第10話 ダンジョンの正体(槍込聖)

 集まった素材をみて、なかなかやるじゃんと褒め称える。

 ほとんどが見たこともない生物である。


 と、いうのも大体が僕が動く前に後輩がなんとかしちゃうからだ。

 現にここら辺一体は後輩のテリトリー。

 こうやってのんびり家を作ってくつろげるのは、ここに後輩というボスモンスターが徘徊してるからなんだよね。


 で、僕に至っては、ここのモンスターの生態系すら知らないってわけ。

 後輩曰く『グロテスクなので見る価値もありませんよ!』とのこと。その勝ちを決めるのは僕なのに、僕から遠ざけるとはなんということか。

 まぁ、グロいのは普通に嫌いなので、彼女なりの配慮なのだろうと思うが。


「君たちなかなかやるじゃんか。これなら何か作れそうだ。そうだ、君たち、何かこんな武器とか欲しいとかない? 解体用ナイフとか、解体用ナイフとか」


 僕以外にも誰か解体仲間を増やしたい。そんな気持ちで募集を募るも……

 一斉に目を逸らすメンバーたち。

 しかしそんな中でも果敢に手をあげるものがいる。


「僕、覚えたいです」


 そう、秋生だ。

 こちらの世界では僕に師事しなかったにも関わらず、本質は変わらないらしい。死にたがりだった彼がこうも変わった原因は?

 考えるまでもなく、一緒に行動したハゲタカ爺さんことアキカゼ・ハヤテの影響が大きいか。


 焦げた石や焦げた肉しか持ってこない使えない爺さんぐらいの位置付けが、記憶を取り戻した途端に無傷で獲物を捕らえてくるようになった。

 そこに秋生は関与してないのが原因で、自分だけが役にたってないという焦りが何か役に立ちたいという衝動を欲しているようにも見える。


「よし、本当なら順序立てて教えていきたいところだが、このよくキレるナイフ『まるでゼリーのようだ』を貸してあげる」

「まるでゼリーを掬い取るように刃が入るんですか?」

「お、鋭いね。切れ味というよりは刃先を中心に溶かすといったほうがわかりやすいかな?」

「おっかないですね。もしかして人に向けたら人も溶かすんですか?」

「安心してくれたまえ。モンスターにのみ反応する」


 秋生は後輩と爺さんの連れてる魚類、ルリーエに目を向ける。

 どう考えてもモンスター枠の二人に目配せする彼に僕が言えることはただ一つ。


「くれぐれも向けちゃダメだよ? ただ、うちの後輩の場合は反撃してくる。君でも容赦なく殺すだろう。僕が接してる相手だからというだけで生かされてるだけだからね。僕に必要ない、邪魔だと感じたらすぐにでも殺そうとしてくる。彼女はほら、見た目こそ人に寄せてるけど中身はスライムだから。そもそもそんなチンケなナイフが通用するとは思わないでくれ。あの子、ルリーエのことはよく知らないけど、死んだらアキカゼさんは悲しむと思うよ。好きこのんであんなのを連れてるくらいだし」

「あんなのって言い方は」

「僕だって人のこと言えないけどさ。正直、アレの生態系はよくわからない」

「確かに」


 納得しちゃうんだ?

 まぁ、高校生(?)チームが現れる前は人生相談受けてた相手だもんね。

 そこまで心を許せる何かがあるか、あるいは疲れ果てて自暴自棄になってるかのどちらかだろう。

 僕は後者を押すね。


「とはいえ、ナイフそのものは犯罪防止のために腕輪に格納され、犯罪を犯したら腕輪が反応しなくなる仕掛けさ」

「色々考えられて作ってるんですね」

「そりゃ、僕の武器を殺人に使って僕が咎められないために法規制するに決まってるじゃない。被害者は加害者と同時に犯罪に使われた武器の制作者を恨むもんだよ」

「勉強になります」


 雑談を交えながら秋生に人生訓や犯罪被害者の気持ち、ついでに解体のなんたるかを教えながら指示出しをする。


「じゃあ、皮剥ぎだけでいいからここから向こうまでやっといてくれる?」

「はい!」


 元気一杯の返事を聞き、うむ!と頷く。

 やはり若い子はこうでなくちゃいけない。


 爺さんと学生(?)たちの採取チームが何やら缶詰を開けて食事をとっている。

 中身は定かではないが、空腹を満たし、味覚中枢を刺激する麻薬を摂取でもしているようだ。危ない薬の摂取はやめて欲しいものだが、止めるほど仲がいいわけでもない。


 いうて、僕も副作用バリバリの薬物を摂取する側だしね。

 人のことを言えなかったりする。

 なので止めない、好きにしてればいいんじゃないの?

 あとで腹痛を訴えたら、それに対しての治療として内容物を調べればいいだけだし。


 錬金術で、まずは融合を試みる。

 使い込んで錬金窯で煮込むこと5分、出来上がったのは暗黒物質–ダークマター–だった。


 それを薬品に混ぜてさらに融合。失敗を恐れないのかって?

