第12話 理想の関係(ルリーエ)

 こんにちは。僕はルリーエ。

 どこにでもいるお茶目な魚類さ|◉〻<)


 と、冗談はさておき。

 ひょんなことからハヤテさんが記憶を失っちゃった!

 これはチャンス!

 じゃなくっていい機会だと思うことにする。


 ハヤテさんはいつでも僕に優しいけど、ちょっと距離があると思ってたんだよね。

 一線引かれてるっていうの?

 そう言うのを取っ払いたいんだ!


 そこで僕は囚われのお姫様(仮称)を演じ、助けてくれたヒーローにハヤテさんを据えた(人型形態には気分で成れる)

 けど余計な雌猫が僕の計画を邪魔してくれた(ムキー)


 リコって名乗ってたけど何者なんだろう。

 クトゥルフ様なら知ってるかな?


 教えて教えてー。


『あれは私に近しい存在だ。人型ではなくスライム型の方がね。こちらから仕掛けなければ特に害はないと思うぞ』

『りょーかい!』

『その世界は収束しつつある。飲み込まれる前に一度戻ってきなさい。彼を失えば我の損失も大きい』

『はぁい』


 クトゥルフ様は概ね良心的にアドバイスをくれる。

 さすが!


 そんな中で出会った将来有望株。

 ハヤテさんほどではないけど、見込みのある若者は二名。


 それが飯句頼忠と大塚秋生だ。


 僕の本体を見せた瞬間に魅了してしまったのもあるけど、その魅了が効いてる間にサハギンモードに戻っても魅了効果は切れずにいた。


 大塚秋生の方は死ぬのが怖くないのか、将来的にハーフマリナーになるお茶(濃い目)を飲んでも特に何ともなかった。

 これを怪しまず飲み干し切れる相手は僕はハヤテさんしか知らないな。


 今のうちに唾でもつけておくか?

 仲間は多い方がいいもんね。


 そして飯句頼忠。

 あれもハーフマリナーの適性が高い。

 ルルイエとの関係者にも見えるけど、神気は余り感じない。

 その高い幸運で何かを犠牲にしながら今までやってきたみたいだ。

 つまり耐性はそれほど高くない。


 これはある意味でチャンスかな?

 厄除けのうさぎもまだ復活してない。

 仕掛けるなら今か!


 そんなわけで僕は一芝居打つ。


『お二人とも、ここらで一つ休憩としませんか?』


 鰓から引っ張り出したこたつと備え付けのみかん。

 二人には魚型の座布団に座るように促した。

 ハヤテさんは何かを感じ取って座布団は避けて座る。

 それを見ていた飯句頼忠は、好意に甘んじてその座布団に座った。


 |⌒〻⌒)ニコリ


 突如尻の下から『グエー、死んだンゴー』と叫ぶ音声。

 口の中から胃袋を吐き出し、目を真っ白くしながら痙攣する座布団を薄気味悪いものを扱うようにぽいっと捨てる飯句頼忠。

 あーあ、君にはがっかりだよ。


 |◎〻◎)スンッ


「だから言ったじゃない、やめておきなさいって。この子は昔からこういう悪戯が大好きでね……あれ? 何だか私の知ってる記憶と違うな……私はこの子を引き取ってまだ数週間しかたってな……あれ?」

「もしかして記憶が戻ってきてるんじゃ? リコさんの薬による効果が徐々に戻ってきてるとか?」

「だといいんだけどね。ルリーエ、君らしくない行為は誤解を招くよ?」

『ごめんなさい。少しでも重い気分をほぐそうと思って』

「あれ? 私たちそんな辛気臭い顔してた?」

「モンスターを倒しすぎて周囲から敵がいなくなっちゃってた問題はありましたよ?」


 二人して心当たりが一切ないみたいに言う。

 そう言うところだよ?


「そういやそうだね。みんな山田家を召喚すると逃げて行くんだよね、不思議と」

「新たな支配者が現れたって認識じゃないっすか?」

「すぐに帰っちゃうのに不思議だね。モンスター同士で口コミでもされてるんだろうか? あっち行くとやばいぞって」

「そんな賢いモンスターがいるわけないじゃないっすか」


 飯句頼忠の鋭いツッコミ。

 モンスターの中で知恵を持つほどの上級存在とは出会ってきてないみたいだ。

 神気を感じなくても不思議ではないか。

 じゃあなんで僕の匂いがしたんだろう?

 そこが謎。


「そうかな? 私の接してきたモンスターは賢い奴ばかりだったよ? スズキさんもそうだったし」

「鈴木? モンスターなのに日本名みたいな存在がいたんですか?」


 それって僕の事ぉ?

