第8話【婚約者②】

「星宮君っ!?」


「こんばんは、月光さん。待たせちゃったみたいでごめんね〜。」


息切れをしつつも頬をかいてアハハと困った様に笑う星宮君。

いつもの星宮君だ。


「ねぇ星宮君。どうして大旦那様に呼ばれているの?」


「どうしてって…僕が月光さんの婚約者に選ばれたからだよ。」


婚約者が私という事に驚かないって事は予め知らされていたんだろう。


「星宮からは学校のクラスメイトと聞いているし星宮の自己紹介は必要なさそうじゃな。」


「よろしくね、月光さん。…あ、この機会に羽闇ちゃんって呼んでも良いかな?」


「もっ、勿論!この状況だと苗字だと呼びにくいだろうし…」


何より嬉しい。


「うん。羽闇ちゃんも僕の事名前で呼んでくれて良いから。」


「ええっ!?良いの!?」


「勿論」


私に向けられたキラッキラな王子様スマイルが眩しすぎる。

名前で呼べる日なんて絶対来ないと思ってた。


「じゃあ…夜空君って呼ぶね。」


「分かったよ。仲良くしようね。」


夜空君から手を差し伸べられた手をおそるおそるとって握手を交わす。

し、幸せすぎる…!


「……ねぇ。いつまで2人の世界になってんのさ。」


「わぷっ」


ムスッとした顔の藤鷹さんが後ろからまた私に抱きついてきて鳳鞠君は羨ましそうに、一葉さんと碓氷さんは目障りというような目線を私と夜空君に注いでいた。


「いーなー夜空、早速名前で呼ばれてるんだもん。羽闇!俺も俺もー!」


「わっ、分かったから落ち着いて鳳鞠君!」


「んじゃあ僕の事も名前で呼んでよ。呼び捨てでお願いね。」


「か、華弦…。」


駄々をこねていた鳳鞠君もムスッとしていた藤鷹さんも名前を呼ぶと満足そうな笑みを浮かべる。

子供みたいで可愛い。


「………やっていられませんね。僕は部屋に戻ります。」


「…用が済んだなら俺も帰る。」


呆れたような表情を浮かべた一葉さんはため息をついては部屋を出ていった。それにつられて碓氷さんまでも部屋を出ていく。


「全員自己紹介が済んだ事だし今日はこれでお開きとしようかの。壱月、羽闇を部屋に案内してやれ。お前達も各自部屋へ戻れ!」


「はーい。羽闇、また明日ね!」


「じゃあね、僕の可愛いお姫様♪」


「羽闇ちゃん、また明日。」


残った婚約者達もゾロゾロと部屋を後にした。


「では羽闇様、お部屋にご案内致します。」


壱月さんに部屋を案内して貰っている最中なわけだけど…沈黙が続く。


「ねぇ…壱月さん。」


「羽闇様、私の事は壱月とお呼びください。その様な呼び方も敬語も不要です。」


「…壱月。あの人達もこれからこの屋敷に住むの?」


「ご婚約者方の方ですか?ええ、あの方達も此方に住んで頂きます、あいにく部屋は各自別室をご用意しておりますので羽闇様と同室という事はございませんのでご安心ください。」


「因みにいつまで此処に暮らすの…?」


「羽闇様がパートナーを選び無事婚約を迎えるまで、ですね。」


「うそでしょ…!何年もかかるかもしれないじゃない!」


大旦那様も私の呪いの為に尽くしてくれる事は分かっている。

でも私のせいで他の人達を結婚するまで此処に縛りつけるなんて…

何も出来ない私に腹が立ち歯を食いしばる。


「到着致しました、此処が羽闇様のお部屋です。」


壱月が部屋の扉を開くとピンクのレースやリボンが装飾された女の子が1度は誰もが憧れるような可愛らしい室内となっていた。


「何か不自由な事が御座いましたら此方のベルでお呼びください。食堂が御座いますが本日の晩餐は如何致しますか?」


そういえば夕飯の買い物をしてたのに色々ありすぎて食欲なくなってたな。


「いらない、食欲ないし。」


「…畏まりました。では奥に浴室が御座いますのでご自由にお使いください、寝間着はそちらにご用意しておきましたので。では私はこれにて失礼致します。」


パタン。


壱月が部屋を去った後一気に疲れが出てきてボブンとベッドに倒れ込んだ。


「疲れた〜!少し休んでからお風呂にしよ〜…」


まさかこんなに婚約者が現れるなんて思いもしなかった。しかも夜空君までその一員だなんて…!

一葉さんや碓氷さんは素っ気ないからまだよくわからないところもあるけど、全員イケメン度が半端ないしあまり認めたくはないけど各々私の好きなタイプに該当する部分がある。

そうだ、私は元々星宮君の事が好きなんだから夜空君をパートナーに選べば良いじゃない!


その瞬間、華弦の放った言葉が頭をよぎった。


【だからこそしっかり見極めて愛を育めるような相手を選べば良いんじゃん♪】


あの言葉が地味に引っ掛かり本当にすぐに星宮君を選ぶべきなのか悩んでしまう。

結局、私は考えを巡らせているうちにだんだんと瞼が重くなっていきそのまま眠りについてしまった。


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