【番外編】先週は格闘技界が盛り上がりましたねって話

いつもの喫茶店。いつもの二人が向き合っている。


「昨日?いや、今朝!見た?」高橋は興奮した口調と眼差しと声量でで中川に問いかけた。

「ん?なにを?てか、声でかい。」真逆のテンションで返す中川。

「ラ・イ・ジ・ン!!RIZIN!!RIZINのアゼルバイジャン大会!!」少し声を落としながらも口調と眼差しは興奮を抑えることなく激しく主張した。

「格闘技か。見に行ったん?」

「アゼルバイジャンや言うてるやろ。行けるわけないやろ。PPVや。いやー、凄かったわ!!」

「あー、なんかニュースなってたわ。朝倉未来が会見でキレッキレに煽ってたんやっけ?」

「それはRIZINとは別のニュースや!RIZINのタイトルマッチで鈴木選手がチャンピオンになったんや!!すごくない!!??」

「鈴木選手ってのを知らん。」

「なんでや!!あのピットブルを倒した鈴木選手やん!!」

中川は右フックを繰り出しながら、さも自分が勝利したような顔を見せた。

「知らんねんて。仕事柄、RIZINは知ってるけど、携わったことはないねん。だから選手の名前も相当有名な選手しか知らん。」

「知ってる選手って誰?」

「朝倉兄弟、井上尚弥、那須川天心ぐらいかな。格闘技というか、スポーツにそんな興味ないからな。あっ、あとは矢地なんたら。」

「天津と井上尚弥はボクシングや。なんで矢地選手知ってるん?」

「ブルースリーが好きで、ジークンド関連でyooutube動画漁ってたら矢地なんたらにたどり着いた。ジークンドーの達人とコラボしてたんよ。めっちゃおもろいで。」

「朝倉兄弟もyoutubeで知ったん?」

「youtubeと、あとはツイッターやな。今はXか。よくトレンドに上がってるから、嫌でも目にする機会が多いで。鈴木選手ってのは申し訳ないけど全然わからん。」

「RIZINは知ってても、鈴木選手はわからんのか。」テンションのギアが徐々に落ちていく。

「興味ないジャンルってそんなもんちゃう?乃木坂46の次のシングルのセンターとかわからんやろ?」

「嘉喜遥香と遠藤さくらやろ。黒見が初の選抜入りは泣けるよな。」

「わかるんかい。」

「日向坂と櫻坂は全然わからんけどな。」

「俺もRIZINについてはそんな感じや。団体名は知ってるけどってレベルや。で、鈴木って人がチャンピオンになるのはそんな凄いん?」

「凄い!!って言うと本人に失礼かもしれんけど、下馬評をちゃぶ台返ししたな!しかも二戦連続!」

「二戦連続?

「そう、前回今回と強敵of強敵やったんよ。鈴木選手って勢いはあるし強いけど、前々回に当時のチャンピオンに完封されてしまったんや。強いけど、まだチャンピオンになれるレベルじゃないってのが世間的な評価で、それに加えて朝倉未来選手が中堅選手呼ばわりしてもうたから、多くの格闘技ファン、いやRIZINファンって言ったほうがいいか、その人らに中堅選手って刷り込まれてもうたんよね。」

「朝倉未来が言っただけで?」

「それだけ影響力強いんやわ。ファンも多いしアンチも多い。まあ、事実、中堅って言われても仕方ないような試合もあったけど、この二戦で海外の実力者を圧倒して実力を見せつけて、中堅じゃなくトップってことを実力でわからせたのが余計盛り上がったな。」

「そもそも朝倉未来はトップなん?」

「それがおもろいところでな、トップ選手には違いないねん。現に戦績を見たら、国内のトップ選手をバッタバッタ倒してるんよ。でも、ある海外選手に負けてから色々歯車が狂うねん。その選手ってのが、鈴木選手が前々回に負けた選手でもあるねん。」高橋は絵に描いたようなドヤ顔を見せた。

「同じ選手に負けてるんか。」

「で、鈴木選手が今回戦った相手は、朝倉選手がベルトをかけて前回試合して、完封された相手でもあるねん。」

「ややこしい。ドラゴンボールで説明して。」

「朝倉未来がベジータ、鈴木選手が悟空とするやん。まず最初にベジータがフリーザに挑むも完敗。で、フリーザと再戦するために一生懸命修行するねん。いきなり再戦するんじゃなくって、ギニュー特戦隊と戦いながら勝利していき着実に強くなっていくねん。」