 スズキ、それは僕が颯さんに接触する時に使ってた偽名だ。

 本当の姿では外に出歩くことはできなかったので、サハギンを操って彼の前に辿り着いた。

 いや、目的はまた別にあったんだけど。

 やる気をなくしてた頃に彼から手を差し伸べられたんだ。


 こんな薄汚れたサハギンでいいの? って周囲を見渡しながら聞き返したけど、構わないって手を握り返してくれたのは思い出の一つ。


 人でありながら、人外に身を託すなんてそうそうできないことだよ。

 それがきっかけで僕は颯さんのことが大好きになっちゃったんだ。

 もちろん一番はクトゥルフ様だけどね!

 二番目に人間を選ぶなんて思いもしなかったな。


 気分が良くなった僕は全員にすかさずお茶を振る舞う。

 海の匂いがするお茶だ。

 基本的に茶柱を浮かせて縁起のいいようなものに見せている。

 これをやると颯さんは喜んでくれたんだ。


『粗茶ですがどうぞ。喉も乾いたでしょう?』

「ありがとう、ルリーエ。お、茶柱が立ってる。これは縁起がいいぞぉ」

「うっ、生臭い……何なんすか、これ?」

「普段からこの子はこれぐらいの味覚だよ。食事そのものは味付けしたものも食べられるけど、自分の味覚に合わせた調理法ゆえにお茶からしてこうなる。別に無理して飲まなくったって大丈夫だよ? 私は慣れてしまったので味わい深いものさ」

「ぐぅう、試される覚悟……せっかくルリーエちゃんが淹れてくれたお茶。飲めらぁ!」


 二人して飲み込むのを確認。

 そして僕は第二形態へ。


 溶け出す魚ボディ、内側から人型のボディをさらけ出す。

 ふふふ、見てる見てる。


「ルリーエさん!」

『あれ、僕……』

「少しづつ呪いが解けてきてるのかな?」

『うえーん怖かったですー』

「よしよし」


 よし、さっきまでのイタズラのことなんて誰も気にしてないぞ!

 計算通りだ。


 ハヤテさんの胸で抱かれ、瞳をうるうるしながら震える。

 か弱い僕だからこそできる演技だ!


「その格好では寒いだろう。私のコートでも着なさい。少しは温まるぞ?」

『ありがとうございます(? 別に寒くはないけど頂戴する)』

「なるほど、こういう場合はそう言う対応かぁ、参考になるなぁ」


 僕がハヤテさんのコートを待とうと、飯句頼忠は何やらメモに書き殴っている。何してるんだろう?


『あれは何をしてるんですか?』

「彼は恋人が欲しくて欲しくてたまらない17歳の男子高校生でね。モテはするんだけど、選り好みが激しく、ようやく射止めた彼女はいるものの、せっかくデートしてもご飯を奢って終わりという悲しいデートしかできてないみたいなんだ。だったら私がエスコート術を伝授しようと、そういう話で決着がついてね」

『僕とハヤテさんを参考にっていうことですか?』

「そんな感じ」


 つまり魅了はたいして効いてない?

 でも僕に気があるようなそぶりを見せるのは何なんだろう?

 ちょっと複雑な気分。


 ハヤテさんが仕留めたモンスターを魚の顔の形をしたポーチに吸い込みながら一緒に行動する。


「そのポーチ、サハギンだった頃の顔と連携してるんだ?」

『これだけ分解しきれずに残ってたんです(大嘘)』

「謎だなぁ! でもポーチなら言ってくれたら俺も持ってるから、遠慮せずに言ってよ!」

「頼忠君、そうやってガツガツ行くのはマイナスですよ? 有能アピールは程々にしないと女性に限らず一般的な感性を持ってる方は引きます」

「あちゃー! やっちまった。それとなくアピールしたつもりなんだけど」


 確かに今のタイミングで来られたら、せっかく僕の見せ場の一つである無限収納を邪魔するいやなやつにしか感じないからね。

 僕じゃなくても引くと思う。

 でも僕は優しいから、そんなことで目くじら立てないよ?


 ちょっと|◎〻◎)スンッ ってなるだけ。

 まぁ興味もちょっとは失せるかな?