 こんな者は失敗してなんぼ。むしろ成功なんか稀だ。

 やれば確定で成功するのは研究じゃなくて、生産だよ。

 レシピが確立されてるイージーモードさ。


 研究っていうのは一からレシピを創造する地道な日々の積み重ねを指す。

 まぁ僕くらいになれば遊び感覚で変なのが出来上がるんだけど。


 そのうちの一つが例のモン半解除役。

 合間に違う窯で玉こんにゃくを茹でつつ、日本酒をちびちびやりながら研究は進む。


 この玉こんにゃくを茹でながら酒をちびちびやるのも大事な儀式の一つである。味付けの醤油を誤って研究用鍋に投下するのは、摂取したアルコールの具合で決まるのだ。

 この時のアルコール摂取量によっては失敗するし、成功もする。

 線引きが非常に難しいのだ。


 そもそも飲んでるやつがどれくらいの量を口にしたとかいちいち数えてないしな。僕が重い思いにやる理由は、その方が楽だから。

 彼らには悪いが、ここに数ヶ月はとどまる覚悟はすでに完了済みだ。


 どのみち彷徨い歩いたところですぐに帰れる保証はどこにもない。

 なんせ新しいこの地域のボスになってる後輩ですら脱出手段を導けてないのだから。

 焦らずに地道に研究を重ねる。


 なんだかんだ、探索に行ったものたちは危なげなく帰ってこれた。

 今日明日死ぬような連中じゃないし、大丈夫だろう。


 僕としても急に素材が途切れるのは避けたいからね。


『先輩! 見てください!』


 後輩がぴょんぴょん跳ねながら僕の膝の上にのる。


 猫耳を生やしたスライムは、触手を生やして僕に綺麗に光る石ころを届けた。


「何これ? 魔石?」


 受け取って光にかざすと七色に輝いた。

 まん丸とした表面からは信じられないほどの輝きだ。

 まるでダイスカットしたダイヤモンドみたいな輝きに感嘆とする。

 魔石ならこうはいかない。アレは血のように赤い、心臓に生える結石みたいなやつだからね。


『多分似たような類のものじゃないかと思うんですよー。何かの研究に役立てられたらなって』

「問題はどこから排出したかだね。彼らの採掘物?」

『ああ、いえ。モンスターを捕食してたら、体の中でまとまって一つになったので見せつけにきました』

「おやつ感覚でモンスター摂取しないでくれない? 研究用のモンスターもいるんだからさ」

『てへぺろー』


 それを言えば許してもらえると思ってるな?

 まぁ許すんだけどさ。

 この子は僕が怒ったところで考えを改めたりはしないからね。

 それに本気で怒ることはしないもんだ。


「まぁ、生態系が崩れて素材の入手ができなくなるまでつまみ食いをしなけりゃいいよ」

『それはもう注意してます。そもそも、ここのモンスターはダンジョンというにはあまりにも出生が不確かです』


 うん? ダンジョンコアでもある後輩がこうまでいうなんて面白いな。


「その根拠は?」

『コアそのものが、ないんですよね。まるでこの世の怨念が収束して出来上がった悪意の産物みたいに。だから徘徊するモンスターも悪意マシマシで、まぁだからこそ人類未到達の素材がゴロゴロもしてるんですが』


 後輩の食べ残しのこの石もそういう類なんだとか。

 

『それとこれは不確かな情報ではありますが』


 後輩が声を潜めて言う。

 この世界に自分と同じ存在がいる。場所こそ特定できないが、まるで自分たちはその腹の中に閉じ込められているようだ、と。

 つまりは僕たちは知らず知らずのうちにその大きな存在に捕食済みだと言うわけか。

 なるほどね、ダンジョンに見立てた生物の腹の中とは笑わせてくれる。

 どうりで生きて帰れる人類が少ないわけだ。

 生物の腹の中、失っていく人間性。

 変化する肉体。呪いと呼ばれる正体は……


 つまりはそう言うことだろう。

 ここは最初からダンジョンでもなんでもない。

 生物の体の中。

 秋生のいうダンジョンは、クソでかいモンスターの口だったわけだ。


 そして後輩が言うにはそいつはダンジョンコアと同格存在。

 しかし僕たちの世界線にはいない存在であるらしい。

 全く、よくもやってくれたという気持ちでいっぱいになる。


 だが、正体が掴めたところで手詰まりなのは一緒。

 ここが腹の中であろうと、どこに向かってる最中かを知る由はない。

 食道か、はたまた胃袋か、腸かもしれない。

 それを知ったところで僕たちに選択肢はないのだ。

 そもそも溶かして食い、養分にするのが最終目的であるのか?

 相手の目的がわからない以上、僕らは何もできないのは同じことだ。


「まぁいいや。これはありがたくもらっとくね。あと向こうで怪しい食べ物配ってるのでもらってきたらどう?」

『私はモンスター肉だけで十分ですよ?』

「あのルリーエですら美味しいといって食べてるみたいだから進めたんだよ」

『あの子がですか?』


 同じモンスターである同士、味覚もまた一緒だろう。なのに人間と同じものを食べて、さらには美味しいとまでいう。後輩も興味が湧いたようだ。


「なんなら僕の分ももらってきて。興味あるから」

『はぁい』


 るんたった、とかけていく後輩を見送りなが、さてどう脱出したもんかねと僕は答えのない回答を解くのだった。

 この場所に集められたと言うことは、それぞれが何かの意味を持つのだろう。無作為という可能性もあるが、まだまだ何かありそうだ。

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