第9話 適材適所(飯句頼忠)

「で、二人してこっち来たわけだけど」


 うさぎたちなしで平気か?

 章に促されて俺は「できらぁ!」と答える。


「いや、頼忠が平気ならいいんだが、ミッションは大きく分けて二つだ」

「探して持って帰る、それだけだろ?」


 二つもあるか?


「バカ。持ち帰る手段はどうするよ?」

「なら問題はない。俺の幸運はすでにマジックポーチを複数所得している。多少デカくても持ち帰れるさ」


 むしろ持ちきれなくて途中で捨てるまである。

 めちゃくちゃ被るんだよ、マジックポーチ。


「そりゃ結構。じゃあ俺は採掘関連だなぁ」

「一緒にモンスター倒してくんねぇの?」


 ここにきてハシゴを外される。

 転移って言ったら魔法の中でも結構えげつないやつだろう?


「俺はお前が思ってる以上に無力だぜ? 転移で相手を真上に移動させて自由落下で殺すしか手段が取れねぇ」

「普通にえげつないぞ、それ?」

「そうなんだよ、リコちゃんの無傷で捕える、または生け取りするのに俺は向かないんだよ」

「心臓抜き取ったりとかは?」


 我ながら酷い提案だが、章は否定するように首を横に振る。


「場所がわかんなきゃどうしようもねぇよ。お前特定できんの?」

「できねぇ」

「じゃあ、無理だよ。まぁお前が戦って危なそうだったら転移で助け舟出すから」


 それでも十分助かるが、本人には特に大した労力でもないふうだった。

 やっぱこいつとは価値観あわねぇな。

 転移とか俺ならたくさん悪用するのに。


「とりあえず、一匹倒して宝箱入手してからだな」

「お前のいう宝箱がどういうもんかわからないが、まぁ倒してからの話か」

「確かにピョン吉達がいなくなって少し心細いところもあるが、幸運1万は普通にすごいんだぜ?」

「お前の普通が俺の知ってる普通と同レベルと思うなよ?」


 章に言われて妙に納得する。

 こいつもまた、俺の日常とは違う世界を回ってきてるのだ。

 俺にとっての当たり前は、こいつにとっては大したことじゃない可能性もあるのだ。


「ちなみに転移を使える人って章の世界では何人かいたのか?」

「いるわけないじゃん」

「草」

「俺しか扱えなかったから、死ぬほど集られたぞ?」

「あー、俺もそうだわ」


 宝箱で殴ってるやつは俺以外にもいたが、俺と同じ効果を出せるやつは皆無だった。


「ってことで、手当たり次第に攻撃していけばいいのかな?」

「それでいいと思う」


 適当に会話を打ち切り、ラックアクセルボウを構えて開戦!

 とりあえず空を飛んでる鳥に向けて第一射。

 死ねオラァ!


飯句頼忠の攻撃!

<クリティカル!>

死告鳥に146,200のダメージ!

<+5発動!>

死告鳥に146,200のダメージ!

死告鳥に146,200のダメージ!

死告鳥に146,200のダメージ!

死告鳥に146,200のダメージ!

死告鳥に146,200のダメージ!

<オーバーキル!>

死告鳥をやっつけた!


 プラチナボックスを手に入れた

 死告鳥の肉を手に入れた

 非常食を手に入れた


<+3発動!>

 プラチナボックスを手に入れた

 プラチナボックスを手に入れた

 プラチナボックスを手に入れた


<+1発動!>

 プラチナの鍵を手に入れた

<+5発動!>

 非常食を手に入れた

 高級非常食を手に入れた

 ブリンクソードを手に入れた

 ブリンクシールドを手に入れた

 ブリンクアーマーを手に入れた


「プラチナボックスシリーズは初見」

「いやいやいやいや!」


 俺にとっては見慣れた景色も、やはり章にとってはツッコミどころ満載だったか。

 まさか今更ツッコミを入れられるとはな、懐かしい感覚である。

 ブリンクシリーズは任意的に+1の効果を得られるみたいだ。

 攻撃なら2回攻撃。盾なら2倍にして反射。鎧は分身。

 俺なら自前であるので特に必要ない、そういう系統。

 世に出ればそれなりに価値は高そうだ。


「なんで一回攻撃した後に矢が分裂して鳥が死んだんだ?」

「俺のスキルの効果だな」


 そういやスキルの説明はしてなかったな。

 幸運に付随する能力だが、むしろ幸運がでかいからこその効果とも言えるのですっかり忘れていた。


「お前のスキルってなんだ? 幸運が絡んでるのはわかるんだが」

「+1ってやつでな。一度攻撃すると、運が良ければ同じ効果がもう一本! みたいなやつだ。なお、幸運依存でひどい時は+1、+2、+3、+5が連続で発動して確定でオーバーキルする。いや、確定は言いすぎた。この世界のモンスターにゃ通用しない場合もあるかもな。今回は運がよかっただけだ」


 章は手がもげるんじゃないかというほど手を横に振る。


「えっぐい能力だな、お前のスキル! 俺の転移が可愛く見えるぜ?」

「それはない」


 そんなに驚くことだろうか?