たどどしい説明ながらも、何とか理解できる範囲ではある。中川は茶々を入れずに真剣に聞いている姿勢を見せた。


その姿勢を見た高橋は安堵した。なぜなら、自分自身何を言っているのかがわからない上に、既に着地点を見失っていたからである。

しかし今は、中川が着地点で笑顔を見せてくれている。

ただそこに着地すればいいいのだ。中川の胸に飛び込むつもりで高橋はつづけた。


「さていよいよフリーザとの再戦かと思ったら、フリーザは悟空と戦うことになったんよね。ベジータは悟空を下級戦士と思ってるから、フリーザが下級戦士を相手にしている間に、自分はさらに強いセルと戦うことでレベルアップを狙ったんよ。

蓋を開けると、ベジータも悟空も完敗。プライドの高さ故、自信満々なセリフを吐き続けて負けたベジータは、アンチからの猛攻に合うことになるんやけど、それが原因か自分のモチベーションかはわからんけど、なんとなく格闘技から離れることになるんよね。」

「アンチ多い言うてたもんな。そもそも、なんでアンチ多いん。」

「youtuberと格闘家っていう、二つのグローブをはめてることが気に入らんのちゃう?格闘技に専念してる人が、youtuberと兼任してるような選手に負けるのが気に入らんねやろ。それでも、勝ってるうちは良かったんやろうけど、負けると「ほらな」って、youtubeなんてやってるからやってなるんやろな。」


「それはアンチなん?勝ってるうちは認めてたってことやろ?」

「一人のアンチをクローズアップして追いかけてるわけやないから、心の移ろいはわからんけど、認めてたり期待もあったんちゃうかな?アンチのツイート見てると、格闘技に専念してないから負けるみたいな事を言うてる人も多いな。」


「格闘技に専念してほしいって気持ちが込められてるような気がしないこともないな。勝とうが負けようが、肯定派も否定派は絶対出てくるやろうし、文字で見た時にインパクトあるのは否定派の意見やから、そういう意見がトレンドになって、選手に届いてしまって、それが気持ちに影響するのは大いに考えられるな。ベジータみたいなプライドと承認欲求高いサイヤ人からしたら、負けた挫折感とそこを否定されることは屈辱以外の何物でもないやろな。色んな感情がはじめてまざった状態になって、格闘技やってられんってなるかもやな。」


「ベジータが距離を置いてる時間、悟空は何故か魔人ブウと戦うことになるんよ。ちなみに、魔人ブウとフリーザは既に試合済で、魔人ブウが勝利してる。」

「へー、いきなり更に格上と戦うんやな。誰が戦えって言うたん。」

「ビルス様やな。」

「それはしゃーないな。」

「普通に考えたら、フリーザに勝った魔人ブウに、フリーザに負けた悟空が勝てるわけないやん。」

「せやな。」

「それがな、、、勝ってまうねん。肉弾戦で勝利してまうねん。」

「やばいな。勢力図ごっちゃごちゃやな。」

「で、悟空はその勢いのまま、セルに戦いを挑むねん。で、勝つんよね。それが今朝の出来事。」

「それは凄いな。話だけ聞くと、ブウに勝ったんやから、セルには当然勝てるって感覚やけどな。」

「ブウ戦は調整期間が短くって、お互い万全じゃなかったって言われてる中の勝利やったから、もちろんめちゃくちゃ評価はされてるけど、万全な状態やったらわからんかったって意見も多かったんよ。それがセル戦でセルを圧倒したことで、悟空マジやべーってなったんよね。」

「ほんまに強かったってことを証明したんやな。そんな悟空を下級戦士扱いしてたベジータはどうなってるん?」

「下級戦士扱いしたことをネタにされて集中砲火やな。ベジータの方が下級戦士やんとか言われてるな。」

「しんどいな。自業自得な部分もあるけど、さっき言ったけど、インパクトあるのは否定的な意見やし、人の悪口って盛り上がるからなー。種まいて、水待ちや肥料待ち状態が続いた中、ついに水と肥料与えられたらグングン悪態つきながら成長していくわな。悪口や上げ足にだけ反応する集団ダンシングフラワー状態よな。」

「ダンシングフラワーって、一体動いてるだけでも目立つもんな。」

そう言いながら高橋はダンシングフラワーの動きを真似た。


「そうそう、綺麗な花がいっぱい並んでても、そこにダンシングフラワーが混じってたら、やっぱそっちに目がいくもんな。」

「ダンシングフラワー見てまう気持ちもわかるけど、ベジータには綺麗な花を見て癒されてほしいな。」

「練習は再開してるっぽいし、今回の悟空の勝利にもコメント出してるし、次の試合も決まってるで。」

「おお、それはよかったわ。コメントは何て出したん。」

「スレッズで格闘技って面白いって言うてたな。」

「悟空の試合が刺激になったんかな?悟空との試合もいつか見れたらええな。」

「悟空と試合したら勝てますかって質問にも答えてたで。」

「なんて?」

「高確率で勝てると思うよって。」


どこかでダンシングフラワーの踊る音がした。

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おじはる 高橋 @takahashisensei

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