 そこまでして仲間にしたいってわけじゃないしね、

 ふーん、だ。


「そういうのはそれとなく見せるべきさ。受け渡す時にアピールするんじゃなくて、少なく提供する。じゃああの量はどこに行ったのか? って時にこっそり伝えるんだ。半分は自分が持ってる、これでおあいこだって言って聞かせれば悪い気はしないでしょう? 全部女性に持たせるのは男として情けない行為です。例えそれが女性の得意分野だとしても、後で喧嘩した時に切り札として持ち出されてしまう。けれど半分半分なら、切り札たりえません」

「そこまで考えての半分持っておくということなんすね!」

「けど、喧嘩しないに越したことはないんです。これはあくまでも相手に言質を取らせないための方策ですね。一緒に暮らしてると、ちょっとしたことで相手の機嫌は悪くなります。そういう時にいかに誠実に暮らしていたかがお互いに試されるのです。けど、喧嘩はしないに限りますが、そういう時でもないとお互いの主張は相手に届かないこともあります。男は女性の気持ちを汲んでいても、中には言葉で示さなければ届かない女性もいるからです。こういう相手とは頻繁に喧嘩をして、心の奥に溜め込んだ鬱憤を吐き出させてあげましょう。全てを受け止めるのも男としての器量ですよ?」

「なるほどー」


 まさかの切り返しに僕もびっくり。

 ハヤテさん、普段からそこまで考えて行動してたの?

 何も考えずに周囲を巻き込んでるだけかと思った。

 でも何でもかんでも丸投げじゃなくて、思えば重要なメッセージはしっかりと伝えてたよなぁと思う。

 あの時も、あの時も。


『僕も何か鬱憤を晴らした方がいいんでしょうか?』

「無理して吐き出す必要はないよ。それとも私に何か隠してることでもあるのかな?」

『ないですけど、もしかしたらそういう記憶を思い出すかもしれませんよ?』

「それでも、私が君と出会った時間は裏切らないさ。私は君を信じるよ、ルリーエ」

『あっ……わぁっ……』


 言葉が出てこなくなる。

 これこれ、たまに不意打ちで放たれるこういう言葉に僕はハヤテさんに引かれてしまうんだよなぁ。


「くっそ効いてますね」

「頼忠君はその口調をもう少し改めた方がいいね」

「素です」

「彼女がそれで納得してくれるんならいいけど、社会に出たら通用しなくなるよ?」

「あー……一応社会でそれなりの地位にいるんですよね、俺」

「なるほど、それ故の口調か。これは出過ぎたアドバイスをしてしまったようだ」

「いや、全然! むしろそういうこと言ってくれなきゃ気付かないこともあるんで!」

「と、まぁこうやって相手によっては無意識に使ってる普通のことが周囲に勘違いを生ませることもある。君の場合は口調で周囲に対するイメージが悪くなってるよね」

「え? 今の女性に対する鬱憤講座の続きだったんすか?」

「そうだよ。君の彼女さんも意図せずして周囲の団体から嫌われるような行動を取ってることがあったりした場合、こうやって何で嫌われてるかわからずに、鬱憤を募らせることがある。やたら構ってくるような時は、そういう鬱憤を聞いてあげてお互いにスッキリするよう気遣ってやれるのも男の甲斐性さ」

「勉強になるっす!」


 すっかり恋人同士のやり取りトークに夢中になるハヤテさんと飯句頼忠。

 僕はむくれてハヤテさんの胸の中に飛び込んだ。


「おっと。どうやら男二人でトークに盛り上がってしまったようだ。ルリーエがむくれてしまったね」

「なるほど、これがその状態かー。俺もカガリにこうやって引っ付かれる時あったんで、何でだろうと思ってはいたんですよね」

「そんなに信頼おかれてるのに、まだ一線越えてないの? むくれてる原因は君のその性根だったりしない?」

「アキカゼさんだってルリーエちゃんに手は出してないじゃないですか」

「私には愛する妻や娘、孫たちがいるからね。この子は孫の一人のようにしか思ってないよ」

「あれ、さっき天涯孤独の身って言ってませんでしたっけ?」

「言ったかな?」

「言ってましたよ、もう忘れちゃったんですか? それとも記憶が蘇ってきてるとか」

「そうなのかな? どちらにせよ、ルリーエは保護する対象であって恋愛対象には選べないよ。なんせ一番最初にくたばるのは私だからだ。伴侶に先立たれるのは何よりも辛いことだろう? そんな顔を見たくない」

「俺は死なない自信があるっすけどね」

「自分が死ななくても、相手が不慮の事故で亡くなった場合、引きずらない自信ある?」

「めちゃくちゃ引きずりそう」

「そうならないためにも、相手は選ぶんだ。自分が守れる範囲でね」

「ルリーエちゃんはアキカゼさんの手に余ると?」


 |◉〻◉)えぇ!

 今日一番のショックを受ける。

 僕と線引きしてる理由ってそれだったの!

 心のどこかで手に余るって思われちゃってるってコト!?


 ハヤテさんは何とも言えない表情ではにかんで回答を濁していた。

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