第14話 世界の終わり(槍込聖)

 2日目の探索に皆を送り出し、僕も研究へとのめり込む。

 鉱石系統は特に目新しくないものばかり。


 てっきりオリハルコンでも拾ってくるのかと思いきや、今のところ僕の知ってるオリハルコンは出てこなかった。


 モンスターの素材も、強度的には何かに使われると思うが、取り急ぎこれに使えそうだってものはない。


 肝心なのは僕のやる気だ。

 これという創作意欲につながらないのである。


 武器を作るなら、もっと装備するものの気持ちや思いとか欲しいところ。

 けどよりによって、集まったメンツに対して武器にこだわりがないときてる。


 まず扱ったことのない代表、宝箱。飯句頼忠だ。こいつは却下。

 そもそも、宝箱はあいつのルールのもとに現れるギミック武装のようだ。

 僕が扱ったところで同様の効果が出るとは思わない。


 そもそも武器を持たないフリーハンドの磯貝章。こいつは論外。

 得意の武器が転移の時点で武器は使用しないことは明らか。

 なんだったらその転移でなんとかしてしまうのが目に見えている。


 なんでも武器は使いそうなものの、これと言って得意分野のない大塚秋生。

 作ってやれるのならやっぱ秋生か。


 アキカゼさんは、そもそも戦闘するのか?

 テイマー兼カメラマンという時点で意味がわからない。

 これも論外だな


『あのお魚さんは?』

「ああ、あの子か。一応武器使ってたな」


 トライデントか? 三又槍とも銛とも言える。

 海中戦闘が得意そうだし、ついでに作るか。


 やはり作る物が定まってないとダメだな。


『何を作るんです?』

「とりあえず秋生用に双剣かな? よく斬れるやつ。ついでに次元とか切り裂こうと思う。どうかな?」

『いいんじゃないですか?』


 やはり後輩はいいね。結構無茶な要求を出したのにそれを通しちゃうんだもん。

 普通は止められるもんね。

 これができるのは、後先考えてない人だけだよ。

 渡したらそこから先は自己責任。

 あとは使い手次第だ。


『それより先輩』

「何かな?」

『このダンジョンが崩壊を始めてます』

「ふーん、期限は?」

『持って今日くらいじゃないですかね』


 随分と急だな。

 それらしい反応は感じなかったけど?

 ソースどこ?


「何か予兆はあったっけ?」

『多分、手に負えない存在が降臨したからだと思います』

「誰経由?」


 どうせうちのメンツの犯行だろう。

 後輩はさることながら、僕もそれに近しい存在だ。

 秋生は……まぁ僕に巻き込まれた被害者だと思うし。

 うさぎの飯句頼忠か、エルフの磯貝章かだな。

 それかルリーエ連れのアキカゼさんか。


 どうしよう、不審者のオンパレードだ。

 もう誰が神格関係とか判明つかない。

 誰も彼もが怪しいのだ。

 そんな中で発表されたのは。


『アキカゼ・ハヤテさんですね。どうもあの方、クトゥルフと深い関わりがある人みたいです。きっとあのお魚さんはその眷属と見て間違いありません』

「ああ、だから魚なんだ?」


 割と有名どころが来たなぁ。

 CoCはテーブルトークRPGとしても有名だが、あの存在はこの世界に存在する!

 世界線によっては全く姿を現さないが、うちの世界にはいたからね。

 居た、というよりかは至ったって感じだけど。

 後輩はそのうちの一柱だね。


『私も近隣種なので分かりますが、結構大きな神様ですよ?』

「だねぇ。しかしクトゥルフかぁ。あんまりことを構えたくないな」

『それと、もう一柱、別ルートで降り立ちましたね』

「誰?」

『磯貝章です』

「彼も神様?」

『いいえ、そのペットがティンダロスの猟犬です』

「まさかの飼い主だった!」

『意外ですよね』

「本当。でもあの犬、イ=スの民の眷属じゃないっけ?」


 神格の関係についてはうろ覚えだ。

 そこら辺の知識はダンジョンコアの後輩からの受け売り。

 確かな情報かどうかも怪しかったりする。

 ソースが怪しいんだよね。


 とりあえずご近所づきあいする程度の知識詰めといてって感じで脳内に直接送り込んできた。

 なので中身は相当に後輩の思想が入ってる。

 片一方の意見を鵜呑みにするのもやばいとは思うけど、まぁ身内なんでどっちみち後輩の方を持つんだけどね。


 しっかしここにきて神様かー。

 もう一匹は飼い犬だけど、僕は何に巻き込まれたのやら。


『どうやらその犬から主人扱いされてるようです』

「ふーむ」


 まさかのご主人様だった?