 すっかり感覚が麻痺してきてるのでわからないが、そういえばご一緒するたびに乾いた笑いを浮かべられたのを思い出す。


「転移スキルほどじゃないだろ?」

「いや、正直生で見るまで、そんな大したスキルじゃないと思ってたんだよ。運がいいから回避がすごい程度の」

「まぁ、実際は攻撃やドロップに適応されるから攻撃回数とドロップがやたら多いだけだよ。非常食出たからやる」

「これってうまいのか?」

「さぁ?」

「さぁってお前」

「うちの世界の考察班が、その人が今まで口にした食事を加味して旨み成分を抽出するから誰が食ってもまあまあか、すげーうまいって感想を出すそうだ」

「なんだその抽象的なアイテムは」

「俺もよく知らねーんだよ、まぁ腹は膨れるしいいんじゃねぇの?」


 正直、そういうアイテムって感じで深く考えてる人はいない。

 ダンジョンのアイテムってそういうの多いじゃん?


「じゃあもらうな。ああ、ほんとだ、うまい! 説明は難しいけどただただうめぇ!」

「謎の旨み成分が含まれてる。ちなみにそれは非常食で、こっちが高級非常食」

「食っていいのか?」

「ダブってるからいいぞ?」


 拒否するまでもない。

 俺には見飽きたタイプのアイテムだ。


「ああ、こっちはヤベェな。旨みの洪水が口の中で暴れてる!」

「満腹感もやばいぞ。ダンジョンの必需品みたいなもんだ」

「一回これ食ったら他の食えなくならないか?」

「ちなみに宝箱の中でのハズレ枠だ」

「やっぱ恐ろしいよ、お前のスキル」

「そりゃどうも。ただ問題が一つ」

「なんかあるのか?」

「死体がでねぇ」

「あぁ……」


 振り出しに戻るってやつだ。


「転移でさ、水の中に沈めて溺れさせるとかできる?」

「先に湖なり海なり探さないとだぞ?」

「あー、索敵系呼んでくるんだった! 大塚だっけ? あいつ詳しそうだったじゃん」

「そうなるとアキカゼさんと魚人ちゃんに任せるわけだが」

「魚人じゃなくてルリーエちゃんな? 二度と間違えるな!」


 なぜあんなに可愛い子を気持ち悪いものを見るような目で見るのか!

 これがわからない。


「それなんだけどさー、お前やたらあの子庇うじゃん。そんなに可愛かったの?」

「正直にいう、テレビのアイドルなんて目じゃねぇ! 俺は生まれてこの方あの子ほど可愛い女の子を見たことねぇ! 断言する」


 章は俺を可哀想なやつでも見るような目で見つめてくる。


「童貞特有の妄想の類は?」

「だ、だだだ誰が童貞じゃい!」

「いや、お前」

「そういう章はどうなんだよ!」

「俺? 奥さんいるよ」

「まさかの既婚者!」


 裏切られた気分になり、身構える。


「裏切り者ー!」

「お前の能力ならいくらでもモテるだろ」

「いや、俺も彼女いるけど」

「ほらー」

「だが聖なる祝福がどうとかで、デートとかしても飯を奢って終わりなんだよな。その先に繋がらない。どうしたらいいと思う?」

「それって都合のいいお財布扱いされてねぇ?」

「言っていいことと悪いことがあるだろお前ぇえ!」


 要石さんはちょっと燃費が悪くて食い意地が張ってるけど、ちゃんと俺の彼女なんだよぉ!

 ほんとだぞ、騙されてないかんな!


「それはともかくとしてだよ。モンスターどうする? 持って帰らなきゃいけないんだぞ?」

「ワンチャンこれで手を打って貰えねかなぁ?」


 非常食を取り出す。

 呆れたように章はため息をついた。


「食いもんじゃなくて、薬の素材の話だぞ?」

「ワンチャンないか」

「なさそう」


 だめじゃん!

 結局モンスターを溺死させるためにマップを練り歩くことになった。

 そこでうまいこと見つけて、溺死させ、俺のマジックポーチに詰め込む。

 この手に限る!


 章に至っては、崖を抉るような形で転移させて、適当な素材として扱っていた。どう言った鉱石かを判別できる奴がいないから無理、と早速諦めモードである。


 クラスメイトに鑑定スキル持ちがいたから全部任せてたそうだ。

 いる時はいいけど、いなくなって初めて価値がわかる人だ、それ!


 結局俺たちは戦力としては過剰もいいところだが、鑑定と索敵があまりにも乏しいから次行く時はメンバーを変えて行った方がいいということになった。


 正直、今回組んだのだって気心が知れてるくらいのもんだったからな。

 次は別の人と組もうと思った。

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