へと降りかかると麗夢に負わされた徐々に傷口が塞がれていく。


「う…」


完全に傷が塞がると夜空君の意識が戻り、ゆっくりと瞼を開いた。

体まではまだ動かす事は出来ないらしく仰向けにさせたままの状態で私は目に涙を溜めながら笑顔を向ける。


「羽闇ちゃん…その姿は…」


「夜空君、ここまで頑張ってくれてありがとう。後は私だけで頑張ってみるね。」


夜空君の傍を離れ、私は再び麗夢へと立ち向かう。

このタイミングで視力が回復した麗夢は大鎌を構え直す。

この後が問題だ…恐らく先程の歌は癒しの効力しかないと直感が告げていた。


代々伝わるとされる歌はお母さんが歌っていたあの1曲しか分からないし、そもそも私は昨日月光家へ迎えられたばかりだ。

この状況を逃れる方法は私が攻撃の効力がある歌を作りそれを歌って戦うしかない。

すると、何処からか流れてくる優しいメロディーが流れてきた。メロディーだけではない、頭の中に歌詞までもが浮かんでくる。

全く聴いたことのないメロディーだというのに歌える自信が湧いてくる、この女を倒せると感じた私はマイクを片手に構えた。


「私はあんたに同行もしないし死ぬつもりもない!夜空君を痛め付けた事、たっぷり後悔させてやるんだから―…覚悟しなさい!」


「はっ!覚醒したばかりの癖して図に乗らないで頂けます!?歌を歌わせなければ貴方を殺すなんて簡単ですわ!」


地面を思い切り蹴って空中から襲い掛かってきた麗夢は、先程星宮君にくらわせた真っ黒な風の様なものが私に目掛けて迫ってくる。だが、もう少しで命中というところで歌い始めた瞬間に黒い風が消滅した。


「まだまだァ!!」


消滅に愕然とする麗夢はハッと我に返り先程の攻撃を次々に仕掛けてくるが、歌を歌い続けている私に届かないまま攻撃はまた消滅していく。

攻撃が通じないと判断し大鎌を振り上げた麗夢がこちらへと向かってくるが近づけば近づく程苦しみ出し、頭を抑えたまま蹲る。


「ぐっ…あぁ!頭がァ、痛い…!息苦しい…!」


最後まで歌い上げる事が出来たのかだんだんとメロディーや頭の中に浮かんでいた歌詞が薄れていき、蹲っていた麗夢は既に気を失っていた。


「ハァ…終わった…?」


相当体力を消耗したらしく立っていられなくなった私はその場へ座り込み、やがて姿までもが元の姿へと戻っていった。


「羽闇様!」


私を呼ぶ声が聞こえ、後ろを振り返ってみると向こうから壱月と月光家の使いの者数人がこちらへと駆けつけて来るのが見えた。

壱月は座り込んだ私の傍へと駆け寄りゆっくりと跪いた。


「先程、星宮様からご連絡を頂いて…!お怪我の方は!?」


「私は大丈夫、ちょっと疲れちゃったみたいで力が入らないけどね。それよりも夜空君が…」


傷は何とか治せたけど覚醒したばかりの私の力ではまだ万全な状態ではないはず。


「僕なら大丈夫だよ。」


「夜空君!」


「星宮様、遅くなり申し訳御座いません。ご無事で何よりです。」


傷が癒えたとはいえまだ万全な状態ではない様で夜空君はフラフラと足をよろめかせながらこちらへと駆け寄ってきた。


「えぇ何とか…もう少しで死んじゃうところだったんですけど羽闇ちゃんに助けて貰ったんです。羽闇ちゃん、ありがとう。」


「私こそ…最初に私を守ってくれたのは夜空君だしお礼を言うのは私の方だよ。ありがとう。」


「お2人共、お話は後程。そろそろ警察が駆けつけてくるようですのですぐにこの場を離れた方が宜しいかと。」


そうだった。このまま此処にいると後々面倒な事になるかもしれない。

私達を襲った麗夢と男2人は気を失ったままだし放置しておけば警察が連行してくれるだろう、男2人は園内のあちこちに爆弾を投げ込んでいた犯人でもあるし目撃者も多数いる。


全身の力が抜けて動けない私は壱月に横抱きにされ、夜空君は使いの者に肩を貸して貰いながら私達は用意された車に乗りその場を去った。

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