 アキカゼさんより脅威度は低いが……

 それはそれで問題が一つ浮かび上がる。


「となると、彼は転移の他に現在・過去・未来の行き来もできるわけか。チートだな」


 僕も大概だが、世の中には上には上がいるもんだ。

 流石に異世界の扉を開け放題の権能はないもんなぁ。


『一人だけパワーバランスがおかしいですね。これは確かにイ=ス認定されてもおかしくないかと』

「アキカゼさんも大概だけどな」

『そうしますと』

「ああ……」


 完全に僕たちに巻き込まれた形の飯句頼忠、大塚秋生。

 彼らにはお悔やみ申し上げるしかないね。


「とはいえ、武器は必要だ」

『うさぎの飼い主には?』

「僕の力は必要なさそうだし、独力でなんとかしてもらうとして」


 椅子から立ち上がり、探索から帰ってきた全員を集める。


「お疲れ様。早速で悪いけど、みんな旅立つ準備して」

「どうされたんですか? 何か発見しました?」


 一番早く気がついたのはやはり彼、アキカゼ・ハヤテ。

 妙に感が鋭い。

 本当は記憶喪失そのものがブラフではないのか?

 邪推しても事態は好転しない。


「いや、後輩がこの空間が消滅すると報告してきた。どうやら特異点の干渉で、次元が乱れてるようだ」

「なんとも、傍迷惑な存在がいたもんですね」


 あんただよ、と内心でぼやきつつジト目を送りつける。


「そういえば、ルリーエ君はどうした?」

「え、ここにいますよ」


 そこにはすっかりサハギン姿なんて知らない顔をしている少女がいた。


「彼女がルリーエさんですよ。リコさんも見たでしょう?」

「そうだったっけ?」

『彼女は確かにルリーエのようです。あれがきっと本体なんでしょう』


 ああ、そういうことか。

 もう身分を偽る必要はないってね。

 

 理由はともあれ、向こうが何かしでかしてくれる前にこちらで一手打つ必要があるか。


「磯貝君、君に頼がある」

「なんすか?」

「我々をこの空間から一時君の世界へ転移してくれないかね?」

「ふーむ、ここを廃棄する感じっすか?」

「もともと君にとって価値のある世界ではなかっただろう?」

「それを言われると厳しいっすね。それと、この世界出身者の前でそれをいうのは無しっすよ」


 磯貝章の指摘で、大塚秋生の存在を思い出す。

 そういえばここは彼の世界か。


「いや、すまなかった。僕たちとしても、ここで共に果てるつもりはなくてね。よかったら君も来るかい?」


 選択肢は与えておく。

 ここから先は彼に委ねる。


 置いていくか、共にゆくか。


 死にたがっている彼を見捨てるのもまた選択肢の一つだ。


「また戻ってくることができるのなら、共に行きます」

「そうか、なら進もう」


 手を取る。そして促した。


「いやいやいやいや、何勝手に決めてんすか。俺らまだいくって言ってないっすよ?」

「私も」

『僕もです』


 僕はにっこりと微笑んだ。


「じゃあ、消えゆく世界と共に果てるがいい。行こう、秋生。磯貝君」

「え、ここで見捨てるなんて選択肢出てくるの? こわっ」


 存外、彼は情に熱いようだ。


「やだなぁ、言っただけですよ。もちろん、私たちも付いていきますとも。なぁ、ルリーエ?」

『ハイ!』

「そうだぜリコさん。俺たちももちろんついていくさ。なぁ、秋生?」


 だったら最初からそう言えよ。

 面倒な奴らだな。


 磯貝章の転移魔法により、僕たちは全く知らない世界へと飛んだ。

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