【月の婚約者】誰を選べばいいかわかりません!!

第7話【婚約者①】

声と同時に後ろから抱きしめられる。

振り返るとそこには肩くらいまで伸びたラベンダー色の髪の男の子の顔があった。

つり上がった目つきに紅色の瞳。

妙に色気があるから大人っぽさがあるけどよく見ると年齢は私とそんなに変わらない10代後半だと思う。

「貴方、誰？」

私の問いにクスリと笑う彼は何も応えることはなく顔を近づかせてくる。

「まだ入ってこいとは言っておらんぞ、藤鷹。」

「だって待ちくたびれたんだもん♪これでも3時間も待ってあげたんだよ？皆ももう入っちゃばどうだい。」

藤鷹と呼ばれたその男は大旦那様の睨みにも動じずに（むしろ大旦那様の反応を楽しんでいるようにも見えるけど）私を後ろから抱きしめたまま扉の向こうにいる人物に声を掛ける。

すると扉の向こうからゾロゾロと複数人の男性達が部屋に入ってきた。

この藤鷹って人もそうだけど入ってきた人物達は誰もが認めるようなイケメンしかいなかった。

「羽闇よ、この者達が私が用意したお前の婚約者だ。では1人ずつ自己紹介をしろ。」

「まずは僕からかな、僕は藤鷹 華弦（ふじたか かげん）。羽闇ちゃんより2つ年上の高3だよ、よろしくね♪」

ぎゅうぎゅうと私を抱きしめながら自己紹介を終えた藤鷹さんは最後に私の頬にキスを落とした。

…この人チャラすぎる！

私を放してくれない藤鷹さんをべりっと剥がし、目の前に現れたのは焦茶髪のぱっちりとした蜜柑色の瞳を持つ可愛らしい感じの男の子。

「じゃあ次は俺ね！俺は火燈 鳳鞠（ひとぼし ほまり）。中学3年生だよ！良かったら俺の事は鳳鞠って呼んでね、俺も羽闇って呼んでいい？」

「う、うん。よろしく…」

悪気はないと思うが純粋にぐいぐいと迫ってくるところは何だかグッとくるような可愛らしさがあり弟系の様な男の子だ。

「次は僕ですね…一葉 舞久蕗（ひとつば まくろ）です。大学1年生。僕は基本1人で読書をするのが趣味でしてね…あまり関わらないでくれると助かります。ですので婚約者といっても僕を選ぶ事はないとは思いますがよろしくお願いします。」

次は翡翠色の腰まで伸びた髪を横に纏めた眼鏡をかけた男性。冷酷さを含んだ羊羹色の瞳は何故か右目だけ前髪で隠している。

関わらないでって…じゃあ何で婚約者に選ばれたの？私と同じ境遇かもしれないけど。

次は―…あれ？あともう1人居たような気がしたけどいつのまにか居ない。

と思ったら部屋の隅っこに居た。

一匹狼のような雰囲気を放つ漆黒髪の男の子。

右目がベビーブルー、左目がブルーのオッドアイがこれがまた綺麗だ。

「何やってんだよ！次は海紀だろ。ほら、ちゃんと自己紹介しろよ！」

海紀と呼ばれた男の子は鳳鞠君に手を引っ張られ私の前にドンッと背中を押されつつもしばらく沈黙が続き目を逸らして渋々といった様な態度で自己紹介をしてくれた。

「…碓氷 海紀（うすい みこと）。」

終了。

「それだけかよ！せめて年齢くらい言えよな。」

「……17。高2。」

鳳鞠君が言ってもこれか。

碓氷さんは自己紹介を終えたと何食わぬ顔でまた部屋の端っこに戻る。

「む…？お前達、【星宮】はどうした？」　

あと1人足りないらしく大旦那はキョロキョロと辺りを見渡すが此処には私と大旦那様と壱月さん、藤鷹さん、鳳鞠君、一葉さん、碓氷さんの計7人居ない。

って、星宮…？

まさか、ね。

その名前にドキッと反応してしまうがきっと同じ苗字の人だろう。

「そういや僕達が別室で待機している頃も来てなかったね、彼。鳳鞠君何か知ってるんじゃないの？」

「俺も今日は見てないよ。仕事だと思うけど…あ、来たんじゃない？」

廊下からバタバタと足音が聞こえてくる、その足音がだんだんと私達の居る部屋に近くなっていき―勢いで扉が開いた。

バタン！

「遅れてすみません！雑誌の撮影が長引いてしまって…」

「おぉ、よく来てくれたの。星宮よ。」

その星宮と呼ばれた人物は紛れもなく―私の好きな人である【星宮 夜空】、その人だった。